第13話 オズワルドの護衛達
オズワルドの護衛として、王都からオーレルム領まで同行して来た騎士達。6人の精鋭を率いているのはトールと言う名の騎士である。
25歳の若さで護衛役の隊長に選ばれる程のエリートであり、その実力は非常に高い。
オズワルド程では無いが、それなりに整った容姿をしており妻帯者でもある。
トールはこの国では珍しい黒髪の持ち主であり、両親と共に別の国からレアル王国に移り住んで来た。
彼は外国人でありながらも、要職に就ける程の勤勉さを持つ男性である。
そんな隊長をサポートしているトールの後輩、副隊長のオーガスは彼と共に夜遅い時間ながらワインを嗜んでいた。
「漸くオズワルド様にも、良い人が現れた様だな」
「まだ分かりませんよ先輩? 相手は年上ですし」
「好感度はそう悪くない様だし、何とかなるだろう」
トールはオズワルドが10歳の頃から護衛に就いていたので、7年もの間ずっと一緒に過ごして来た。
流石に当時はただの一兵卒であったが、オズワルドの信頼を勝ち得て今の地位にまで昇り詰められた。
そう言った経歴がある為に、トールから見ればオズワルドは歳の離れた弟の様な存在である。
その弟の様に想っているオズワルドが、明らかに異性としてエストリアを意識しているのだ。兄貴分としては是非とも上手く行って欲しいと考えている。
オズワルドはこれまで、全くモテなかったのではない。むしろ逆で、王子としての地位と優れた容姿により婚約者の座を狙う者は多い。
だがオズワルドは、どうにも王都で暮らす女性とは気が合わなかった。
「しかし驚きましたよね、オーレルム家のご令嬢があんなに美人だなんて」
「しょせん噂なんてそんなものさ」
「王都の人間が見たら驚くでしょうね」
誰が何の目的で流したのかは不明だが、エストリアはとんでもない化け物だと恐れられている。
騎士として非常に優秀である兄2人や、父親であるオリバーのイメージが強いのもあるだろう。
普通に考えれば、今もなお美しいソフィアの娘であるのだから有り得ないと分かる筈だ。
しかし他人の噂話というのは、面白おかしい方が好まれるもの。本人が不在なのも相まって、要らぬ尾ひれが追加されていった。
ソフィアや義姉達はもちろん否定していたが、体格が良いのは事実である。それが余計に話をややこしくしていた。
兄2人に至っては、その方が余計な虫が付かなくていいと放置していた。オリバーもどちらかと言えば息子寄りの立場なので言わずもがな。
「家柄も良く護衛が務まる程に強い。王族の結婚相手としては最高だな」
「領民想いだというのも、王子と気が合いますしね」
「あの様なご令嬢が独身でいたのは奇跡だよ」
「本当ですよね。普通ならもう結婚している筈です」
2人がまだ知らないだけで、エストリアが独身なのは奇跡でも何でもない。単に本人が恋愛初心者過ぎる事が主な原因である。
そして家庭内の男性陣にも責任がある。2人の兄が可能な限りエストリアに異性の手が伸びない様にして来た。
領内の若い男性陣は、大体兄達から一度は警告されている。おまけに父親はこの地で領主をしているのだ、その辺りにいる若造がどうにかしようとは思わない。
結果どうなるかと言えば、恋愛経験のない非常にピュアな女性が出来上がる。なるべくしてなった結果に過ぎないのだ。
「後はオズワルド様が、男気を見せられるかだな」
「もうすぐ婚約式ですからねぇ」
「そういうお前も、そろそろ結婚したらどうだ?」
「自分はまだもう少し1人で結構ですよ」
オーガスはごく平凡な容姿の男だが、騎士としての力量は非常に高く人当たりも良い。
見た目だけで判断する様な人々からの評価はイマイチだが、仕事ぶりもしっかりと見るタイプからは受けが良い。
年齢もトールの1つ下の24歳であり、もう少し独り身を満喫してもそれ程困る事はない。それに当てがないという事でもないのだ。
彼は彼なりに、上手に人生を楽しんでいる。それにわざわざ口には出さないが、上司であるトールに気を遣ってもいる。
副隊長の自分まで子供が出来てしまうと、トールが仕事を休み難くなってしまう。まだ子供が幼いトールへの配慮も含まれているのだ。
「ま、王子が結婚したら考えますよ」
「また適当な事を」
「まあまあ、今は王子の話でしょう?」
そう言うとオーガスは新たなボトルを開封する。彼は上司がオズワルドの事を弟の様に思っている事を知っている。
だから今のやや浮かれた状態をもう少しだけ、上司に満喫させてやろうとの考えだ。
もちろんオーガスにとってもオズワルドの幸せは喜ばしいものだ。だが一番喜んでいるのは誰かと言えば、やはりトールである。
数年前に母親が亡くなってしまい、父も今や病に倒れた。2人の兄達からは命を狙われ、身内と呼べる相手はごく少数。
エストリア達オーレルム領の人々は温かく迎え入れてくれたが、昔からオズワルドに寄り添って来た人物はそう多くはない。
「是非とも成就して欲しいものだ、恐らくあれが初恋の筈だからな」
「あれ? そうだったのですか?」
「俺が知る限り、だけどな」
事実、これがオズワルドにとっての初恋である。まだその自覚は薄いようだが、着実にエストリアに惹かれて行っている。
後はもう、その想いに気付く切っ掛けが訪れるのを待つのみという状態になっていた。




