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都市 プロローグ10 洞穴

俺はトンネルの奥の方へと、白い連中のいる方へと進んだ。

「そこで何をしている」

俺は彼らに向けてそう言った。

彼らは、その内の数人を除き、一斉にこちらを振り返って身構えた。

そして無言で頷きあい、数人が俺に向けて刃物を突きつけてきた。

そこには先ほどの兵士たちとは比べ物にならないくらいの明確な殺意を感じ取れた。

しかし戦闘にはそれほど慣れていないようだった。

「よっと」

俺は、連中が斬りかかってくるたびに声を出しながら、ゆるりと身をかわした。

さっきまで金縛りにあっていた俺の身体はすっかり元通りになっていた。

それどころかいつもよりも幾分と好調だった。

「危害を加える気はない。ただ教えてほしいだけだ」

俺はそう言った。

実際、俺はずっと刃物を出さずに腕におさめていた。

しかし彼らは、変わらず無言で俺に斬りかかろうとした。

「まったく。話の通じないやつが多いな。この村は」

俺はそう呟くと、連中を次々と気絶させた。

気絶していないのは俺にまだ殺意を向けていない者達だった。

それはじっと座り込んで、そこに置かれた籠を運ぼうとしている者と、

その場に呆然と立ち尽くしている者の二人だった。

俺は構わずに、そこに置かれた籠をゆっくりと持ち上げようとした。

その籠は俺の想像しているより、何倍も重かった。

まるで大型の電子機器のようだった。

俺はそれを一人の手で持ち運ぶことは、到底かなわないだろうと思った。

「これを向こうに運んでいるようだな」

俺は座り込んでいる者に向けてそう言った。

彼もいっこうに俺の言葉には耳を貸さなかった。

俺はそんな彼を見て、もしかしたらこの連中は俺の言葉が一切聞こえていないのではないかと思うことにした。

だとするとその理由が気になった。

白い防護服で全身を覆っているからなのか、聴力を失っているのか、そもそも人の言葉が理解できない存在なのか、いずれにせよこのままではわかりようもなかった。

俺は、とりあえず籠の形をした大型の電子機器のようなものに目をやった。

俺はまずこれを開けるための取っ手のようなものを手探りで当てようとしてみた。

しかし取っ手のようなものは一向に見当たらなかった。

「この籠はいったいなんだ」

俺は座り込んでいる彼の耳のあたりに向けて大声でそう言った。

しかしまたもや反応が無かったので、彼らは何らかの理由で聴力を失っているのだろうと確信した。

「邪魔するな」

その時、彼は俺に向けてそう言った。

声がこもっていたのではっきりとは聞き取れなかったが、それは明らかに人間の声だった。

「お前、話せるのか」

俺はそう言った。

しかし、彼はそれ以上は無言だった。

俺は、この連中と籠を無視してさらにその先に進むきにはならなかった。

俺の興味は、今ここに置かれたその籠にくぎ付けになっていたのだ。

「わかった」

それでも俺はこの連中と籠を見逃し、これまで通り先の路へと進む素振りを見せた。

「ッ!!」

俺は小さく声を上げた。

俺の内臓を突こうとしていた刃物が、俺の腕に当たってキンッという鋭い音を立てていた。

「お前、殺意を出し過ぎだ」

俺は落ち着いた声でそう言った。

俺を刺そうとした者の手はぶるぶると震えていた。

俺はその手からゆっくりと刃を引き抜いた。

「しかし、良い武器ではあるな」

俺は振り向いて、さっき俺に声を発した彼にそう言った。

すると彼は、俺に目を合わせずに、籠も連中も刃物も全て放り出して、その奥の方へと走っていった。

結局今ここに残ったのは、気絶している連中と籠と、俺の横にそこにじっと立っている者だった。

立っている者は、俺の行動に一切関与せずに、じっと脇から窺っているように思っていたが、近づいてみると実は気を失っていたのだとわかった。

俺は彼の背中を思いっきり叩いた。

すると、ぶるぶると全身を震わせた。

「いや。来ないで」

俺にはそう聞こえた。

それは女の声だった。

「やめて。あ。ああ」

彼女は何者かに襲われているように思えた。

このトンネルには彼女を襲うものなど一人としていない。

「しっかりしろ」

俺は怒鳴った。

「え。ええ?ええええ?」

彼女は俺がいることを認識すると素っ頓狂な声を上げた。

「正気に戻ったか」

俺はそう言った。

「こ、来ないで」

すると彼女は声を荒げてそう言った。

「幻覚でも見ていたのか」

俺はそう言った。

