47 汚冥界:居住区(修道僧 宿坊)
⬛システィーナの視点
うぅ、怖いっ!
通路に蔓延る闇が……
怖いっ!
私たちはほぼ一列になって小走りに駆ける!
ノームを先頭に、クラウディーアさんが続き、その後ろに私とアルシャーネさんが左右で並び、殿にもう一体のノームが続く!
広くて天井が高い通路ゆえの怖さ。
光の精霊の輝きではカバーしきれない! 闇が深々と降り注いでくる!
瘴気がモヤモヤ漂っていて、光の精霊がぼやけた光になる。
外の雨は止み、無数のガーゴイルの叫び声が木霊する! うわぁっ、声が凄く近い! そろそろ来る! 一体一体は強くないけれど、数が! 多勢に無勢だよ!
と、ノームが突然立ち止まった! えっ!?
「危ないっ! 止まって!」
「「ひゃあっ!」」
先頭のノームの前に陥没が! 床が! 崩れてる! 通路に大穴が開いてて! 下は居住区の地下層だ!
シャアアアアァッッ!! シャアアアアアッ!!
「は、はわわ! グールがっ!」
数十体のグールが! 穴の底からこちらを見上げて、這い上がろうとして! 壁をガリガリとひっかいてる! き、気持ち悪い! こ、ここを落ちたら大変だ!
「あ、危なかった! ノームが立ち止まらなかったら気づかなかったかも!?」
「足元が脆そうです! 気を付けていきましょう!」
私たちは大穴を迂回する。この先の闇の中にも、まだまだこういう崩落箇所があるかも!? だよね!?
私たちは新たに気を引き締めながら、再び闇の通路を駆ける! ああっ、縦に長い亀裂のような窓から、赤黒い不浄な光が射す! 暗闇の通路に斜めに射すおぞましい光! こ、怖いっ!
「い、今っ、居住区のどのくらいまで来ました!?」 私は恐怖を打ち消すように声を出す!
「城壁のような居住区は! 天から見下ろすと楕円に近いU字型で、看護房はU字型の右上部分でした! 今、そろそろU字型の右下に届くところです!」
走りながら早口で答えるアルシャーネさん! 言われて見れば、通路は右に大きくカーブして! 糸はどこまで繋がってる!? このまま進めば、賓客の間か修道僧の宿坊か地下墓地!?
「見てください! 壁に出入り口が! U字型の底部分に来ました!」
湾曲した右の壁に大きな穴が開いていて!
そう、現世ではここに扉があって、大聖堂前の小広間に出られた! ああ、壁の穴からは大聖堂のファサードが見える! グルッと回ってきたんだ!
「ふおおっ! ケルベロスとデモンの死骸が!」
ああっ本当だ! 両断されたケルベロスやデモンの死骸が! 大聖堂前の小広間に転がってる! うわぁっそれをグールやガーゴイルが食べてるっ! 四つん這いになって、内臓に頭を突っ込んで! うわぁっデモンの血はドロッとした紺色!? 気持ち悪い!
ああっ! 大聖堂内から戦闘音が! コックリの波動砲の炸裂音も聞こえる! ぶ、無事ってことだよね!? とクラウディーアさんが小声で!
「気づかれないうちに! 行きましょう! 一刻も早く、サマラの魂を連れ戻しましょう!」
「「はいっ!」」
私とアルシャーネさんも小声で返答すると、再び居住区を走り出した!
暗い通路を進みながらも、外からの戦闘音が! コックリ、頑張って! ああ、こちら側の通路の床も、穴が開いてるところがある! ああっ、やっぱりグールがウヨウヨしてっ! と私は気づいた。
「もしかして! しばらくの間ミサができなかったから、こんなに化け物が多いんでしょうか!?」
「その可能性はあります!」
そう、地下墓地で見つかったフェルメーテの死体には、ミノタウロスの痕跡しかなかった! グールやらその他の化け物の痕跡はなかった! つまり当時は化け物はいなかったんじゃ!? 修道院もふもとの町にも!
そうっ、当時はミサを毎朝毎夕行っていたから!
化け物にとってミサを行っていた時の修道院は、存在したくもない不快な場所だったと!
その時! 通路内から、赤黒い光の筋が射す闇の中から! 不気味なそれが木霊した!
