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都市 第1章3 村

俺は彼女をじっと睨んだ。

いまにも動き出そうとする足を。

「どうした。狼が怖いか?」

俺はそう言って彼女を挑発した。

彼女は俺の言動に対してふっと笑いを浮かべていたように見えた。

しかし、突然彼女は口元をギュッと引き締めた。

それはこれまで以上に、一切無駄のない、整った顔つきだった。

すると彼女は、何か重大な事にでも気がついたかのように遠くに視線をやった。

「少し隠れていろ」

そして、彼女はそう言った。

それは俺に向けて発したものだと、理解できなかった。

しかしどう考えても今ここには俺と彼女しかいないし、幼女は木の裏側に隠れていたので、

言ったものだと受け取ることにした。

どちらにせよ、ここから身を隠して、一刻も早く離れた方が良い気がしたので、俺は幼女の隠れている所へと戻ることにした。

俺も彼女と同じようにに人がやってくる気配を感じたからだ。


幼女はひどく退屈そうな様子で、俺の言われた通りに木の裏側に座り込んでいた。

俺が戻ったことに気付くと、少しだけ心配そうな顔で俺の事を見上げた。

「もう行っていいですか」

幼女は小声で俺にそう言った。

「しばらくここにいよう」

俺はそう言った。

ここらの土地勘にそれほど精通しているわけではない。

というより昨夜少し通っただけだ。寺院や小屋へと向かう道は一本しか知らないのだ。

路を通ることはできない。

はじめから通ることができない気がしていたのだ。

俺らを探す兵士たち、村人たち、誰からも会わずに道を進むことなど出来やしない。

俺はまたぞろぞろと兵士たちがやってくるのをみた。

さっきの兵士たちとはまた違うように思えた。

彼らは、彼女に向かってこう伝えた。

「隊長。村人も、誰一人やつらを見ていないそうです」

「そう」

彼女はそう言った。

「はい。まだこのあたりから出ていないかと思います」

兵士はそう言った。

「ご苦労様。そうね。確かに出ていないと思うわ」

「このあたりから山道へと抜ける路はこれしかないわね」

「はい。普通はこの道を通る以外は考えられません」

「しかし、森を抜けて向かうことも不可能ではないです」

「そう。だったら私は森を探索するわ」

「森の中は危険です。それはあくまでも可能性の話です。

森に入っても、迷ってしまって、獣に襲われるか飲まず食わずで死んでしまうかです。

ここは我々にお任せを」

「迷うような人間なら籠を奪うことなどできやしないわ。それに少し心当たりがあるの」

「こ、心当たりとは?」

「なんでもないわ。とにかくあなたたちは路をから目を離しちゃダメよ」

「しかし隊長を一人で行かせるわけには参りません。我々も同行します」

「やめて。来てはだめ」

「し、しかし」

「やめろ。隊長のご命令だ」

少し年配の兵士は、彼に注意した。

「は、はい」

兵士はそう言った。


「どうして俺を助けた?」

向かってきた女に向かってそう言った。

「そんなことを聞いている場合?死にたくなければ早くついていきなさい。

そこの女の子も連れてね」

「最初から全て承知の上で俺を試したか?」

俺はそう問いかけた。

「どうかしらね」

彼女はそう言うと、俺たちに背を向けて、森の奥の方へと歩いて行ってしまった。


彼女は森の中を迷いなく歩き続けた。

俺たちはただ後をつけていくだけだった

「いったいどこへ向かっているんだ?」

「安全なところね」

「俺たちにとってか?」

「それ以外ある?」

「いったい何が目的だ?」

「話す必要がある?今のあなたには私を信用する以外選ぶ権利がないの」

「黙ってついてこいってか」

「ええ。ついてこなくてもいいのだけれど」

「それで。どうして籠を奪ったりなんかしたの?」

「わからん。なりゆきでそうなった」

俺はそう答えた。

「真面目に答えて頂戴」

彼女は少し怒ったように見えた。

俺は彼女に事の経緯をおおまかに話すことにした。

歩きながら黙って俺の話を聞いていた。



「着いたわ。ここから向こう側は隣の村。そちらへ向かえばもう誰も追っ手は来ないはずよ」

「恩に着る」

俺はそう言った。

「ありがとうございます」

幼女は彼女に向けてそう言った。

「どういたしまして。ここから先は、私も行ってあげられないわ。

ところであなたたち、名前は?」

「ああ。そうだったな」

「先に言え」

俺は小さい声で幼女にそう促した。

「ユ、ユスと言います」

「ユス。良い名前ね。あなたは?」

俺の目をじっと見てそう言っていた。

その時一瞬、俺の頭の中でふと何かがよぎった。

「俺は、キルだ」

「キル?」

彼女はそう繰り返した。

「どうした?俺のは変か?」

俺はそう笑いながらそう言った。

「いやそんなことは」

「あんたはカナメだろう」

俺はそう言った。

「そ、そう。聞いていたわね」

彼女はそう言うと、口元を引き締めて、スタスタと俺たちが歩いてきた森の方へと歩いて行ってしまった。


「おい。森の中を探索するぞ」

年配の兵士は、他の大勢の兵士に向けてそう言った。

「え? でも、さっきは行くなって」

「お前は馬鹿か。上の者(隊長)に直接さからうやつがあるか」

「でも結局さからうんですね」

「あたりめえだ。これは仕事だ」

「は、はあ」

「仕事というのはな。結局手柄の挙げたやつの勝ちだ。それだけは変わらない。

どうせここには何もない。こんな馬鹿デカい路を捕まえてくださいと言わんばかりに、犯人がのこのこ歩いてくると思うか? 森の中に何かしら手がかりがあるに決まってんだ」

「おっしゃる通りです」

「森の中は危険だ。生きて帰れる保証はない。行きたい奴だけが行け」

ほとんどの人間に、森の中へと入っていく意志は見られない。

「三人だけか。まったく情けない」

年配の兵士はそう言うと、部下を引き連れて森の中へと入っていった。

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