45 汚冥界:居住区
⬛システィーナの視点
目の前の汚泥でできた建屋に、ポッカリと穴が……
これ……出入り口だ。
現世でいう、修道僧や患者たちが暮らす居住区への出入り口。
「暗いな」 クラウディーアさんがつぶやく。
うん、ホント。中がどうなっているのか……
私は光の精霊を居住区の中へと進めた。すると、ああ……廊下が延々と延びていて、廊下の片面に等間隔で大きな穴が穿たれている。ああ現世でいうと看護房の居室か……と。
シャアァアアアァアアアっッ!!
「ひゃあっ!」
居室の穴から何体かのグールが飛び出してきて! キ、キモッ! 骨と皮ばかりの干からびた人が光の精霊に掴みかかろうとして! 私は光の精霊を上に移動させると、グールがジャンプを始めた! と、一体のグールが私たちに気が付いた!
シャアァアアアァアアアッッ!!
一体がこちらに向かって走り出すと、その他のグールもまたこちらに気が付いて! こちらに向かって突撃してくる! ひゃあっおぞましい!
「下がって!」
クラウディーアさんは腰を落とすと盾を前に差し出し半身になった! そして「聖棍技、衝波の槌」とつぶやく。とグールが飛びかかって来て! ひゃあっ! クラウディーアさんは先頭のグールに戦棍を振るう!
ズゴンッッ!!
という重い音が響くと、先頭のグールが! 巨大な球体が激突したように、球形にひしゃげて! うわあ、空間が球体の形に歪んだ!? さらに続いて走り寄って来ていたグールたちも巻き込まれるようにベコベコッとひしゃげて! それで後ろに吹き飛んだ! ひゃあっ! 圧倒的だ!
「凄い!」 私は思わず拍手した。「さすがです!」
「……」 クラウディーアさんは考え込んで……あれ?
「クラウディーアさん?」
「これです」
「え?」
「これが私の強みであり、弱点でもあるのです」
「「え?」」 私とアルシャーネさんは顔を見合わせた。え、どういうこと?
「私の攻撃力の高さは、体力と防御力の低さを補うためなのです」
「「え!?」」
「私はもともと肉体的に頑健さが足りず体力も低いため、長期戦やダメージに弱い。その弱さを補うため、常に短期決戦、一撃必殺で敵を屠っているのです」
「「え!?」」
突然の告白に私たちは困惑してしまった。
「攻撃は最大の防御……私は防御のために攻撃している。ゆえに先に敵から攻撃を受けたら脆い。神殿騎士殿はすぐに気付かれました。さすがです」
「攻撃は最大の防御。それが弱点……」
そういえば、グリフォンもジェヴォーダンの獣もケルベロスも一撃で倒していた。そうか、体力や頑健さに難があるから一撃必殺に賭けているのか……言われてみれば、汚冥界に入った際、霊力で五感を強化していたために気絶してしまったし、九十九折の階段で黒髪の魔物に攻撃を受けた後も、なかなか回復できなかった……
そういうことなのか……聖戦士でも、強くても、やはり女性なんだ……
「囲まれるのも宜しくない。どこかの攻撃を受けてしまう」
「な、なるほど」
「もし私が攻撃を受けた際は、最悪の場合、二人で逃げてください」
「「!!」」 私たちは同時に叫んだ。「無理です!」「嫌です!」
「ふっ、最悪の場合です。私も死にたくありませんから」
「ええ! 皆で無事に帰りましょう!」
「そうです! 皆で帰りましょう!」
「では、参りま」
「ちょっと待った!」
私の「ストップ」に二人は「おっとっと」とした。ゴメンね。
実は思い付いたの。不意討ちさえなければクラウディーアさんは大丈夫のはずだから……ならば、アレだ。私は腰に下げた袋から石を二つ出すと大地の精霊を呼び出した。二つの石はムクムクと大きくなってそれぞれ私の背丈くらい(百五十センチちょい?)の人型になった。これは大地の精霊魔法でノーム・サーバントの魔法だ。
「このノーム・サーバントの一体を斥候として先行させましょう。そしてもう一体を殿にして後ろからの敵に備えれば負担が減ります」
「凄いです、いいですね! さすがシスティーナさん!」
「なるほど、助かります!」
コックリがいるときは斥候とかは不要だけれど今は大変に有効なハズ。さらに私は石炭を出すと、そこに封じ込めていた火の精霊を呼び出した。石炭は燃え上がると同時に赤くゴツゴツしたトカゲに変身した。これは火トカゲ、サラマンダーだ。アルシャーネさんたちが「おお」と驚く。サラマンダーは後ろのノーム・サーバントの頭に乗った。後ろの敵はサラマンダーに見張らせ攻撃させよう。最後に私は弓を準備した。
「準備完了です! 行きましょう」
「「ええ!」」
私の言葉に、暗い暗い建屋の中に侵入した。まずは斥候のノームを先頭にその上に光の精霊を置く。そして数メートル距離をあけてクラウディーアさん、私とアルシャーネさんが並んで、その上に光の精霊。そして数メートル背後に殿のノームとサラマンダーの順番。
看護房に入ると……ああ怖い。床も壁もデコボコに歪みまくった廊下が先に先に延びていて……まるで魔物の腹の中のよう。光の精霊の淡い光がデコボコ感をより際立たせて……暗い廊下には居室の出入口の穴が。今にも何か出てきそうな……
ギヤャアァアアアッッ!!
「「ひゃあっ!」」
居室の一つからまたグールが! 先頭のノームに掴みかかって! でもノームが腕を伸ばしてグールを牽制した次の瞬間、クラウディーアさんがグールの頭部を吹き飛ばす!
「チェストッ!」 ボキャッッ!!
見事な連携! ダメージなく一体を屠った! よし!
「これは良い。斥候に向かっ」 とクラウディーアさんが言いかけたその時、再びグールが!
ゴアアァアアアッッ!!
ひゃあっ! 今度は私とアルシャーネさんの近くの居室から! 隠れてたんだ! 私は弓をつがえて! 矢を射ろうとしたら! 先に炎の玉がグールの顔に命中した!
「え!?」
ギャアァアアアッッ!!
突然の炎に顔を焼かれて苦しむグール! おおっ! サラマンダーだ!
「チェストッ!」 ボキャッッ
再びクラウディーアさんによって絶命するグール!
「良いですね! 素直に弱点を話しておいて良かった。これほどの援護が得られるとは!」
「ええ! 大分リスクが分散されますね!」
複数の目と攻撃、回避、防御手段ができた!
これならばこの暗い看護房でも、何とかなるかも!?
その時、外からダンッ! ダンッ! と波動砲の音が!
「コックリ! しまった、コックリにもサラマンダーの援護をしていれば良かった!」 キ、キスの余韻で混乱してた! 「い、今からでも!」
「今からはもう遅いです! 神殿騎士様のためにも一刻も早くサマラを連れて戻りましょう!」
「は、はい!」
「さあ、進みましょう!」
私たちは急ぎ、先へと走り出した。




