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「それで朝ごはん、どうする?」
するとヘレンは少し顔をそらすようなそぶりをした。
「どうかした?」
「ええ、」
ヘレンの表情が少し、どこかぎこちないような気がした。
「あの肉は嫌よ」
「でも、」
「わかっている」
ヘレンはうつむいてつづける。
「人は誰しも、食事なしじゃ生きられないことくらい、わかっているわ。それと、人はパンのみに生きるにあらずっていうけれど……なんてことのない、ふつうのパンが、今は必要よ」
ヘレンはおおきくため息をつく。
どんなふうな声をかけてあげればいいいのか、わからない。
パン……ちゃんとした食事、最後にしたのはいつだっけ?
「えっと……あの中庭で、なにかほかにも栽培とかできないかな?」
「それはすこし考えたの。でも、土の状態とか、そういうのをちゃんと調べてみないとなんともいえない」
「そうだよね……」
「それよりハンクは、どうするつもりでいるの?」
「ぼくは、あの肉でもなんでも、食べられるものは食べるよ。それで、ここから出ていく方法を探さなきゃ」
ヘレンはゆっくりとたちあがる。
「ちょっとだけひとりでいさせて」
「うん。それじゃあ、ぼくは下にいるから」
それでけっきょく、ぼくひとりで朝食にすることになるわけだ。
まずは地下室へ向かう。“食材”をとりに。
だいぶ冷静に、ようやくこの地下室のなかを見つめることができるようになったような気がする。
そういえば、この肉……もともとは誰だったのだろうか? もしかすれば、このなかの一部はブリムやエッジの……それで、ぼくは……いや、考えなくていい。そんなこと考えないほうがいいんだ。
この屋敷からきょうにでも出ていくことができないのなら、そのことは考えないようにしなきゃ。
手短に肉の切れ端を切って、それで厨房に戻る。
調理はどうしようかな? 焼くか、煮るか……あれこれと考えるのもめんどうかな。小さく切ってからフライパンでぱっと焼いてしまうのが楽かもしれない。
ほかの食材や調味料でもいろいろとあったのなら、ぜんぶ煮込んでシチューでもつくるといいかもしれないいけど。
厨房の小さな窓から中庭をすこしみてみる。うん……ここでは贅沢なんてできそうにない。それにパンもつくれそうにないもんね。
この屋敷で手に入る“肉”を食べることは、生きるためならそれほど苦じゃないかもしれない。でもそのうちに、味には飽きがくるかもしれない。
そうして調理をしていると、ヘレンもやってきた。それで黙ったまま棚から食器を出しはじめた。
「ヘレン?」
「わたしもいっしょに食事にするから」
「え?」
「やっぱり、空腹にあらがいつづけるのは、ちょっとむずかしいみたいだから」
その表情には、どことなく覚悟を決めたような、そんな感じの雰囲気があった。
「それじゃあ、いっしょに朝食?」
するとヘレンは黙ったまま、小さくうなずく。
二人で食事にするなら、追加の肉を取りに行こうかとも思ったけれど、ヘレンがそんなにたくさん食べるつもりでいるとも思えなかった。それにまた肉を焼くのは手間だし、とりあえず手元で用意したぶんだけでやりくりすることにする。
それで焼いた肉を、また切り分けて、それぞれのお皿に盛り分ける。
食事のまえのお祈り。
ぼくはぜんぜん信心深くもないから、さっと済ませるけど、ヘレンはいつもよりも時間をかけているようにみえた。
そうしてヘレンは黙ったまま、焼いた肉の小さな一切れをその口元に運ぶ。でも目をつむって、なにかをこらえているみたいに、そこで手がとまった。
「ヘレン、」
「なにも言わないで。なにも聞かないでちょうだい」
「う、うん」
ぼくは自分の食事を済ませることにする。
それでヘレンは、すごくゆっくりとかみしめるように食事をしている。でも味わっているようには見えない。
なんだか、まるで食事をみられているのを嫌がっているようにも思えた。
「えっと、ヘレン、やっぱりひとりのほうがいい?」
「え?」
「ヘレンはゆっくりしてていいよ。それに、ぼくは探索の準備もしたいから」
「そうね。そのほうがいいかもしれない」
「なにかあれば呼んで」
ぼくは厨房を出て、それで二階の部屋に戻る。
準備といっても、なにを持っていこうかな? 鉄砲が必須なのは、たしかだと思うけれど。
それと灯りもいる。松明、それともランプかなにかのほうがいいかもしれない。
食料や水は? 水は少しくらい持っていっても、かまわないだろうけど。食料まではいらないかな。まさか道に迷うようなことになるくらいの巨大な迷宮なんかがあるようには思えない。
それにちょっと探りにいくだけだから、身軽なほうがいいに決まっている。それにもしも魔物が潜んでいて、遭遇するようなことがあれば、それこそ逃げるのに荷物は少ないほうが楽だもんね。
目的は、地下室の奥がどこまで続いているのか、それがどの程度なのか確かめること。あとは外へ出ることができるような場所があるのかどうかも探すこと。とにかくこのふたつだ。
でも、もしもほんとうに魔物が潜んでいたら?
そのときには銃だけで戦えるのだろうか? それともうまく逃げ帰ることができるのかな? まあそんなことはそのときになってみないとわからないや。
女主人レッターは地下室の奥に空間が広がっていることの話はしなかった。分かっていて話さなかったのか、それともほんとうに気がついていなかったのかな? そんなことがあるのかな?
とにかく銃に火薬と弾をこめる。慣れた作業だから、すぐにおわる。
ホルスターと銃、なんだかすごく久しぶりに身に着けるような感覚がした。ずっしりと重みを感じる。
つぎに物置の地下室へいってみて、なにか使えそうなものを探す。
そこでボロボロになっている長い木材をみつけた。てきとうな長さに切れば、てごろな松明にして使えそうな感じ。
これって……もしかすると、ハシゴかなにかだったのかもしれない。なにに使っていたのだろうか。まあいいや。庭に持って出て、ちょうどいい長さに切るとしよう。何本か作れるはず。




