第14話 雨音が教えてくれた事
今日も今日とてエストリアとオズワルドは、農村で収穫を手伝っている。最初の頃は初心者丸出しだったオズワルドも、今では十分な戦力となっている。
流石にエストリア程のパワフルさは無いが、人並み程度の成果はしっかりと上げている。
そうして結果が出せる様になった事で、オズワルドは更なる楽しみを見出していた。
適度に体を動かす事にもなり、ここ数ヶ月のストレスが発散されていく。
「ふぅ、今日も中々の量が採れたな」
「お疲れ様ですオズワルド様。タオルをどうぞ」
「すまないエストリア、ありがとう」
最近のオズワルドは、王子の正装よりも借りた騎士服でいる事が多い。流石に王族の煌びやかな格好では農作業に向かないからだ。
しかし服装が一般的な騎士用の物であっても、オズワルドが纏っている上品なオーラまでは消えない。
結果農村で暮らす女性達の熱い視線が彼に向かっている。だがそれはオズワルドへの憧れだけが理由では無かった。
エストリアと2人で仲睦まじくしている光景を楽しんでいるのだ。
本人にはその自覚がないのだが、オーレルム領の若い女性達の多くはエストリアに憧れている。
男性にも負けない強さに、その生まれ持った美貌。誰にでも優しく気さくな対応に、領民想いの貴族の鑑。これで憧れるなという方が難しい。
「うん? どうしたのだ彼女達は?」
「さあ? なんでしょうね?」
とても良い笑顔で2人を見守る女性達。その理由が分からない2人は首を傾げるしかない。そんな様子もまた女性達を楽しませる。
まるで恋物語でも見せられているかの様で、最近領内で流行っている妄そ……噂話にもなっている。
何せ2人はお似合いの美男美女であり、元々エストリアの人気が高かったのも合わさりこれ以上ないホットな話題となっている。
また年下の王子だという事が、女性達の琴線に触れた。
見目麗しい青年に求婚される大人の女性、そんな詩を披露する吟遊詩人が今現れれば人気は爆発するだろう。
そんな2人の邪魔をするかの様に、急に天候が崩れて大粒の雨が降り始めた。
「このままでは水浸しになってしまう!」
「急いで籠を運びましょう!」
「俺も手伝おう!」
この時期は特に天候が急変し易いので、こういった事が度々起こる。エストリアや領民たちは慣れているので、素早く片付けていく。
オズワルドや護衛達もその手伝いを進めていき、どうにか収穫物は倉庫に避難させる事には成功した。
だが雨は強くなる一方であり、暫く止みそうもない。エストリアは農民達を帰宅させ、オズワルドと倉庫で雨宿りをする事に決める。
この様な天気になった時は、大体数時間は降り続ける。このままでは風邪をひいてしまい兼ねないので、護衛達の大半が一旦着替えと馬車を取りに戻る事になった。
「お前達も中に入ればどうだ?」
「いえ、自分達は扉の警備に回ります」
「屋根もあるのでお気になさらず」
「……そうか? すまないな」
あれ以来暗殺者は現れておらず、気にし過ぎかも知れないが念の為だ。倉庫の入り口には、2人の護衛が立つ事になった。
護衛に入り口を閉められると、倉庫の中はエストリアとオズワルドの2人だけ。それに気が付いたオズワルドは、何だかソワソワしてしまっていた。
最近気になる大人の女性と、完全な2人きりはこれが初めてだった。もちろん外に護衛達が居るが、大きな雨音が2人の話声をかき消している。
そのせいで余計と2人きりである事を、オズワルドに激しく意識させる。
「ふぅ」
「なっ!?」
「結構濡れちゃいましたね。服を絞った方が良いですよ」
エストリアは普段から着用している皮鎧を外し、濡れた騎士服の裾を絞り始めた。
その行動が原因で、上着の裾がめくれて腰回りの肌が少し見えてしまっていた。
おまけに衣類が濡れた事で、体に張り付きエストリアのスタイルの良さがより強調されてしまっている。
本来なら恥ずかしがるべき所だが、エストリアは全くその様子を見せない。
騎士として生きて来た事と、オズワルドを弟の様に感じていた事による弊害が出ていた。
全く異性扱いされていない事が、何故かオズワルドは我慢出来なかった。そんな風に思ってしまう理由が、この時点では彼にも分からなかった。
「エストリア」
「はい?」
「俺だって、男なんだぞ?」
「えっ!?」
オズワルドはエストリアに近付くと、服を絞っていた腕を掴み少し強引に引き寄せる。
不意打ちだったのでふらついてしまったエストリアを、支える様に抱き寄せながら捲れた裾をオズワルドは正した。
これまでにない程に近い距離で2人は見つめ合った。今までエストリアが意識していなかった、オズワルドの逞しいガッシリとした体つき。
優しく抱き寄せたその力強さと、彼から向けられる熱を帯びた視線。
それらを体感したエストリアは、今までに感じた事がない程に心臓が激しく脈打つのを感じた。
何故そうなるのか、この感覚が何のか彼女には分からない。
「貴女は魅力的な女性なのだ。男の前で、そんな無防備な姿を晒してはいけない」
「あっ、あの!?」
「これ以降は、気を付けてくれよ」
オズワルドはエストリアをゆっくりと解放した。そして彼は気付いた、自分が抱いた感情に。
他の男に見せたくはないという独占欲に。自分が知らない所で、エストリアが肌を晒す様な事があって欲しくないのだと。
こうなって漸く自覚出来たのだ、目の前に居る女性が自分にとってどういう存在なのか。
もうどうしようもないぐらいに、惹かれてしまっているのだ。
独特で面白い女性としてではなく、1人の異性として恋愛感情を抱いている。
それを理解したオズワルドと、自分の感情が理解出来ないエストリア。2人は微妙な空気のまま、迎えが来るのを待ち続けた。




