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46 汚冥界:居住区(看護房)

 

 ⬛システィーナの視点


 怖い。

 いびつな通路が光の中に浮かび上がる……

 魔物の体内を思わせる暗闇の通路……


 通路には薄く煙る瘴気。

 光の精霊の放つ光を薄ボンヤリと滲ませる。


 瘴気が漂う通路の片側は、穴。

 洞穴のような、暗い穴……

 グールが飛び出してくる。


      シャアアアッッ!!


 ひゃあっ! 本当に出たっ! 先頭のノームに飛びついて! でもクラウディーアさんが圧倒的な破壊力で! ボキャッ! グールの頭を粉砕する!


「本当に多いな」


 戦棍を肩に担ぎ吐き捨てるクラウディーアさん。本当にこの看護房は、グールの棲み処だ。もう数十体のグールを退治しているんだもの。後ろを見れば、メラメラと燃える火が。サラマンダーに焼かれたグールがそこかしこで燃えてるの。帰りの道しるべのよう。


「今のところグールだけなのが幸いです。グールは素早いだけで攻撃力も防御力も弱いですから。まあ牙や爪に毒があるモノもいるようですがね」 とクラウディーアさん。


 そうなんだ。気を付けないと。

 ああでも暗くて、いびつで、モヤがかかっていて怖い。現世の看護房の廊下は明かり取りのために窓が並んでいたけれど……この世界の看護房にも窓に相当する穴はあれども光が入ってこない。


 この暗い暗い廊下を、サマラは進んだんだ……魂の糸が前の暗闇の中へと続いているんだもの。

 どんな気持ちで進んだんだろう?

 一人ぼっちで……早く助けてあげたい。


 と外からまたダンッ! という炸裂音が! あわわ、まだまだコックリが戦ってる! 長期戦!? 新たな敵が増えた!? 無事でいてっ!!


「は、早くっ早く行かなくちゃっ!」

「システィーナさん、落ち着いてくださいませ! この暗闇の中、焦りは禁物です!」

「~~~~っっ!!」 わ、分かってるけど~~~っっ!!

「階段です。看護房の半分まで来ました!」


 ああっ大階段! 光の精霊によって、デコボコの歪な階段が浮かび上がる! でも糸はそのまま一階の先へと延びていて……


 と、バサバサッ! バサバサバサッッ!! と暗闇の中、何かが羽ばたいて! 階段の吹き抜けの上! 何っ!?


 バサバサバササササッッ!!


「何だ!? 無数の羽ばたき音!?」

「あっ、何あれ!?」


 私は斥候のノームに、無数の赤い光線が集まっているのに気がついた! 何あれ!? と、赤い光線はクラウディーアさんやアルシャーネさん、そして私にも何筋か当たってる!


「きゃあっ!! 何これ!?」

「ふおっ! なっ! 何だ!? ぐぅっ!」 クラウディーアさんは呻いた!

「はぅっ」 私は体が急に重くなって片膝をついた。「か、体の力が……」


 うあぁっ! 体が! 急激に重くなって! 何だか疲労感が!

 その時サラマンダーが天井に向かって火を吐いた!


 ボワッ! ボワワワッッ!! と、一瞬! 炎に照らされた大階段の吹き抜けの壁一面に! 赤い光線を放つそれらが見えた!


      キシャアアアアッ!!


 それらは悲鳴を上げた! ああ炎によって照らされた中に、カボチャくらいの大きさの! 目玉!? 目玉にコウモリの羽が生えた気色悪い魔物が! 炎から逃れるように飛び回ってる! ひゃあっ!? ああっ赤い光線はその化け物の目から出ていたけれど! 今はパニクって飛び回ってるから! 赤い光線がなくなって、重かった体が軽くなった!


