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第11話 シスコン1号

 オズワルドがオーレルム領に馴染み始めた頃、ルーカスに突然呼び止められ彼の執務室に招待された。

 特に用事も無かったので、オズワルドに断る理由はなかった。ルーカスの執務室でテーブルを挟んで向かい合う。


 ソファーに座ったルーカスは、メイドにお茶の用意だけ頼むと神妙な面持ちでオズワルドを見て居た。

 何の用があるのだろうと、オズワルドが疑問に思っているとルーカスが口を開いた。


「オズワルド様は、エストリアをどう思いますか?」


「明るくて強い女性だと思うが」


「ええその通りです。しかしもう少し、踏み込んだ意見が欲しいですね」


 一体何の質問をされているのだろうか。オズワルドがそう思っても仕方ない。

 騎士としての評価をすれば良いのか、貴族令嬢としての評価を求められているのか。

 それとも1人の女性としての評価なのか、彼には全く分からない。


 それに評価をするにしても、騎士として見る場合は自分の方が劣っている。偉そうにどうこう言える立場ではない。

 貴族令嬢としてどうかという意味でなら、そもそも聞く相手を間違えている。それは女性に聞くべき話である。

 そして女性として、という点に関しては正直あまり人に話したくはないのがオズワルドの心情である。


「何の話か良く分からないのだが?」


「分からないのですか!? あの子の素晴らしさが!?」


「急にどうしたルーカス殿」


「あの可愛らしい妹を見て、何も思わないのですか!?」


 突然勢いを増すルーカスに、オズワルドはついていけない。話の方向性はとりあえず分かったが、ルーカスの情緒が滅茶苦茶過ぎる。

 どうやら随分と面倒な事に巻き込まれたらしいのはオズワルドにも理解は出来た。

 誰かルーカスを落ち着かせられる人物を呼びたい所だが、この場には今2人しか居ない。


 今オズワルドは、切実にヴェロニカを呼びたかった。だが悲しい事にこれが現実、どうにかオズワルドは自身の話術で乗り切る事を決意する。

 面倒な会話ではあるが、自分は世話になっている身。無視して出て行くのは憚られる。


「もちろん美しい方だとは思っていますよ」


「そうでしょう!? やはり分かりますか!?」


「エストリアを見て美しいと思わない者は居ないのでは?」


「そうあの子はとても美しい。ですがオズワルド様! 不埒な目を向けてもらっては困りますよ!?」


 面倒臭いなと、オズワルドが思ってしまっても許されるだろう。自分からこの話になる様に仕向けておいてこの言い草。

 非常に厄介な酔っ払いの様だが、この男はこれで平常運転である。これで酔っていないとは信じたくはないが、一滴もアルコールを摂取していない。


 重度のシスコンである兄ルーカスは、勢いよく上半身を乗り出してオズワルドを見ている。

 もちろんオズワルドは不埒な目など向けていないし、その様な事をするつもりもない。あくまでも真摯に対応するつもりでいる。


「その様な目は向けておりませんよ」


「妹には魅力が無いと言うのですか!?」


「そなた結構厄介な男だな!?」


 あまりの物言いに、つい本音を漏らしてしまうオズワルド。これはどう答えても必ず悪い方へ行ってしまうパターンである。

 興味がある様に答えると警戒され、興味が無いと答えるとこうなるのだ。どの道逃れる事の出来ない、永遠に続く会話のスパイラルである。


 どうしろと言うのだと、オズワルドは叫びたかった。本音で言えば、彼はエストリアに女性としての魅力を感じている。

 しかし17歳という多感なお年頃である為、それを馬鹿正直に誰かに話すのは抵抗があるのだ。


 だからこそこの話題は、オズワルドにとって厄介極まりない。下手に興味は無いと答えて、彼女に知られてしまったら。

 それはそれで困るし、逆に肯定しても同じ事だ。


「そろそろ妹も、結婚して良い年齢でしょう。しかし、相手が誰でも良いという訳ではありおません」


「それは……まあ分かるが」


「そうせめて、この(わたし)と互角に戦えるぐらいには強くあって貰わねば!」


「……それではエストリアが結婚出来なくなってしまうのでは?」


 エストリアの結婚を願う母親と妻の策、その妨害をし過ぎると怒らせてしまう。以前お見合いに大反対した後、ルーカスはヴェロニカから随分と怒られたのだ。

 嫁入りした家の婚姻事情とは言え、幾らなんでも限度が過ぎるだろうとそれはもうこっぴどく。


 もちろん次男も同様に、妻からしっかり怒られている。ルーカス達2人の兄が結婚する前は、多数決で男性陣が勝てていた。

 しかし今はもう違う。男女比は3対3であり、エストリアも含むと女性の方が多いのだ。

 それ故にこうして、オズワルドに圧を掛けるという方向で対策をしに来たのだ。


 それが何の対策になるのかは甚だ疑問ではあるが。大体素直に鍛錬に付き合えと言えば良いのに、それがルーカスには出来ないのだ。

 何故ならそれでは、オズワルドを婿と認めたと言っている様なものだからだ。

 これで次期領主なのだが、オーレルム領の未来は大丈夫だろうか?


「ルーカス、何をやっているのですか?」


「は、母上!? いや……これは、その……」


「少し、母とお話をしましょうか」


 たまたまメイドから事情を聞いたオーレルム家夫人、ソフィアの登場でルーカスは連行されて行った。

 またしても連れて行かれるルーカスを見て、魔物番の家系も色々とあるのだなとオズワルドは微妙な気分になるのだった。

ソフィア「(にっこり)」

ルーカス「ヒェッ」

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