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第48話 領地への帰還

 エストリアはひたすらに愛馬のマリーを走らせる。優秀な血統を継ぐマリーは、エストリアと同様に優れた肉体を持っている。

 必要最低限の荷物しか持ち出さなかったのもあり、身軽なマリーは草原を疾走していく。


 本来なら王都からオーレルム領に行くには軽く2日掛かる距離だが、全力で駆けるマリーの足は半日で半分の距離を走破していた。

 この調子であれば1日中移動すればオーレルム領に到着する事が出来るだろう。


「マリー、もう少しだけ頑張って下さい」


 愛馬を労いつつ、オーレルム領へと想いを馳せる。これまでの歴史で、大量の魔物が押し寄せて大きな被害が出た事が何度かある。

 その経験から様々な対策がされて来たが、それでも被害はゼロに出来ていない。

 かと言って広大なモアラ大森林を囲う程の城壁を造るのはとても現実的ではない。


 それが出来れば理想的ではあるが、そうなると今の倍以上は長い壁を用意せねばならない。

 少しずつ拡大してはいるものの、人間の手作業では長い年月が必要になる。


 50年後や100年後なら完成しているかも知れないが、今はそうで無い以上は考えるだけ無駄だ。無い物をねだっても仕方がない。

 草原を走るエストリアとマリーは、途中で少しだけ休憩を挟みほぼ1日でオーレルム領へと到着した。


「マリー、あと少しですよ」


 農村部を抜け要塞都市アルマーへと戻って来たエストリアは、騎士団の詰所へと向かう。

 既に住民達の避難は完了しているらしく、いつも賑やかな街の中は閑散としている。

 たまに戦場へと向かう騎士達の姿が遠くに見えている程度だ。


 殆ど人の気配がない街の様子を見たエストリアは、思わず唇を噛み締める。

 参戦が遅れてしまった事もそうだが、生まれてからずっと領民達と過ごして来た場所が変わってしまった事実が辛かった。


 いつかは起きるかも知れない、それはエストリアだって分かっていた。

 だからこそオーレルム領があり、オーレルム家が努力を続けて来た。対策も続けて来た。

 それでもこうして、最悪の事態が実際に起きてしまった現実を痛感させられている。


「ありがとうマリー、貴女はここで休んでいて下さい」


「ブルルル」


 騎士団の厩舎にマリーを預けてエストリアは、装備を取りに詰所の武具置き場に向かう。

 そこには普段は滅多に使わない、エストリア専用の装備が保管されている。いつもの皮鎧ではなく、金属を使った本格的な鎧だ。


 腕を守るガントレットや、足を守るグリーブも含めた一式は特注品である。

 そして大勢の魔物と戦う為に作られた、金属製の大きなポールアックスもある。

 170cmの背丈を持つエストリアの身長をも超える2mの戦斧だ。


 エストリアは様々な武器を使いこなすが、この戦斧こそが本来の武器である。

 人間を相手にする場合は剣や短剣で十分だが、巨大な体躯を持つ対魔物戦では勝手が違う。

 剣では決定打に欠ける事も多く、確実に一撃で致命傷を与えられるこちらを使用する。

 完全武装となったエストリアが廊下に出ると、オーレルム家の侍女達と遭遇した。


「え、エストリア様!? 何故ここに!?」


「貴女達こそ!? 早く避難しなさい!」


「騎士達が戦っているのです! せめて出来る事をやらないと!」


 例え戦えない非力な女性であろうとも、オーレルム家の一員として仕えている事は変わらない。

 それ故に単なる侍女の身分であろうとも、覚悟は既に決まっている。

 危険な状況であろうとも、騎士達が帰って来た時に食べる物や着替えなどを誰かが用意せねばならない。


 怪我をして帰って来る者だって大勢出るだろう。だからせめて、彼らの手伝いぐらいはしたい。

 オーレルム領に住む人間として。そんな確かな覚悟の下に行動している侍女達を、エストリアは止めるのを辞めた。

 例え戦士では無かろうとも、十分な資格を有していると判断した。


「無理はしない様に。それで、お母様はどちらに?」


「会議室で指揮を取られていらっしゃいます!」


「ありがとう!」


 オーレルム領での防衛戦は、当主の配偶者が全体の指揮を執る場合が多い。

 直系の領主一族は戦闘力が非常に高い為、戦場に立ってこそ真価を発揮する。

 また最高の戦力が現場に出る事で、部下達の士気にも良い影響を与える。


 そんな理由から、当代でもソフィアが総指揮官となって戦場をコントロールしている。

 オーレルム家に嫁ぐというのは、対魔物戦のエキスパートになる事を意味する。

 同じ理由から次期当主であるルーカスの妻、ヴェロニカも当然様々な戦術について学んでいる。

 詰所の2階にある作戦会議室では、ソフィアが指示を出しヴェロニカが副官を務めていた。


「お母様!」


「エストリア!? 貴女、どうして!?」


(わたくし)はどこへ向かえば良いでしょうか!?」


「…………はぁ。ルーカスが居る西の砦が苦戦しています。そちらの援護を頼みます」


 大城壁の東西の端にはそれぞれ砦が設置されており、こうして魔物が溢れた時は現場を指揮する部隊長が砦の責任者となる。

 現在東の砦を担当しているオリバーのベテラン部隊は何とかなっている。


 しかしまだ若い世代が多いルーカスの部隊では、経験不足から来る苦戦を強いられていた。

 そんな戦況を知ったエストリアは、兄のサポートをする為に戦場へと向かった。

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