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第49話 オーレルム領防衛戦

 オーレルム領に向かって来た魔物の数はかなりの規模だった。

 大城壁と新調したバリスタのお陰で半数は対処出来たものの、数の暴力は凄まじく残りは地上で戦う騎士達が対処している。

 その中にはエストリアの姿もあり、最前線で奮戦していた。巨大なポールアックスを軽々と振り回して魔物達を処理していく。

 近くに居る負傷したばかりの騎士達のフォローもしっかりと行う。


「ここは(わたくし)に任せて下がりなさい!」


「す、すみません!」


「はぁっ!!」


 渾身の力が込められた一撃が狼型の魔物を数匹纏めて吹き飛ばす。

 負傷した騎士を狙いに来た魔物達は、それだけで重症を負い撤退を強いられる。

 最前線ではエストリアとルーカスが、それぞれ獅子奮迅の活躍を見せて魔物達を押し返していく。


 オーレルム家の2人がその力を発揮する事で、周囲の騎士達も士気が高まる。

 普通ならば絶望してもおかしくない大群が押し寄せているが、希望の星とも言える2人が退かぬ事で戦線は維持されている。

 しかしそれは同時に、2人の肩に乗った重荷が相当なものである証だ。

 ここでルーカスかエストリアが倒れれば、均衡を保っているバランスが崩壊してしまう。


「エストリア様! 交代の部隊が到着しました!」


「貴方達は交代を! 私はまだここに残ります!」


 今ここでエストリアが下がる訳にはいかない。ギリギリのバランスを保てているのはエストリアの存在が大きい。

 それを彼女は自覚しているので、まだここで踏ん張るしかない。

 エストリアが到着してからの戦闘は既に2日に渡っているが、未だに魔物達の流出が止まらない。


 相当な量が噴出して来ているらしく、減ったと思ったらまた追加されての繰り返しだ。

 特に本日の魔物達は数がかなり多く、これまでで最大規模と思われている。

 本来なら一旦休む方が良いのだが、エストリアの猛攻は止まらない。一心不乱に戦斧を振り回し、魔物達を退けていく。


「押し返します! 行きますよ!」


「「「はっ!!」」」


 疲労感を微塵も感じさせずエストリアが更に戦線を押し上げて行く。

 交代でやって来た騎士達は十分とは言えずとも休息を取って来ている。

 彼らがエストリアの後に続き、ジワジワと防衛線がモアラ大森林の方に向けて進んでいく。


 その意図をすぐに察したルーカスもまた勢いを上げて、周囲の騎士達に発破をかける。

 オーレルム家の2人に掛かる負担が更に大きくなるが、今が攻め時なのも間違いない。

 魔物達の勢いがやや落ち始めた今こそ、ここで勢いをつけておくべきだ。多少の無理は承知でエストリアは歩みを進めていく。


「はぁぁっ!! 次っ!!」


「エストリア様! 少し休まれた方が……」


「いいえまだです。私の後ろには、領民達が居るのですから!」


 出来るだけ早く魔物達を処理し、追い返して平穏を手に入れなければならない。

 この戦いが長引けば長引くほど、領内に侵入した魔物への対処が遅れる。もしかしたら、そのまま王都へ向かうかもしれない。

 可能な限り抑えてはいても、完全にゼロにするのは難しい。


 それに領内で巡回している部隊もあるとは言え、大半の騎士はこの戦線に参加している。

 領内の安全が確認されるまでは終わりではない。そうしてエストリアは、休む事無く戦い続けた。

 ただ領民達の為に、そしてレアル王国の為に。だが幾ら優れた肉体を持つエストリアと言え、無限に体力がある訳では無い。

 どうしても疲労は溜まってしまう。なまじ無理をしただけに、避けられない隙が生まれてしまう。


(しまった!?)


 どう足掻いても避けられない一撃がエストリアを襲う。タイミングが悪い事に相手は危険度の高いブラッディベア。

 その重い一撃が当たれば重症は免れられず、エストリアの脳内を走馬灯が駆け巡る。

 領民達と共に生きて来たこれまでの人生。オーレルム家の一員として、騎士として生きて来た日々。


 そして出会った、オズワルドとの暮らし。まだ1年と少ししか一緒に過ごしていなかったが、それでも幸せで濃密な時間だったのは間違いない。

 だからここで諦める訳にはいかない。帰ると約束した事は忘れていない。


 諦め掛けたエストリアが再び奮起しようとしたその瞬間、立派な鎧を着た男性がエストリアの前に出る。

 大きな金属の盾でブラッディベアの一撃を受け止め、反対の手に持った剣で反撃する。

 その剣技は平凡なもの。特筆すべき所なんて全くない教本通りの一撃。

 そしてそれは、エストリアが()()()()()()が使う剣術だ。


「大丈夫か! エストリア!」


「お、オズワルド!? どうしてここに!?」


「どうやら俺も、国王に相応しい男ではないらしい」


 次期国王にも拘わらず、戦場にやって来たオズワルドがエストリアを見ながら笑っていた。

 すぐさま2人で反撃に移り、ブラッディベアを無事に討伐する。

 エストリアがオズワルドの方を振り向くと、その背後には大勢の騎士達を率いたカイルが号令を飛ばしていた。


 国王の座よりもエストリアの命を選んだオズワルドは、カイルを焚き付けて王国騎士団を動かした。

 ただの私情と職権乱用に過ぎなかったが、そのお陰で魔物達の掃討はかなりスムーズに進んだ。

 オーレルム家の3兄妹が揃い踏みとなった戦場で、魔物達に成す術はない。


 それから1週間ほど掛けて領内の安全確認が行われたが、人的被害は最小限に抑えられた。

 負傷した者は多かったが、命を落とした者はいない。作物に一部被害は出たものの、許容範囲内を大きく逸脱する事は無かった。

 こうしてオーレルム領に訪れた危機は、無事に乗り越える事が出来たのだった。

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