XVII
ようやく飯にありつける。まったく今日に限っては朝飯なのか昼飯なのか、どっちつかずだぜ。まあ、そういう日もあるってことだな。
ただ、これっきりのことだという気はしない。近いうちに騎士団の連中とまた顔を合わせるハメになりそうな予感がしないでもない。いやはや、そんなことを考えると気が滅入りそうだ。
一方で、あの二人の表情を思い起こすには、俺がこの屋敷にいることは予想してなかったような気もするが……どうだろうか。まあ、あれこれとそのへんを考えたところでどうしようもないか。
「ところでカルバン」
クリスティが食事の手を止め、聞いてくる。
「今朝みたいなこと、また同じようなことが起きるかも知れないの?」
奴らが本気なら、何度でもあるだろうな。だが彼女の目を見て、率直に言えることでもない。
「なんともね、どうだかな。直ぐ明日にでもってことないだろうが、用心する必要はあるだろう」
「それなら、私に剣の扱い方をちゃんと教えてくれる?」
「ん? そりゃ構わんが」
「自分の身くらい、それなりに自分で守りたいものよ」
「今朝は十分にやったじゃないか。素質はあるだろうぜ」
「さっきのは、あれは無我夢中で、なんだか自分でやったことが信じられないくらいだけど」
「まあまあ剣術の練習もいいが、先に地下の散歩をしてからだな」
「それって食事の後に?」
「そのつもりだ」
「なんてこと、今日は忙しい日になりそうね」
「まあ、準備だけして明日にでもいいが、どうだ?」
「そんなことよりも、あの地下のどこかに出口があると思っているの?」
「そうあってほしいもんだぜ」
「それで今日は、この後はほんとうに地下室を調べる気なの?」
「善は急げって言うだろ? ささっと支度して行くぞ」
「準備は何が必要なの? まあ地下室だから、灯りとかを持って行くのは当然かもしれないけど」
「持てるもんは全部だ」
「え? それって本気で言っているの? それとも冗談?」
「まあともかくだ。飯をさっさと済ませて、探索の準備をしようじゃないか」
それで俺は目の前の味気ない肉料理をなにも考えずに食べ終えた。
クリスティも食事を済ますと言ってきた。
「カルバン、なにもそんなに焦らなくていいんじゃない?」
「あ?」
「なんだか焦っているように、私にはそんな風にみえる」
クリスティの勘が鋭いのか、俺は自分が思ってるより動揺してるのか……それとも両方なのか。
「まあ、万が一にも騎士団の連中に俺の居場所がバレるようなことがありゃ、ここへ大勢けしかけて来るかもしれんからな。逃げ出せる場所があるなら、見つけるのが早いに越したことはない」
「でも出口なんてものが見つからなかったら?」
「その時はその時だ。籠城戦に備えることを考えなきゃならんだろうな。なんにしてもだ、そう易々とくたばるつもりはないぜ」
「それなら尚更、私も剣の扱い方に慣れないといけないわね。でも……そんなことになって欲しくはないけど」
「まあ、この先どうなるかは分からん。俺があれこれと考え過ぎなだけかもしれんが、何事も用心に越したことはないもんでね」
そうして食事の後片付けも終わらせると、仕切り直すようにクリスティが聞いてくる。
「それで、剣と灯り以外に何を持って行くつもり?」
「そうだな……ともかく、物置の地下室でいろいろと使えそうなものを探すとしよう」
物置の方の地下室へ移動して、とにかく使えそうな代物を漁る。
まだ使えそうな、まともな衣類をいくらか拝借して、これまたここで見つけた鞄にまとめる。それと武器も一つ貰っていこう。まあナイフ程度の代物だが、何か使えるかも分からん。もしもの時に武器は多い方がいい。
「ねえ、服なんて持っていってどうするつもりなの?」
「何があるか分からんからな。備えはあった方がいい。それに外へ出た時に、多少なりとも金に換えることだってできる」
クリスティは少しあきれてるような感じだ。
「ねえカルバン、ほんとうにそんなに荷物を持って行くっていうの?」
「そりゃまあ、もしも出口があった時のためだ。そんときはこんな場所からさっさとおさらばするに限る。いざって時に荷物を取りに引き返すなんて真似をするのは面倒だろ?」
「それは、まあ言われてみれば、そうかもしれないけど」
「クリスティも必要な物をまとめるのがいいさ」
「それじゃあ、部屋に戻って荷物を準備することにしようかしら」
そう言うと彼女は地下室を出て行ってしまった。
いいよな、獣人は。着る服が少なくて。そうなると持ち物はその分少なくて済むわけだ。夏は暑かろうがな。まあそんなことはどうでもいい。
荷物は小さくまとめ、しっかり縛る。背負っても動きの邪魔にならんように。
ひとまず剣を振り回すのには問題なかろう。
そうして上に戻るとクリスティが待ってた。
「私は身軽でしょ?」
とは言っても鞄を背負い、あの短剣を腰に下げていた。
「なんだ、サマになってるじゃないか」
「カルバンがそう思うのなら、不足はなさそうね」
「まあ、ともかく行ってみるとしようじゃないか」
そして二人で、あの地下室の入口へと向かう。扉を開け、ランプを灯して階段を下る。
「いよいよ地下室の探検ってわけね」
「ともかく気を付けていくぞ。魔物なんかと暗闇の中で鉢合わせなんて願い下げだ」
「私は耳が利くわよ。なにか不審な物音でも聞こえたら、すぐに教えるわ」
「心強いな。頼むぞ」




