都市 第1章2 村
「どうしてついてくるんですか」
幼女は足を止めて、俺の方を振り向いてそう言ってから、不思議そうな目でこちらを見つめた。
「いいから前をみて歩け」
俺はそう言った。
「あなたがいると集中できません」
幼女は歩きながらそう言った。
「ところでお前はどこに向かおうとしている?」
俺はそう尋ねた。
彼女は森の中をあてもなくただ歩きつづけているのではないかと思えたからだ。
「えっ!?どこって?こ、小屋ですよ」
彼女は少し恥ずかしそうな調子でそう言った。
「お前、もしかして道分からないのか?」
俺ははっきりとそう言った。
「わわわわわわわからなくないです。そんなことないですっ」
大きな声で叫ぶようにそう言った。
その時だった。
「静かにしろ」
俺は彼女の口をふさいだ。
周囲に人の気配を感じたからだ。
「なななにをふるんでふっ」
彼女はぱたぱたと手足を動かしながら言葉にならない声を出した。
「近くに誰かがいる」
俺はそう言って、幼女の手を引っ張って一番近くにある大木の陰に身を寄せた。
すると三十秒くらい経った後で、五人くらいの兵士が話しながら歩いているのを聞いた。
「このあたりだな」
そのうちの一人がそう言った。
「一体何があったんだ?」
続けてそう言った。
「詳しいことはわからない。不審な男が俺らを気絶させて洞穴の方へと向かっていった」
昨晩、俺と手合せした兵士の一人であろう者がそう言った。
「なるほど。それで、籠は?」
また、別の兵士がそう言った。
「やられたのは籠をやつらに預けたあとだ。トンネルでなにかがあったんだろう」
昨晩の兵士が再びそう言った。
「しかし、あの中に入って普通の神経なら生きて帰れるわけがない」
「ばばっと全員気絶させちまったんだよ。普通の神経してねえよ?」
「そうか。なんにせよ、籠を見つけないことにはな」
「ああ。まったく面倒なことをしてくれたよ。祭儀からまた振り出しか?」
「本当に厄介なことをしてくれたよ」
「まったくだな」
全員が続けて愚痴を漏らした。
気配は突然現れた。
それは彼らとは違う異様なものだった。
「おい、逃げろ」
俺は幼女の耳元でそう言った。
不思議そうな目でこちらを見た。
「誰かくるぞ」
俺がそういうと、音もなく突然姿を現した。
顔はよくわからないが、すらりとした長身の女だった。
「カ、カナメ部隊長。ど、どうしてこちらに?」
兵士はそう言った。
「仕事を果たしにきただけだ。問題あるかしら?」
女はそう言った。
「運搬に失敗したようだな」
続けてそう言った。
「どうしてそれを?」
兵士は不思議そうな声でそう言った。
「君たちより早く知らないはずはないでしょ」
女は低い声でそう言った。
「トンネルに入ってきたわ。籠も見つけた」
女は続けてそう言った。
「本当ですか?ということは我々は入らなくていいですか」
兵士はそう言った。
「おい」
別の兵士は間髪入れずにそう言った。
「いや。君たちには籠の運搬を手伝ってもらいたい」
女はそう言った。
「トンネルの中に籠が置かれていた。君たちはそれを寺まで戻すだけ。それ以外はなにもしなくていいわ」
女は続けてそう言った。
「は、はあ。あの中はどうなっていましたか?」
兵士は女にそう尋ねた。
「後で説明するわ」
女はそう言った。
「中身は空ですよね」
兵士はそう言った。
「当然入っていないわ」
女はそう言った。
「とにかく早く行きなさい。あまりモタモタしていると危険だと思うわ」
彼女はそう言った。
「危険とは?」
兵士はそう問いかけた。
「いいから早く」
彼女はそう言った。
すると、兵士たちはぞろぞろとその場から消えた。
俺は息をのんだ。
「何者だ?」
女は俺たちの方に向かってそう問いかけた。
案の定彼女は俺たちの気配を全て察知していたのだ。
どのみち今捕まってしまったら大変なことになる。
「お前はここから動くなよ」
俺は幼女にそう言った。
「な、なにするんですか?」
小さい声でそう尋ねた。
「いいからここにいろ」
俺はそう言った。
「見ない顔ね。いったい誰?」
女は出てきた俺に向けてそう言った。
女の顔立ちをみた瞬間、心臓が飛びつき、同時にもやもやとした感情に襲われた。
それは彼女が美しいからだろうか。
実際、文句なく彼女は美しかった。
整った顔立ちに透き通った目で、髪は後ろの方を結んでいた。
体型に関しても一切無駄がなく理想的に思えた。
極端に大きすぎない胸、適度な筋肉がついていて健康的に思えた。
おそらくかなり武芸に秀でているはずだ。
そしてそれ以上に知略にも長けていることは間違いないと感じた。
だから俺はぞわぞわと内臓が疼いたのか?
そんなことはない。
俺はこれまで、それなりに美しい女を見てきたが、こんな感情を抱いたことはなかった。
彼女には得体のしれない何かがあるのだ。
そうなると、もはやその胸のざわめきの正体は経験的にも理論的にはわかるはずがなかった。
「道に迷った」
俺はそう言った。
「ほう。どこへ向かうつもりだ?」
彼女は少し笑いながらそう言った。
「このあたりから抜ける道ならなんでもいい。案内してもらえるか?」
俺はそう尋ねた。
「ふっ。いいだろう」
彼女はそう言った。
「え?」
すると彼女は突然驚いたような声をあげた。
「ここに誰かいるのか?」
彼女は俺に背を向けて、木の方に向けてそう言った。
「気配を感じるのか」
俺はそう言った。
すると彼女は突然、立ち止まった。
そして向きを変えて、剣を抜いて俺の方へと斬りかかろうと向かった。
俺は刃物でそれに応じようとした。
すると彼女は足をピタリと止めて、剣をおさめた。
俺も刃物を腕にしまった。
「ぶっそうな挨拶だ」
「誰の命令で来た?」
「言うと思うか?」
俺はそう言った。
「なら、そこに隠れている女は君の連れか?」
「そこに人がいるのか?」
俺は神妙な調子でそう言った。
「なんだ。そこにいるのは狐だとでも言いたいのか?」
彼女は少し笑ってそう言った。
「狼かもしれんぞ」
俺は笑いながらそう彼女に言った。
「見ればわかる」
彼女はそう返した。




