都市 プロローグ2 村
そこは確かに小屋だった。機能としては囚人達を収容しておく牢屋と
なんら変わりのないものだったが、それは牢屋と呼ぶには、あまりにも簡易的に過ぎたし
家畜を飼育する檻と表現する方がまだ適切だった。
俺は中年の男の怒りに触れ、その取り巻きともいえる若者五人に連れられ、檻に入れられた。
若者の内の四人は俺を檻に入れると、祈祷をするべく広場の方へと去ってしまった。
小屋に残された一人の男は俺の監視役なのだと予想できた。
「いつになったら出してくれるんだ」
俺は監視役の男にそうたずねた。
「まだ話す気力があるとな。この無礼者め」
「俺もこんな所で道草食えるほど、のんびり生きちゃいないのでね。なるべくなら一時間くらいで出してもらえると助かるのだが」
「それを決めるのはお前じゃない」
男はやや呆れたような口調でそう言った。
「お前か」
「違うな」
「それなら偉い人に早く出すよう伝えてくれ」
「命があるだけでも感謝しろ。第一、巫女様に無礼を働いたものは皆死ぬことになっているのだ。
今日は特別な日だから許されたのだ。よりにもよって祈祷を冒涜するなどと」
男はそうブツブツと言った。
「巫女様ねえ。あの幼女がそんなに偉いのか?」
「聞かなかったことにしてやる。次言ったら首が飛ぶからな」
実際、巫女とはいっても白装束に赤い袴を纏っているだけで、十代そこらの少女と何ら変わりはない。
壇上で話すだけのことはあって、年齢の割にはしっかりしていたし、手際の良さを備えていたのは確かだが、結局のところ、あの年齢では物事の道理や分別もまだついてはいないだろう。
「巫女様はいかにして、こうにも崇拝されるに至ったのでしょうか」
「お前に教える義理はない」
「つれない奴だ」
このような堅物と豚小屋のような場所で過ごすのは、退屈極まりない事だ。
それでもわけのわからぬ祈祷をさせられるよりは、幾分とましなのかもしれない。
それから暫く沈黙が続いた。正確には俺が何かを尋ねるたびに、男は無言を貫いた。
「お前、暇じゃないか?」
檻の向う側にずっと立っている堅物な男に、俺はそう問いかけた。
「……」
「暇なんだろ」
「悪いか」
「だったら俺の話に付き合え」
「無駄話はしないよう、言われている」
「まったく律義な奴だな。俺以外誰もみていないというのに。ここで宴を開いたってバレやしないぞ」
「そういうの。よくないと思います」
瞬間、ここにいるはずのない人間の声を間近で聞いた。
俺は条件反射的に、すかさずポケットから刃物をとろうとしたが、今それを持っていないことに気付いた。
その声の主は、間違いなく気配を完全に隠していた。
俺は職業柄、他の人間に比べて、ずば抜けて人の気配を読むことに慣れていた。
だからここに俺たち二人以外の人間がいるという時点で、気味の悪い事であり、実戦なら死んでいた可能性もある。
何故なら俺が平常状態において感知できない人間と言うのは、俺より何枚も格上の殺し屋の類に違いないからだ。
しかし、最も驚くべきなのはその声の主が、その声から考えてみて幼女を思わせたことだ。
少なくとも、俺が最近目にしたどの女よりも若い女だろう。
あの巫女よりも若いはずだ。
俺が思考を巡らせている矢先、俺の隣のまだ誰も入っていないはずであろう檻の地面と同化した、藁でできた大きな敷物が動いた。
そして垣間見えた穴から幼女がひょっこりと顔を出した。
幼女であったのはまさに俺の予想通りだった。
「見てないからってズルはよくないですよ」
幼女は俺に向けてそう言った。




