71 汚冥界:大聖堂前4
■コックリの視点
赤や紅、紫が混ざり合う不吉な空の下で!
ドクンドクンと鳴動する不気味な空の下で!
水蒸気の渦に隠された俺は!
瓦礫に突き刺さる諸刃の黒い大剣を握りしめる!
ぬおおおおっ!
バルログの持っていた黒い大剣!
聖水でヌラヌラと輝く大剣!
両手で握りしめっ! 力の限り振り上げる!
うおおおっ! 重い! ズシリと重い!
こんな重いものを片手で振るのかバルログは!
だが両手ならっ! 充分っ! 自在に扱えるっ!
「うおおおおおっ!!」 ブンッ!!
俺を見失ったバルログの!
首筋から脇腹へ袈裟斬り!
バキバキバキッ! ドバンッ!!
直立したバイソンを思わせる巨大な上半身を!
波斬の太刀でも斬れなかったバルログの鋼鉄の肋骨を!
手に残る衝撃! 激しく断つ!
ドシャンッ!
絶命の叫びも上げず、斜め二つに崩れ去る魔人!
っしゃあああっ!!
ゴアアアアッ!!
ゴオオオオオッ!!
水蒸気の渦の中、怒り狂い俺に突撃してくる他のバルログどもっ!!
隙だらけだっ!
俺は冷静に! その突進の勢いを利用し!
「うおおおおっ!」 ドババンッ!! ドバンッ!!
すり抜けながら横凪ぎ、袈裟斬り!
一刀の元に斬り伏せる!
ドシャドシャッ!!
うおおおおおっ! よしっ! よぉしっ!
全てのバルログを! 何とかっ! 倒したっ!
うおぉっ! 俺は剣を杖に片膝をついた!
「コックリ!」
大聖堂の正面入り口辺りで! シスの泣き出しそうな声!
いやたぶん実際に目に大粒の涙が……! 俺には分かる!
また心配かけてしまった!
「大丈夫だ!」
俺は膝をついたまま休む!
実際ヤバかった!
あと少しで霊力が切れるところだった!
バルログがバルログをこの黒剣で斬り捨てたのを見て、一か八か手にしたが!
良い判断だったか!
「皆、大聖堂内に! 早く!」 と言いかけたその時……
ゴロゴロゴロゴロ……
赤がうねる空から! 雷鳴!
見上げると……おおっ白い雲が!
よしっ! ミサが始まる……!
最後の最後で! ツキが戻って来たんじゃ!?
早く祭だ……
「ん……っ!!」 ゾゾゾゾォォッッ!!
刹那!!
がっ……背筋……っ!!
冷やっ汗……っ!!
「バ……ッ!」
”あっ!”
ルシェリアが女性たちの元へ……!
俺の視界に……!!
大聖堂の屋……!
鐘楼の……!!
巨大……蜘蛛……!!
「祭壇へ走れっ!」 俺は水蒸気に隠れながら!
「「!?」」
「早くっ!!」 その時!
ギャリイイイイィィン!
恐ろしいっ金属音っ!!
「ぐあああああっ!」 心臓がぁっ! ぐああああっ!
「「ひぃやああっ!!」」 女性陣がっ! 瓦礫に伏す……!
”ああっしっかり!”
ぐああっ俺は心臓を抑え! 屋根を……!
そこには十メートルを超える蜘蛛の化け物が……!
ぐおおっ!
老人の顔と猫の顔がキョロキョロと……!
ぐうぅっ! 化け蜘蛛は水蒸気で俺が分かってない!
女性たちは!? よしっ大聖堂の死角に!
よし……!
は、早く! 祭壇に! ぐぅっ!
しかしアルシャーネ司祭の聖輝光の中にあっても……これほどの!
その時……!
ギゴゴゴオオオォォォ……ッ!
背後! 巨大な船の軋む……!
歯をくいしばり……後ろを!
うおおっ……船竜の口から……!
ゴアアアア……ッ!
ゴオオオオオ……ッ!
ワラワラと……!
またバルロ……今度は九~十体……!
ヤバイ……何てこった!!
とバアルがバルログに視線を!
刹那! 互いに威嚇!
ゴアアアア……ッ!
ゴオオオオオ……ッ!
ギャリイイイイィィンッ!
ぐああっ! ぐああああっ!
俺は気づいた。バアルもバルログも……!
瓦礫の中央、奴らの中間地点にいる俺が水蒸気で見えていない……!
このままやり過ごせるか!?
いや無理だ!
いずれミサの雨が水蒸気を消す!
水蒸気が消えたら俺も見つかるし、何よりバルログから大聖堂内が見える!
建屋右側の壁が崩れて……祭壇が丸見えだ……
このままミサが始まったら……
バルログに見つかり、バアルに見つかる!
くそっ! 女性たちが祭壇までどんなに急いでも三十秒!
もし見つかればバルログなら十秒で大聖堂に入り、行く手を遮るだろう!
そしてバアルも入ってくる!
どうする!? あと数秒だ……! ヤバイ!
どうする!? 壁があれば……!
あそこに壁が……!
ギャリイイイイィィンッ!!
ぐああああっ!