ケタケタケタ……
ケタケタケタケタ……
「はわっ! 何!? 何この笑い声!?」
「何だ!?」
微かな笑い声が通路内に反響して……いやぁっ! 気味が悪い! と、天井付近に! 何かが揺れ動いたのが見えた!
「天井! 何かいます!」
「「!!」」 天井の闇の中に! 揺れ動く何か! 「黒い布!?」
そうっ! 黒い布! ボロボロの黒い布! いや、黒いローブ!? フードが付いたボロボロのローブ!?
複数のボロボロのローブが! 音もなく滑り降りてきた! ローブからは白い骸骨の手が! 両手持ちの大きな鎌を持ってる!!
「グリムリッパーだ!」
ひゃあっ! いわゆる死神! フードの下で、骸骨がケタケタ笑ってる!とクラウディーアさんめがけてグリムリッパーが攻撃してきた!
「ふおっ!」 クラウディーアさんは盾で鎌を防ぎ……と思った次の瞬間! ドスッ!!「ぐあっ!!」
「きゃああっ!!」
「クラウディーア!!」
きゃああっ! 鎌が! 盾をすり抜けて! クラウディーアさんの手首を貫通し腕の付け根に突き立った! きゃああっ!
「ぐおおっ!」
そのままリッパーはすり抜けて!
鎌もスルッと突き抜ける!
え!?
血は出てないっ!?
けれど!
「ぐああっ! 腕が!」
クラウディーアさんの腕が! 力なくブランとなった! でも腕は斬れてない! 鎧も服も斬れてない! 外傷はないけれど! クラウディーアさんは腕をブランとさせてっ! ああっ! もしかして!!
「「霊が斬られた!?」」
肉体内に満ちる霊を斬られた!? 霊は魔法の根源であり心そのもの! 心が斬られたら!? どうなるの!?
と、次々とグリムリッパーが襲い掛かってきた!!
「聖魔法! 聖輝光!!」
アルシャーネさんが! 合掌して! 次の瞬間、アルシャーネさんを中心に半径三メートルくらいが! 一気に黄金色の光に包まれて! 私たちも、突撃していたグリムリッパーも聖なる光に包まれて!
ヒヤアアアアアッッ!!
聖なる光に包まれたリッパーはローブの中身が消滅して! ローブがふわりと落ちる! ああっ! 光の範囲にいなかったリッパーが! 踵を返して逃げていく!
「させません!」
アルシャーネさんは両手を突き出して! フォッフォッフォッと光の玉が逃げるリッパーを捉える!
ヒヤアアアアアアアアッッ!!
やったぁっ! すべてのリッパーが! 消滅した! でもアルシャーネさんは周囲を警戒したまま、腕を抑えて膝をつくクラウディーアさんの元に駆け寄った。
「クラウ! 大丈夫ですか!?」
「クラウディーアさん!」
「ぐうっ」 クラウディーアさんは脂汗をかいてっ! ああっ!
「斬られた霊をつなぎます! 待っていてください!」
とアルシャーネさんはクラウディーアさんの腕を抑えると精神を回復させる聖魔法を唱えた。そう、霊は心そのものなので、精神回復の魔法なんだ。
「どうですか!?」
「ぐうっ!」 腕を動かしたクラウディーアさんは呻いた。「腕は動かせますが……」
「ええ、痛みまではとれません」
「クソッ、これでは……痛みで動かせない……!」
ああ、そうなんだ! 聖魔法では外傷も内傷もたちどころに治せはするけれど、しばらくは後遺症が残ってしまう。そうだった、光る海に行ったとき、双頭の亀竜と激突したコックリも、聖魔法で治したけれどしばらく痛みが続いていた……とその時!
ギャアアッッ!! ギャアアアアアッッ!!
外から甲高い鳴き声が! わあっ! 縦に細長い亀裂の窓に! グールやよく分からない化け物が! こっちを覗いて亀裂を広げようとガリガリしてる!! 通り抜けられるほどの大きさじゃないから、皆犇めいて! 腕をつき入れ、ガリガリして!!
「ああ、ゴメンナサイ! また聖輝光の光で!」
「いえっ! あのままリッパーに霊を斬り刻まれるよりマシです!」
「行きましょう! 私なら何とかなります!」
化け物たちの叫び声が木霊する中、私たちは再び走り出した!




