都市 第1章4 村
俺達は彼女と別れ、村の外へと出れる細い道を進んでいた。
「どこへ向かっているのでしょうか?」
幼女はそう尋ねた。
「先へ進めばこのあたりから出れると言っていた。聞いてなかったか?」
彼女はさっきからずっと上の空のように感じられた。
「はい」
彼女はしょんぼりした声でそう言った。
しばらくして彼女は突然足を止めた。
「どうした」
俺は彼女にそう言った。
「あの、私やっぱりこの先は行けません」
彼女は、何か重大な決心をしたような調子でそう言った。
俺は返事をする気にもならなかった。
「ここでお別れです」
彼女は続けてそう言った。
「そんなに痛い目にあいたいか?」
俺は低い声でそう言った。
「はい。そうかもしれません」
彼女はそう言った。
「でもここから出てしまう方がもっと痛いです」
「今出てしまったらもう二度と帰ってこれない気がするんです。お姉ちゃんの所に」
彼女はそう続けた。
「お姉ちゃん、ねえ」
俺は薄笑いを浮かべながらそう言った。
「あいつはもう死んだ。お前が小屋に戻ったところで何も起こらない」
俺はそう続けた。
「死んでいないです」
「いいや。死んだ。あのときあのトンネルで」
「死んでいません」
「それどころか身体までボロボロに崩れているだろうな」
「やめてください」
「事実を言っただけだ」
「やめて!!」
彼女は両手で耳をふさいで大きな声でそう言った。
そして彼女の目は少しばかり滲んでいた。
「やめてください。聞きたくないです。あなたなんかにお姉ちゃんの何がわかるんですか?」
「死んだことくらいはわかる。それ以外は知らないし興味ないね」
「あなたってほんとう冷たい人です」
「よく言われる」
俺は少し笑いながらそう言った。
そして彼女の方へと近づいた。
「来ないでください」
「随分嫌われたものだな」
「お姉ちゃんとやらが、今のお前をみて何をするか再現してやる」
「お姉ちゃんの話はもうしないでください」
彼女は大声でそう言った。
「来ないでください」
俺は構わずに彼女の方へと近づき続けた。
彼女はただ大声で喚きたてるだけで、もはや逃げる気力すら残っていなかった。
俺は息遣いが聞こえてくるくらいの距離まで詰めると、思いっきり彼女の頬を平手打ちした。
「痛っ」
彼女はそう言った。
そして潤んだ目で、俺に訴えるような視線を向けた。
彼女は俺がしたことと同じことをしようとしたが、俺に届くほどの距離もなく、力もこもっていなかった。
俺は彼女の腕を抑えた。
「いや。はなしてください」
俺は彼女の腕を離した。
「俺は同じことを何度も言うのが一番嫌いだ」
「今俺がお前にしたことをわすれるな。そしてよく考えろ」
俺はそう言って、彼女に背を向け、村の外へと早足で向かった。
そして、とうとう彼女の気配すら感じられなくなった。
どのくらいの時間が経過しただろう?
私にはわからない。
私には難しいことはよくわからない。
彼の言っていることがわからない。
彼が私を叩いた理由もわからない。
彼が怒って行ってしまった理由もわからない。
お姉ちゃんはどうして死んでしまったんだろう。
私にはわからない。
彼が殺したのだろうか?
私にはわからない。
でもそれは違うと思う。
だって彼は冷たい人なんかじゃないって思うから。
冷たい人はあんな風に怒ったりしないんだ。
なのに私はひどいことを言ってしまった。
でもいいんだ。
もう私には関係のない人だから。
「どうした?もうチビりそうか?」
年配の兵士は、部下に向かってそう言った。
「と、とんでもない」
兵士は取り繕ったような明るい声でそう言った。
「足が震えているぞ。こんなのでは全滅だな」
年配の兵士はそう言った。
「ぜ、全滅ですと?まだ死にたくありません!!」
部下はそう言った。
「このあほう!!兵士足るもの死を恐れるな。確かに、死ぬのはダメだ。絶対あってはならん。だが恐れてはならん。
まったくどうして最近のやつは」
年配の兵士はそうぶつぶつと言った。
「副隊長は怖くないのでありますか?」
部下はそう尋ねた。
「怖いに決まってるだろう」
年配の兵士はそう言った。
「はあ」
「怖いというのは健全な感情だ。だが今のお前らを鏡で見てみろ」
「そんなもの持っていませーん」
「殴り殺されたいか?」
「いえいえ。嫌です。絶対嫌です」
「ああ。その調子だ。仕事中だ。くだらないことは頭から消せ」
「あのお。恐怖は消えてないですけど。色々な意味で」
「ちっこい頭で余計な事を考えるでない。ションベンにでもいってこい」
「はい!! 今すぐして参ります!!」
そういうと兵士は雑木林の方へと消えて行った。
「あいつ本当に我慢できなかったんですね」
残った部下はそう言った。
「上司をなめるな。お前らの考えている大体の事はわかる」
「ぼ、膀胱の状態まで掌握済みですと?さすがは副隊長。視野がお広い」
「お前。ここにお前の首を置いてこの物騒な森に銅像でも建てるぞ」
「ひ、ひえ~。ご勘弁を副隊長様」
「あんまり副、副しつこくつけるな。今は俺が隊長だ」
「了解であります!隊長様」
「はっはっは。それでいい。それでいい。苦しゅうない」
「本物の隊長様の前でも、そうお呼びしますか?」
「命の保証はしないぞ」
「本物の隊長様は器がお広いから大丈夫です」
「本物の隊長様はそうかもしれんが、こっちの隊長様はいささか気が短いんだ」
「わかりましたわかりました。言いません!」
「おい少し黙れ」
「はい?」
「奴の帰りが遅い。ションベンに行ったきり戻ってこないぞ」
「チャックにでも挟まったんですかね」
「行くぞ。宝の匂いがむんむんしてきやがった」
「これじゃまるで盗賊みたいですね」
「悪いか。似たようなもんだろ」
「おっ。開き直った」
「いいか。お前らこれまで以上に集中しろ。こっからは俺らの飯がかかってる。ガチモードだ」
「ひえっ」
兵士は甲高い声を上げた。
「わーびっくりした。副隊長だった」
兵士はそう言った。
「どうした。一体何があったのだ」
副隊長はそう言った。
「ええと。それがですね。ここで用を足そうと思ったらですね」
兵士は一つの木を指さして視線をやった。
その先には木にもたれかかって午睡をしている幼女の姿があった。