「い、いや。もう大丈夫」

彼女は未だ自分の置かれた、状況を飲み込めていないようだった。

「とても大丈夫そうには見えないがな。ところでこの籠はなんだ?」

俺はそう言った。

「これ、あなたが全部やったの?」

質問に答えずに気絶している連中の方をみてそう言った。

「ああ。悪かったか?」

俺はそう言った。

「あなたは何者?ここによくくる?」

彼女はそう言った。

「籠を持ったお前らの後をつけて来ただけだ。ここは知らん。この先がどうなっているかもな」

俺はお手上げの仕草をしてそう言った。

「そう。じゃああなた、助けにきたの?」

彼女はそう言う。

「何の話だ」

俺はそう言った。

「あなた村の人間?」

彼女はそう尋ねた。

「違う」

俺は即答した。

そしてこう続けた。

「兵士どもは俺らを決してここには入れようとしなかったし、こいつらもさっき俺に斬りかかってきた。

お前らのしていることは不可解すぎる。それにこのトンネルも明らかに異常だ」

「そう?あなたが今ここでこうやって生きていることの方が不可解で、おかしいんだけど」

彼女はそう言った。

「あなたトンネルの途中で死にかけなかった?」

俺はそれを聞くと、異常に脈が速くなった。

「死にかけた。というより何が起きたかわからん」

俺はなるべく落ち着いた口調でそう言ってみた。

おびただしい数の視線。じわじわと忍び寄る影。やけどするかのようなひどい熱気。

そして俺を取り込もうとする悪い夢。俺はさっき起こったことをあまり思い出したくなかった。

「今の私の姿を見たでしょう。きっとこんな感じだわ」

彼女はそう言った。

「なるほど」

俺はそう言った。

「あなたが起こしてくれたのね。ありがとう」

彼女はそう言った。

「礼を言われるためにこんなところまで来たわけじゃないが?」

「あなたは本当に何も知らないようね」

「ああ」

「だったら、今から話すことをよく聞いて。そのうえであなたが何をするか決めるのよ」

彼女はそう言った。


「まずはね。この中には人が入っているわ」

彼女は籠をみながらそう言った。

「そんで、お前らはそれを運んでいるわけだ」

俺がそう言うと、彼女は頷いた。

「運ばれたらそいつはどうなる?」

俺は尋ねた。

「どうなると思う?」

「さあね。手足でも切り落とされるんじゃないか?」

「なにそれ?」

彼女は不思議そうな声を上げた。

「大体、籠に運ばれた若者は、命を捧げられるものだ。しきたりだか何だか知らないが」

「あなた、この村の祭儀のこととか知っているの」

「ああ。今その祭儀とやらをやっていることくらいはな」

「嘘ね」

「なんだと?」

「まあいいわ。祭儀のことは、今の話とは直接関係がないもの」

「ある程度は関係しているんだな」

「関係しているともいえるし、関係していないともいえるわ」

「わかりづらい言い方だな」

「話を戻しましょう」

「ああ。で、運ばれたらそいつはどうなる」

籠を指してそう言った。

「わからないわ」

「わからないのかい」

俺はそう言った。

「それで、あなたは籠をどうするつもりなの?」

結局、その籠の中に、人が入っているという事くらいしかわからなかった。

勿論、彼女の言うことが真実だと仮定すればの話だ。

そのうえで俺はどうするのかを決めなくてはならない。

「籠を持って帰る」

俺はそう言った。

「そういうと思ったわ」

彼女はそう言った。

「それではお前らは何者だ?」

「さっきも言ったわ」

「籠を奥へと運んでいるわけだな」

俺はそう言う。

「なら、俺を止めなければならないな」

さらに続けてそう言った。

困ったものだ。

俺は女とやりあうのは好きじゃないのだ。

なるべくなら綺麗にケリをつけたいものだ。

「いや、あなたが運ぶのを手伝うわ」

しかし彼女は俺の予想と反してそう言った。

「お前、正気か?」

「もし運ぶのなら、はやくしたほうがいいわね」

「こいつらなら、しばらく起きないぞ」

俺は気絶した連中を指さしてそう言った。

「いや。多分向こうから、ぞろぞろとやって来ると思うわ」

向こうというのはさらに奥の方だ。

「いまのところ気配は感じられないがな」

「そうなの。でも急いだ方が良いわね」

「その前に一つ聞きたい」

「何?」

「お前はなんでわざわざ俺に籠の事を話した?」

「そうね。それはこっちが聞きたいくらいだわ」

彼女はそう言った。


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