あ、あの『最終手段』を使うか!?
ルシェリアに教えてもらった手段!
だが問題も……!
とその時……
ついに……それが……!
ポツ……ポツ……
ポツリ……ポツリ……!
「くっ! ヤバイッ!」
ついに! 始まった! ヤバイッ!
俺は……! 水蒸気の中から大聖堂を見……!
半壊し、祭壇が見え……!
その祭壇に朧気ながら人の形が……!
後ろはっバルログはまだ気づかない!
くそっ壁が! 壁があればっ!
待ち望んだ雨なのにっ!
ポツポツポツポツ……
雨脚が強く!
祭壇には薄っすらと横になったまま宙に浮かぶ人の形が……!
女性たちは……まだ入口付近で膝を……!
走れないのか!? ヤバイッ!
ゴアアアア……ッ!
ゴオオオオオ……ッ!
くっバルログは癒しの雨を嫌がり!
ヤバイ! 雨宿りできる大聖堂へ行く!?
ギャリギャリン……ッ!
ぐあうっ!! バルログも不快がる!
そしてついに……!
サアアアアァァ……!
来たっ!
祭壇は……!
くっサマラの肉体が……
完全に浮かび上が……!!
その時!
瓦礫から発生していた水蒸気が!
雨で消えた!
雲から稲光!
化け蜘蛛のシルエット!
それを見た瞬間、俺はその方法を思いついた!
「走れっっ!!」
「「!!」」
”!!”
俺の叫びに! 女性たちと! ルシェリアと! バルログと! バアルが!
俺を見る!!
ギャリイイイイィィンッ!
ゴアアアアッ!
ゴオオオオオッ!
「ぐあっ!」 心臓がぁっ!
「「ひゃああっ!!」」 女性たちがまた膝を!
”慈音!” クオオオオォォォンッ!!
うおおっ! 癒しの音が!
心臓の痛みがなくなる!
癒しの音がバアルの声を相殺!
何だよっこんな良い魔法があるなら始めから使ってくれ!
というか居場所がバレるから使えなかったのか!
「走れっ!」
「「はいっ!!」」 女性たちは大聖堂の入口から中へ!
ゴオオオオオッ! ドドドッ!
ギャリイイイイィィンッ! バンッ!
バルログが一斉に俺の元へ!
バアルも屋根から俺に向かい跳び!
俺は!
大聖堂の崩れた壁に向かい走る!
右手と肩に黒い大剣!
左手にはシュバイツァーソートを!
走りながら!
「聖剣技!」
俺は壁まで五秒!
バルログは壁まで十秒!
バアルも十秒!
女性たちは祭壇まで三十秒!
つまり俺が!
壁になる!
俺は大聖堂の崩れた壁の中へ!
反転!
ドドドドドドッ!!
目前にバルログとバアルが! うおおっ!
「迅雷の陣! その変形!」 俺は剣をバルログたちに向けっ! 「迅雷の障壁!」
刹那っ!
切っ先に球形の稲光!
そこから崩れた壁を補うように!
いや壁に張られた蜘蛛の巣のように!
稲妻が広がっていく!
バリバリバリバリッッ!!
ゴアッッ!!
グオッッ!!
ギャリッッ!!
崩れた壁を網羅するっ稲妻の蜘蛛の巣!
バルログとバアルがっ稲妻の蜘蛛の巣にかかるっ!
よっ……しっ!!
「うおおおおっ!!」 もってくれ俺の霊力!
「しっ、しっかり!」
「頑張ってくださいませ!」
女性たちのっ応援っ!
女性たちはっ走るっ!
早くっ行けっ!
ギャリィッッ!!
ヤバイッ! 霊力が弱い!
雷の威力が! 落ちてきている!
バアルが! 徐々にっ!
雷の巣からっ!
中にっ!
「さっせっるっかああっ!」 バリバリバリッ!
だがっ!
太いっ毛むくじゃらのっ足で……っ!
雷の巣をっ広げ……っ!
二メートルはあるっ巨大なっ老人の顔が……っ!
雷の巣から抜け……っ!
ニタアッ……と!
「ぬおおおおっ!」
"援護します! 雷!"
バリバリバリッ!!
ルシェリア! 援護をっ!
ギャリィッッ!!
稲妻が老人の顔にっ!
雷の巣がっ! しまる!
とルシェリアが俺の元に!
"私の霊力で聖剣技の維持を援護します!"
「たっのむっ!」
ルシェリアは俺の背に! すると霊力を流し込んで!
ぬおおっ! 威力がましっ!
「ルシェリア! 最終手段を使う!」
”あ、あれをっ!? 今ですか!?”
「いや! 女性たちを現世に送り返したらだ!」
「「えっ!?」」
女性たちの足が止まる!
「走れっ!」
「「は、はいっ!」」
女性たちは再び走り始め!
あと十数メートルだ! シスが叫ぶ!
「コックリ! ルシェリア! 来てっ!」
「無理だ!」”無理です!”
「「え!?」」
聖剣技を解くわけにはっ! いかない!
「そのまま聞けっ!」
「「はいっ!」」
「俺とルシェリアを残しっ! 皆っ現世に戻れっ!」




