都市 世界解説
村はどこも同じようなものだった。
俺に言わせれば、どこも皆一様に腐りきっていたし、その腐敗がある一定の秩序のようなものを作り出し、<都市>を支える基盤をより強固にしている、といっても過言ではなかった。
何もそれは村に限ったことでなく、腐敗の程度に差はあれど、王都も、ましてや王宮だって、本質的には変わりはないといえよう。
とはいっても、搾取する側とされる側、支配する側とされる側、知る側と知らない側、生きる側と死ぬ側、(そんな二項対立は挙げれば無限にあるが)は両者とも確かにきちんと存在していて、その境界線はこの<都市>において呆れるほど単純明快であった。
腐敗の程度の差異というのは、結局のところそういった上下関係によるものだ。
この世界には二つの壁がある。
第一の壁は、都市全体を覆う境界であり、地表に住む我々にとっては無限といってもいい高さの分厚いコンクリートの壁だ。
人は構造的に世界の外に出ることはできないし、世界の外側に何があるのかも、皆目見当がつかない。
その分厚く無限のように高い構造物は、都市に内在的に備わっている何かしらの機能を持つ物体に思えた。
(例えばとある星では重力と呼ばれる星自体に備わっている固有の力によって大気が地表に留まり、その大気によって生命は活動できている)
一方、第二の壁は、<大災害>において、都市の中心である王都とその他の区域を隔てるため、人の手によって作られた構造物である。
それが都市全体を丸め込む巨大なシステムを築き上げ、両者の世界に差異が生まれた。
というよりは、結局のところそれも差異を意図して造り出された構造物なのだ。
<大災害>から15年が経つ。
これを機に、この世界における平穏は失われた。
あるいは元々平穏といったものなどはこの世界に存在せず、その都市が抱える膨大な<虚>の部分がほんの少し明るみに出ただけなのかもしれない。
15年前の大災害で、都市の人口は全体の3分の2にまで減った。
上空の裂け目から漏れ出たマグマは、都市の外周である第一の壁を伝わり、地表へと流入し、山村部を一瞬で焼き払った。
やがては都市全体を飲みこむのではないかという声も絶えず、被災地区から最も離れた王都にまで、混乱は拡散していった。
それゆえ、人は流れ出るマグマを堰き止めるべく王都の外周に第二の壁を作った。
災害直後、食糧難、インフラ難、難民の発生、犯罪の増加、数々の問題が世界をじわじわと襲った。
国はそれらを解決するべく、できる限りのありとあらゆる政策を施行した。
例えば、国が運営する防衛局は被災地に赴き、食料を調達したり、混乱を緩和させた。
しかしどれも都市全体の腐食を止める、根本的な解決にはならないだろうと予想できた。
山村部に蔓延する淀みは、やがて王都、王宮にも伝播し、都市全体を腐敗しかねないのだ。
そこで国は王都内部の人口を規制することで、世界全体に広がる淀みのようなものを食い止めようとしたのである。
これより国によって実用的かつ非道な政策が大掛かりに施行された。
身分証を持たない多くの人間は、王都から追放された。
その時、本来マグマを堰き止めるのに使われるはずだった第二の壁は、端的に言って、生きるべきものと死ぬべきものを分けるのに非常にうまく機能したのだ。
王都の内にいるものは生きるもので、王都の外にいるものは死ぬべきものということだ。
事実、王都の外では常に死と隣りあわせだった。
山村部は絶えず貧困であったし、満足な住居、衣服も得ずにただひたすら労働した。
それだけでも随分と地獄のような場所であると思えるが、更なる絶望が外側の民を襲った。
森や山村部を中心に、上空から謎の魔物が姿を見せるようになったのだ。
彼らは鷲のような胴体に黒い翼を持ち、飛来してきては人を喰らった。
人は彼らを竜と呼び、憎しみ、怒り、嘆き、やがては怯え、恐れた。
誰も竜に抗おうとはしなかったし、到底抗える存在ではなかった。
彼らは広義の意味で不死の存在と言っても過言ではなかった。
やがて竜を神として崇め、皮肉にも同種である人間を贄に捧げる種族すら現れ、それが他の村や町にも伝播し、山村部全体に伝わる風習となった。




