第12話 子供達との戯れ
本日のエストリアはオズワルドの護衛役である。護衛は当番制であり、数日おきにエストリアの番が回って来る様になっている。
エストリア達護衛役を連れて、今日もオズワルドは普段エストリアがしている様に農村部の視察に来ている。
この所オズワルドは、オーレルム領の民達との交流を深めている。田舎故の温かみが気に入ったのもあるが、自身の理想である王族の在り方が実現できる事が大きい。
王族の一員として民との交流を大切にする、そんな毎日が送れている。
オーレルム領はそもそも領主からして民との距離が近い。収穫祭には領主が自ら舞台に上がるし、領民と共に酒を飲み交わす。
それにエストリアという頻繁に領民の前に顔を出す領主の娘までいる。
これが日常であるからして、領民達も王子だからと言って変に壁を作ったりはしない。
「また随分と豊作だな」
「ええそうですよ殿下。お陰様で今年は実りが良いのです」
「麦畑とは、こうも綺麗なのだな」
黄金の様に輝く広大な麦畑が、オズワルドの目の前に広がっている。オーレルム領はモアラ大森林に近いからか、特に作物の育ちが良い土地だ。
魔物の脅威がある代わりに、国で一番の食料生産力がある。だからこそ可能となる辺り一面の麦畑は、ここでしか見る事が出来ない景色だ。
オズワルドは王族であるからして、美しい美術品や高価な宝石を日常的に見て来た。それらも素晴らしいものではあるが、彼にとってはこの光景の方が好ましいと思えた。
そんな風に麦畑を見に来ていたオズワルド達に向かって、村の子供達が集まって来た。
「エストリアおねーちゃん! いつものやってー!」
「僕もー! やってやってー!」
「ごめんなさい、今日はお仕事中なの」
「これお前達! 無茶を言うのではありませんよ!」
いつも通りエストリアに構って貰おうと、幼い少年少女達が彼女の周囲に群がる。
今日のエストリアは軽装ではあっても、騎士服の上に金属鎧を身に纏っている。その格好を見れば仕事中だと一目で分かるが、子供達にはまだその判断はつかない。
遊んで貰おうと集まった子供達向かって、麦畑で作業をしていた中年の女性から叱責が飛ぶ。
幾ら民と距離が近いとは言っても、仕事中の貴族に向かって失礼があってはならない。
だが幼く分別がつかない子供達からは、不満の声が上がる。困った顔で子供達を宥めるエストリアを見て、オズワルドは提案する。
「俺がここを動かなければ良いのだろう? 少しぐらい構わない」
「ですがオズワルド様……」
「いつものと言うのが、どんな物か見てみたくなったしな」
「……そう仰るのでしたら、少しだけ」
そこまで王子に言われてしまっては仕方ないと、エストリアはいつものを披露する事にした。
適当に足下にいる2人の子供を両手でひょいと持ち上げて、自らの両肩に1人ずつ乗せた。
子供達は大体6歳ぐらいの子供達である。つまり体重の平均値は大体20kg程になり、それを片手で1人ずつ持ち上げて肩まで移動させたのだ。
総重量は約40kgだが、エストリアはどこ吹く風で子供達に風景を見せている。
子供達はグッと高くなった視界に喜び、笑い声を上げて大人の目線を堪能している。
まさかそんなトンデモ技を披露するとは思っていなかったオズワルドは、恐る恐るエストリアに尋ねる。
「エストリア……その、重くはないのか?」
「はい、これぐらいなら全然平気ですよ!」
「そ、そうなのか?」
「オズワルド様もやってみます?」
ここで断るのは、何だか格好悪くて嫌だなとオズワルドは思った。それに丁度目の前にいた少年が、期待に目を輝かせてオズワルドを見上げている。
これでやらないという選択肢はない。しかしエストリアと全く同じ事が出来る自信もない。妥協案として、オズワルドは少年に肩車をする事に決めた。
無茶をしようとする彼を護衛達が止める前に、サッとオズワルドは屈みこんで肩車の体勢で少年を持ち上げた。
彼が思っていたよりも重かったが、持ち上げられない程では無かった。オズワルドはふらつく事もなく、真っ直ぐに立ち上がる。
「うわーー! すげーーー! エストリアねーちゃんより高い!」
「思った程、大変ではないな」
「そうでしょう!」
「いや、流石に貴女の真似は出来ないぞ?」
さも当然であるかの様に同意を求めるエストリアであった。だがあくまで思った程ではないというだけに過ぎない。
とてもではないがオズワルドに同じ事は出来ない。1人ずつが限界だし、肩車しか出来そうになかった。
対してエストリアは、あれぇ? とでも言わんばかりの表情をしている。
簡単に出来て堪るかと、王都から来た騎士達は内心で思っているが黙っていた。
それはともかく、エストリアよりも高い目線が楽しめると知った子供達がオズワルドの周囲を囲む。
「大人気ですね、オズワルド様」
「こんな風に子供達に囲まれたのは初めてだよ」
「も、申し訳ございません殿下!」
「なに、気にしないでくれ」
オズワルドまで参戦した事に気付いた中年女性が頭を深く下げる。だがそんな事をオズワルドは気にしない。
取り入ろうとか婚約者の座を狙おうとか、そんな欲のない無邪気な好奇心に囲まれた経験を楽しんですらいた。
そうしてオズワルドは、エストリアと共に子供達と暫くの間戯れるのだった。
もし自分が家庭を持ったら、その時はこんな感じなのだろうか。そんな年相応の思春期男子っぽい事も、密かに考えながら。




