都市 プロローグ3 村
「おまえは何者だ」
隣の檻の穴から顔を出した幼女にそう尋ねた。
「私ですか?ええと」
幼女は、質問の意図がわからずに困っている、というような顔をした。
「質問を変えよう。いままでお前はどこにいた?」
「どこにいた?ええと。それなら、ずっとここですけど」
「嘘をつくな。つい数秒前までお前の気配をまるで感じなかったぞ」
「はうう。そういわれましても」
幼女は困ったような声を上げた。
「おい。独房で囚人同士話すのは厳禁だ」
「囚人じゃない」「囚人じゃないです」
俺と幼女は、ほぼ同時に男に向けてそう言った。
「静かにしてほしいのなら、お前がこの娘が何者かを言えば済む話だ」
「おまえにそれを知る権利はない」
「教えておかないと、たぶん俺もお前も酷い目にあうぞ」
「私を脅すつもりか?この無礼者」
「いや残念ながら違う。この幼女はおそらく"ただもの"ではないだろう。俺たち二人まとめて死んでもしらんぞ」
「おまえは一体何を言っている」
男は気が狂った人間でも見るかのような目で俺にそう言った。
実際、この幼女は得体が知れない。
もし幼女の言うことが本当だとすると、こいつはずっと自分の気配を完全に隠しきれていたことになる。
繰り返すが、俺が人間を含むあらゆる動物の気配を、一切感知できなかったというのはそれだけで異常なのだ。少なくとも俺が人生において、その気配を感知させなかった人間はこの幼女を除いて、他に一人しか知らない。
「あのお。どうして二人とも死んでしまうのですか?」
幼女は目を丸くして、不思議そうな声でそう言った。
「俺はお前を殺し屋だと考えてる。それもとてつもなく凶悪な」
「ころしや?あなたひどいです」
幼女は大きな声でぷんすかと怒りながらそう言った。
「殺し屋でない証拠はあるか?」
「うう。そんなこと言われましても」
幼女は半泣きしながらそう言った。
「そうか。ならば今着ている服をすべて脱げ」
「はううううう。って!!あなた酷いですね!! よく、女の子に向かってそんなことが言えますね!!」
「そうすれば殺し屋でないと認めてやるんだ。上から下まで全部だ。丸裸になれ。早くしろ」
「丸裸?ななななんてことを言うのですか」
「お前。あと君も。これ以上余計なことを話すな」
男はそんな俺たちのやり取りをさえぎってそう言った。
「邪魔するな」「邪魔しないでください」
俺と幼女は男に向けてほぼ同時にそう言った。
「私、とにかくこの人のこと許せません。もっとたくさん懲らしめてください」
「ああ。私もそう考えていたところだ」
男ははじめて笑ったような顔でそう言った。
「おい」
俺はそう言った。
「やっぱりいいです」
「でもまた酷いこと言ったら、もうぜったい許しません」
幼女はそう言うと、すっかり機嫌を悪くして、俺と正反対の方を向いた。
「俺はお前が何者なのか知りたいだけなのだがな」
「だからって脱がせようとするなんてひどいです」
幼女は俺に聞こえるかギリギリの範囲でそうつぶやいた。
「ちっ。初めからお前が教えてくれりゃ、こんな面倒なことにはならなかったのによ」
「………」
男は無言だった。
「ええと。たぶんですけど、そこの方も私のこと知らないと思います」
すると幼女はやや平静を取り戻し、そう言った。
「なんだって?」
「多分、ですけど」
「静かにしろ!!」
男がそういうと、小屋はこれまで以上に静けさを増し、同時に小屋全体に悪臭が立ち込めた。