「もしや! 生命力を吸い取るのか!? マズイ!」 クラウディーアさんは戦棍を持ったまま 「波動砲!」


 ダンッ! ダンッ! と炸裂音と共にグシャシャッ! グシャシャッ! と何かが潰れる音が! さらにサラマンダーも炎を吐き出し焼き払う!


      キシャアアアアッ!!


 波動砲や炎から逃れた目玉の化け物たちが、私たちに向かって突撃してきた! ひゃあっ!


「聖魔法、紋光弾!」


 アルシャーネさんも聖魔法で応戦する!

 私も弓矢を射る! このっ! このぉっ!!

 グルグル飛び回る目玉の化け物との乱戦! でも! コウモリのように音を利用して飛び回ってるんじゃないみたいで、空中でお互いに衝突したり! よし! チャンスだ! 私は弓を射る!


 気づくと、目玉の化け物は全ていなくなった! た、退治した!


「ゼェッ、ゼェッ! 何とか退治できましたね」

「ハァッハァッ! なんだったんだ!? 今のは」

「視線で体力か生命力を吸い取る化け物……汚冥界は本当によくわからない魔物がいますね」


 その時、外からゴロゴロと音が鳴った。


「ああっ! また三十分経った!?」 またタイムロス!? コックリ、無事でいて!

「クソゥッ! 早いな!」

「急ぎましょう! 今なら魔物も大人しくなるハズです!」


 私たちは「今しかない!」と、疲れた体に鞭打ち、瘴気の漂う通路を駆け出した! たぶん、ミサの時ならば魔物たちも大人しくなるハズだから!


 そしてそれは思った通りで! 看護房の穴の中からはグールも他の魔物も出てこなかった! 走りながら、一瞬穴の中に視線を巡らせたら、グールが頭を抱えて悶えていて!


「ゼェッ、ハァッ、グールが! 苦しがってた!っ」

「ハァッハァッ! やはり! 今しか!ありません!」

「後でっ! 追いかけて来たらっ! どうしましょうっ!?」

「サラマンダーにっ! 焼かせますっ!」

「ゼェッゼェッ! よしっ! 看護房を抜けます!」


 ゼェッハァッ! 前方が! 通路が広くなった! そして天井も高くなって! 看護房の居室分の広さが通路になったみたい! 廊下の壁には縦に細長い亀裂が何本も! 現世では縦長の窓! 大聖堂が見える!


 看護房を抜けた!このまま走り抜け……ない方がいい!


「ハァッハァッ! 待っててください!」


 私は肩で息をしながら荷物の袋から種を出した。それを看護房と広い通路の境目に落とすと呪文を唱える。すると種から芽が出て、一気に棘のある蔓草が境目に生い茂った!


「簡易ですが、棘の蔓草のバリケードです!」

「凄い! これなら時間が稼げそうです!」アルシャーネさんはそう言うと合掌した「次は私が! 聖魔法! 体力回復」


 アルシャーネさんは再び回復の魔法をかけてくれた。はぁっ疲れが一気に吹き飛んだ!

 コックリ曰く、回復の魔法に頼り過ぎると逆に体が弱くなってしまう(自己回復するより先に聖霊の力で治すことで、自己回復力や体力、免疫力が弱くなる)という諸刃の剣なんだけれど、この汚冥界ではそんなこと言ってられない!


「よし! ありがたい! 進みましょう!」

「ま、待って! 大聖堂を見せて!」


 私は廊下の亀裂のような窓から外を見た! 大聖堂の横が見えるんだけれど! 肝心の建屋の中は分からない! ああっ、今は静かだけれどデモンを倒して静かなんだよね!? そうだよね!?

 私は居ても立ってもいられず、荷物の袋から再び小さな石炭を取り出すと、サラマンダーを召喚した。


「あの人を援護して! お願い!」


 サラマンダーは赤い炎の舌を出すと、亀裂から外へと出て行った! お願いよ!


「さあ、システィーナさん! 行きましょう!」

「はい!」


 私たちは、再び暗い通路を駆けだした!


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