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15

 ハッとした。ベッドの上で寝ている?

 朝? 窓の外はすこし明るくなっている。うん、夜が明けている。どうやら眠れたみたいだ。今度は、夢をみなかったような気がする。

 横を向いてみるとヘレンがいない。夜中、部屋にきて……いっしょに寝ていたはずだよね? すこし身体をおこして部屋なかをみわたしてみれば、扉がほんのすこしだけ開いたままになっている。

 こんなときでも、きちんと早起きをしているんだ。

 昨日の夜……なにか気をかけてあげられるような言葉をかけてあげればよかったかな。それとも、そっと優しく抱きしめてあげればよかったのかも。

 いいや、むしろそんなことしなくてよかったのかもしれない。でもあの手をもっとちゃんと握りかえしてあげればよかったかも……そんな気がする。

 まだすこし眠いかな。また寝そべる。起きたほうがいいような気もするけど、でも


***


「きょうのハンクはお寝坊さんね」

 そのヘレンの声にハッとなった。

「え?」

「とりあえず、お茶をいれてきたのだけれど」

「あ、うん」

 ぼくは起きてベッドに腰掛けた。どうやら二度寝をしてしまったみたい。

 ヘレンはマグカップを二つ、手に持っている。それでぼくのほうに不思議そうな顔を向けている。

「ハンク、だいじょうぶ?」

「あ、うん。まあ、まだちょっと疲れているかも。でもだいじょうぶ」

「はい、これ」

 それでマグカップを受けとる。

「温かいね」

「すこし熱いかもしれないから気をつけて」

「ありがとう」

 それでヘレンもぼくの横に並ぶようにして座った。

 少しお茶を口につける。うん、ほどよい感じの熱さ。

「これ、ハーブ?」

「そうよ。あの庭でいろいろとみたのだけど、すぐに使えそうなのはハーブだけだったから」

「だいじょうぶ。おいしいよ」

 それからしばらく、ふたりで黙ったまま、手にしたカップのお茶に口をつけた。

 もしもブリムとエッジのがいてくれたのなら、ぼくとヘレンのこの状況をみてなんて言うんだろう?

〈 ほんとうに、君たちは相性が良さそうというか、仲が良いよね 〉

〈 おいおいお二人さんよ、イチャイチャするのもほどほどにしとけって 〉

 こんなことを言われたりすることになったのかな……どうなのかな。

 そんなことよりも考えなきゃ、これからどうするかのこと。でも、考えようとしても、まだ頭のなかがぼんやりした感じ。わからない。

 しばらくのあいだ、ただ黙ってヘレンと並んでお茶を飲む。

 ヘレンが口を開く。

「ところでハンク、その、」

「ん? ヘレン、どうしたの?」

「あなたの右目、痛みはだいじょうぶ?」

「え?」

 ああ、そうだ。いろんなことがあったし、すっかり疲れてしまって、このことを忘れていた。いちど包帯を巻いてもらっていた気もするけど、いつのまにか外れてなくなっている。

「うん、これね。まあ落ち着いたかな。さすがにヘレンの魔法でも、目をもとには戻せないよね?」

「そうね……ごめんなさい」

「いや、べつにいいよ。もとはといえばあの戦いのときのことだし、あの女主人に取られた眼だって、そのものは取り返さずに自分で撃っちゃったし」

「そういえばあれって、ほんとうに契約なんてしてことをしていたの?」

「あ、うん……たぶん。でもよくわからない。なにか契約書にサインを書いたわけじゃないし、負けを認めたのはたしかだけど。それにあの女主人レッターはもういないわけだし」

「それと、今度からピストルの狙いをつけるのに困ることにならない?」

「うん……どうかな、」

 なんとなく手のジェスチャーで銃をかまえるしぐさをしてみる。

「まあ、左目でも狙いはつけられるから、だいじょうぶかな」

 あるいは、拳銃使い(ガンマン)なんてものはやめてしまうのも一つの選択肢なのかもしれない。まだはっきりとは決められないけど。

「それと痛みのほうはどう? 少しはよくなった?」

「だいじょうぶだよ。ヘレン、そんなに心配しなくてもだいじょうぶ」

「それならいいんだけど」

「あ、でも、このままだと格好が悪いだろうから、眼帯でもつくってもらおうかな?」

「ハンク、それは冗談を言っているの?」

「そんなつもりじゃないけどな」

「ほんとうに眼帯があったほうがいいのなら、あとで作ってあげる」

「そのうちにでもいいよ」

「あ、でもちょっと待っていて」

 そう言ってヘレンは部屋を出ていくと、またすぐにもどってきた。その手になにかを持っていた。

「包帯?」

「とりあえず、巻いていたほうがいいわ」

「うん、ありがとう」

 それからヘレンが包帯を巻いてくれているあいだ、ぼくはきのうのことを話す。

「そういえば、きのう屋敷のなかを調べていて、地下室で見つけたことがあるんだ」

「どんなこと?」

「あの肉が置いてあるほうの地下室なんだけど。あの奥に、なにか空間がつづいているかもしれない」

「どういうことなの?」

「灯りで照らしても、奥のほうの壁がみえなかったんだ。なんていうか、ずっと向こうまで暗闇が続いているように思えた」

「地下室の、そのさらに奥……」

「もしかすると、外につながっているような場所もあるかもしれない」

「ハンク、もしかして調べるつもりでいるの?」

「うん。できることはぜんぶするつもりだよ」

「危険かもしれないわ。なにか魔物でも隠れていることだってあるかも」

 そこまでは考えが出てこなかった。魔物……でもそういったものが潜んでいるような感じはしなかった。それに魔物がいるとしたら、どうして生きた人間を屋敷に住まわせる必要があるんだろう?

「でも調べてみないと、なにもわからないよ。それに魔物が潜んでいるとして、だとしたらなんで姿を隠し続けているのか? ぼくたちのことを直接に襲ってこないんだろう」

「魔物の行動の理由を考えてもしょうがないわ。人とは違う道理なのよ」

「とりあえず武器はあるから、いざというときはすぐに逃げるよ」

 いずれにしても準備することから始めなきゃ。

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