表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

XIV

 朝か? 相変わらず右手の怪我の痛みは鬱陶しい感じだ。

 目が覚めちまったが、ちょうど夜明けの直前だな。窓の外はうっすらと明るいのが分かる。このままで二度寝するか、起きてしまうか。横を見れば、クリスティはまだ小さな寝息をたててる。

 さっきまでの夢……何か夢を見てたんだが、はっきり思い出せん。あの地下室のことだっただろうか? 暗闇のイメージと、なぜか草原の光景が浮かぶ。まあどうでもいい……ともかく、地下室のその奥がどうなってるのかが気になる。

 探索してみるってのも悪くないだろう。まあ、何かしらの魔物がいる可能性もデカいが、調べないより調べるのがいい。もしかすると外へ通じてる場所とかが発見できるかも分からん。

 外へ出られる場所か……ここから逃げ出せたとして、それでどうする? 何処へ行く? クリスティと一緒にか?

 一瞬、ここで慎ましく暮らし続ける……一瞬、そんな考えがよぎる。ここで暮らし続けるだって? バカバカしい! そんな愚かなことはない。こんな屋敷に囚われたまま、飯が人の肉しかないような場所なんぞ最低極まる。俺は出ていく。そうだ、クリスティと一緒に出てってやるぞ。

 クリスティの穏やかな寝顔をみると、どこか愛嬌があるようにみえ、気持ちが落ちつくというか、なんか惹かれるというか……俺は、惚れてんのだろうか? 獣人相手に? まあいいさ。

 こいつは……憎めない獣人女には違いない。

 俺はそっとその寝顔の頬を撫でた。

 するとその目がほんの僅かに開いて、俺は思わず手を引く。だが彼女は、まるで寝ぼけてるかのようにぼそぼそと口を動かし、また閉じた。

「起こしちゃ悪いな」

 だがその直後、半目を開いて彼女は「兄さん……」とつぶやくとパッと目を覚ました。

 俺と目が合う。

「え? カルバン……」

「すまない、起こしちまったか?」

「ここは、屋敷の中なの?」

 ん、どうした? 寝ぼけてるのか?

「どうかしたか?」

「どうやら夢を見ていたみたい」

「夢?」

 クリスティは俺の方に身を寄せ、小さい声で続ける。

「夢の中で私、どこかの丘の上みたいなところに立っていて、青空が広がっていた。私の横にはノックス兄さんがいて、黙ったまま景色を見つめていたの」

「そうか、」

「風が吹いて、兄さんがなにか言ったんだけど、聞き取れなくて、そこで目が覚めちゃった」

「昔の思い出か?」

「分からない……でも、そんな気もする」

 そういや、クリスティのノックスって兄貴はどんな奴だったんだろうかな。

「クリスティは、その兄貴と一緒に、旅か何かでもしてたのか?」

「そうね……いろいろとあって。私とノックス兄さんでこの屋敷と遭遇したのは、たしか雨が降っている日だった。道に迷って雑木林の中を進んでいたら、突然開けた場所に出て、そしてこの屋敷があったの」

「なるほど、道に迷って雨にも濡れて、そこで屋敷が見つかったと来れば、寄らない訳にもいかんだろうな」

「それで玄関のところまで来て扉を叩いたけど、誰も出てくる気配がなかった。しばらく待ったの。それでノックス兄さんがノブに手をかけて、そしたら扉は簡単に開いて、中に呼びかけても返事は何もなかった。それからノックス兄さんが先頭に立って中へ入った」

「そん時は、不審には思わなかったのか?」

「ええ、まあ、少し気味が悪いとは思ったけど」

「そこで入らなければ、」

 待て、言葉をよく選ぶんだ。君の兄さんも無事だっただろうな、なんて言うべきじゃないな。クリスティの兄について軽々しく言うのは、今はまだマズい。

「なければ、屋敷に囚われることなんてなかった訳だ」

「でもそのときは、こんなことになるなんて分からなかったのよ。分かるはずもなかったわ」

「そうだよな……俺だってそうさ。この屋敷の来歴を知っていたら、ドアをノックすることもしてないだろうな」

「でもカルバン、もしもそうしていたのなら、あなたは森の中で死んでいたでしょうね」

「かもしれん。人生ってのは皮肉なもんだ」

 運が悪かったのか? それとも運が良かったってのか? あるいは不幸中の幸いだとでも? 分からん。だが孤独じゃないのは確かだ。

「俺も屋敷に囚われた身の訳だが、少なくとも命は助かったし、君とも出会えたって訳だ」

「え?」

 クリスティはキョトンとした顔をみせる。

「それって、どういうことなの?」

「さあな。だが君は、これまで俺が会ってきた奴のなかで、一番マシな女には違いない」

「それ、どういう意味なの?」

 俺は軽く肩をすくめてみせた。

「そのままの意味さ」

「それじゃあ、とりあえず誉め言葉として受け取っておくことにするわ」

 まったく、俺は何を言ってるんだ? まるで惚気って感じだ。が、間違いって訳でもない。

「カルバン……」

「ん? なんだ」

「あなたを助けた理由、ほんとうは理由があるの」

「ふむ、なんとなくって聞いたきがするが、そういう訳じゃなかったのか?」

「独りでいるのが寂しくて、つらかったから。誰でもいいから話を聞いてくれるような相手が欲しかった。それに倒れているあなたの姿を見たとき、なんていうか、悪い感じはしなかったから。それにあの状況で、私が命の恩人になれば、いろいろと私の言うことをきかせられるんじゃないかと思ったの」

 余りにも深刻そうな口調で言うもんだから、なんかおかしくて、思わず笑っちまう。

 クリスティは少しばかりムッとしたような顔になった。

「なにがおかしいのよ、まったくもう」

「いや、すまんな。そんなこと考えてたのかと思ってね」

「でも怒っているわけじゃなさそうね」

「それどころか、俺は惚れちまいそうだぜ。まったく、おかしいよな」

「でも良かった……私のこと、嫌っているわけじゃないのよね」

「嫌ってるなら同じベッドで寝るわけないだろ。少なくとも、嫌う理由は今んとこまったくないね」

「ちょっと、今のところって、どういう意味よ」

「そのままの意味さ。案外この先、もっといい女に出会えるかも分からん」

「まあ、デリカシーないことを言うわ。それとも冗談なの?」

「どうだかな」

「でもそうね……私は獣人だし、カルバンは真人間だものね」

「だが咎めるような奴は、ここにはいないぜ」

 するとクリスティは「はいはい」と、ふざけ気味に手で俺の顔を押しのけてきた。

 その手の肉球と、ちょっと爪が当たった感覚……なぜだか悪い気はしない。

「はい、私はもう起きるわよ。朝食の支度もしなくちゃね」

「早起きだな」

「まだ眠かったら、カルバンは休んでててもいいわよ」

「いいのか?」

「いいわよ。私はいつものことだもの」

 クリスティはサッとベッドを出て服を羽織ると、部屋を出て行った。

 やれやれ、こんな調子ならここでの生活で退屈することはないだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