XXII
「さて、ちょいと剣を振ってみるとするか?」
とにかく部屋に戻って物を持ってこないことには始まらん。クリスティと一緒に部屋へ向かう。
レイピアと取り戻した自分の剣は、剣帯ともどもベッドサイドに立てかけてある。まずはレイピアを手に取る。
「クリスティ、このレイピアは君にくれることにしよう」
「え? これを貰っていいの?」
「そもそもここにあったもんだしな。それに俺は自分の剣を取り戻した。死んでったツァップ様様ってわけだ」
「それなら、遠慮なく受け取るけど」
「それに剣の扱い方、教えてほしいんだったろ?」
「そうね。いろいろと教えてくれるわけ?」
「まずは基礎からだが」
「それより、ちょっと見てもいいかしら」
そしてクリスティが剣を鞘から抜く。
「おっと!」
俺は思わずその手を掴んだ。
「え?」
「クリスティ! 不用意に振り回すようなことはやめろ」
「え、あ、えっと……ごめんなさい」
「まあいいさ」
それで剣をそっと仕舞ってやってやる。
「俺も、なんかすまん。ちょいと強く言い過ぎたな。まあとにかく、剣だけじゃなかろうが、基本的な所作の一つは丁寧に扱うってことだ。練習の時や、いざマジもんの戦闘は別だろうけどな。平時はそう簡単に振り回すようなことはするもんじゃない。いいな?」
「分かったわ。気をつけて扱う」
クリスティはしょんぼりとした風になった。
「まあ、気をつけないと、自分が怪我することになりかねん」
「なんだか、ごめんなさい」
「おっとお嬢さん、気落ちするのが早いぜ。以後気をつければいいだけってことだ」
「軽率だったかしら」
「もう気にするなって。とりあえず庭に出てみるとするか」
俺は窓の外の景色に目を向ける。
曇り空だ。つっても途中で雨が降るような感じじゃない。まあ、その時はその時だ。
「どうかした?」
「いや、外で剣を振り回すのに、ちょうどいい天気だろうかなって」
***
剣を手に、庭へ出る。
クリスティはたぶん、内心で高揚感を持っているに違いない。いくらかの獣人は、尻尾の動きを見ればなんとなく感情ってもんが分かる。
「さて、」
「それでカルバン、まずはどんなことから始めればいいのかしら?」
「そうだな……」
人に剣の扱いを教えるなんてのは……正直なとこ、俺だって何から始めればいいか分からん。
「とりあえず、クリスティが好きなように構えてみろ」
「そんなのでいいの?」
「俺だって、教官役をするのは初めてなもんでね」
「それじゃあ、私なりしてみることにするわよ」
「いいぜ。ちゃんと見とく」
そしてクリスティは剣を抜き、構える。
うーむ……剣の持ち方、構え方は、そんなに悪くないように思える。鞘から抜く動作も初心者にしてはそこそこだ。
「ねえねえ、思いっきり振ってみたりとか、してもいい?」
「まあ、色々とやってみるといいさ。だだその剣先を俺に当てるようなことはやめろよ」
「気をつけるわ」
念のため、クリスティの斜め後ろに少し離れて立つ。そして彼女は、縦やら横やらに向けて剣を幾度か振った。
だが、やはりというか、全体的には動作が遅い感じだ。それと動きに迷いがあるようにもみえる。まあ……いきなりやってみろというのが無理もないことだが。なんというか、あれだな素養はあるかもしれん。
「ねえ、どうかしら?」
「うむ……そうだな。筋は悪くなさそうだ」
「ほんと?」
クリスティはどこか嬉しそうにしてる感じがした。
「まあ、もっと基礎を鍛錬をする必要はありそうだがな」
「それなら毎朝、練習しようかしら」
「まあ、それもいいかもしれんな。ただ、無理はしないことだ。技術ってのはどんなことでも一朝一夕に身に着くもんじゃない」
「そんなこと、私だって分かってるわよ」
「そんじゃ、毎朝の素振りでも習慣に取り入れるとしよう」
「一緒にってことよね?」
「そうだな」
「それにしても、やっぱり剣ってそれなりに重たいのね」
「そんなもんだぜ、剣って代物は」
「包丁とは訳が違うってことね」
「しかもいざ戦いの時は、敵に向かって振り回すわけだからな」
「ねえ、カルバン。この剣、私のものにしてもいいのよね?」
「ああ、ご自由に。手入れが必要な時は言ってくれ、手伝ってやるぜ」
まだ何か言いたげだ。
「どうかしたか?」
「あの、ノックス兄さんが持っていた短剣。もしよかったら、カルバンが持っていてくれない?」
「そりゃダメだな。君が持っておくべきだ。大事な家族の形見でもあるはずだろ?」
「それも、そうよね。でも二つも剣を持って、扱いきれるかしら?」
「大事にとっておけばいいさ」
***
俺は……やはりクリスティにすっかり惚れている。
獣人女と真人間男……奇妙な組み合わせだ。まったくもって滑稽ともいえる。でも俺はクリスティのことが好きになった。
いや、もしかすると、この怪奇な屋敷に暮らすことが、ただ単にそう思わせているだけかもしれん。いいさ、構うもんか。仮にそうだとしても構やしないさ。
俺はここで初めて人生の幸福とはなんたるものかを知ったような気がする。いつまでも彼女と共に過ごしたい、傍にいて守ってやりたいと思える相手がいる……それは人生で重要なことじゃなかろうか?
彼女のことは手放したくない。こりゃ絶対だ。




