第10話 オズワルドの意外な趣味
エストリアは昼食をとる際、オーレルム家の屋敷に戻らない事が多い。要塞都市アルマーにある飲食店や、騎士団の詰所にある食堂に行く事が多い。
領民や騎士達とのコミュニケーションを取る目的でそうしているのだ。
オズワルドの護衛をしている日はその限りではないが、お休みの日はいつも通り都市内で済ましている。
今回も騎士団の詰所にある食堂にエストリアは向かう。彼女が中に入ってみると何故だか、大勢の騎士達が厨房の方を覗き込んでいた。
「皆さん、何をしているのです?」
「エストリア様、あれですよあれ!」
「えーっと? えっ!? オズワルド様!?」
近くに居た騎士が指差した先には、厨房で料理をしているオズワルドの姿があった。驚きの光景にエストリアは思わず声を上げてしまった。
なにせ王族が騎士団の厨房にいるのだ。しかも王子の気まぐれと言うには、あまりにも手慣れた動きで調理している。
明らかに料理が出来る者の手捌きであり、食材が綺麗にカットされていく。今彼が作っているのは、食堂の定番メニューである野菜のスープらしい。
ここのメニューなど知らない筈のオズワルドは、迷いなく調理を続けていく。
つい呆気に取られて固まってしまったエストリアだったが、気を取り直してオズワルドの下へ向かう。
「あ、あのー。オズワルド様は一体何を?」
「ああ、エストリアか。いやな、ただ守って貰うだけというのも性に合わなくてな」
「だ、だからって、料理ですか?」
「騎士達への礼ならば、これが一番良いだろう?」
オズワルドにとっては、公の場で褒美を与えると言った行為は王族の責務だと考えている。
仕事の内容に対しての正当な評価を、この国の王子として行っただけに過ぎない。
感謝の念が無かったとは言わないが、それとは別に個人的に礼をしたい。彼はその様に考える王子であった。
その為オズワルドは、出来る限り世話になった者達への礼は自らの手で行う。
相手次第で内容は様々だが、今回は護衛をしてくれる騎士達への労いとして料理を選んだ。
オズワルドにとっては普段通りの行いだが、王都での彼の生活を知らないエストリア達には驚愕の光景である。
「あの……どうしてオズワルド様は、料理が出来るのですか?」
「俺は第3王子だぞ? 兄上達と比べたら時間に余裕がある」
「そ、そう言う問題なのですか?」
「それに、俺は手先が器用なんだ」
そう言うとオズワルドは器用に食材を刻み、人参を花びらの形にしてみせた。
一般的と表現して良いのかは怪しいが、貴族令嬢であるエストリアは当然料理が出来ない。
肉を焼くぐらいなら出来るが、とても調理と呼べるレベルではない。対してオズワルドのそれは、料理人と言っても通る領域にある。
王宮の料理長でも出来そうな程に鮮やかに、そして丁寧に作業を進めていく。
オズワルドにとってエストリアが興味深い存在である様に、エストリアにとっても彼は少々独特な王子に見えた。
「何故料理を覚えようと?」
「母が病気がちだったからな。自分に何か出来る事はないか、それを考えていたらこうなった」
「……オズワルド様は、本当にお優しい方なのですね」
「よせ、そうではない。手先は器用でも、生き方が器用でないだけだ」
エストリアに褒められた事で照れつつ否定するオズワルド。確かに臥せっている母親に何か貢献したくて、料理を覚えたというのも変な話ではある。
王族なのだから、料理人に任せれば良いだけだ。それが自らの手で、母親の為に食事を作るまでに至ったのだ。
努力の方向性はややズレているかも知れないが、彼が人の為に頑張れる王子である事に変わりはない。
生き方は不器用でも、親しみが持てる温かさがあった。領民と共に生きる事が幸せだと考えるエストリアにとって、オズワルドは理想的な王族であった。
「それにな、覚えてみるとこれが結構楽しくてな」
「そう、なのですか?」
「今では趣味の様なものさ。だからかもな、収穫を楽しめたのは」
たまにエストリアと共に収穫を手伝う様になったオズワルド。何故それで楽しめるのか、彼は不思議に思っていた。
しかしこうして、料理を久しぶりにやってみると分かったのだ。この食材がどの様に育てられたのか、どんな人々が育てたのか。
それを知った上で調理場に立つと、見えて来る世界が変わっていたのだ。
土にまみれながら収穫をした光景が、エストリアや領民達の笑顔が脳裏に浮かぶのだ。
オズワルドがオーレルム領に来て以来、そんな温かくて新鮮な出来事が沢山あった。
「でしたらまた、一緒に収穫しますか?」
「是非そうしよう。貴女と居るのは楽しいからな」
「え!? えっと、ありがとう、ございます?」
「さ、もう出来上がるぞ。貴女も良かったら食べて行ってくれ」
屈託のない笑顔で、共に居るのが楽しいと言われたエストリア。
そんな事を歳の近い男性に言われた事が無かった彼女は、今までに感じた事がない不思議な感覚を覚えた。
その感覚が何なのか、エストリアにはまだ分からなかった。
それはそれとして、オズワルドの料理は非常に美味であった。その美味しさに感動し、エストリアは少し……ちょっとだけ……食べ過ぎてしまうのであった。




