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39 汚冥界:町

 

 ⬛コックリの視点


 赤と紫が混じりあう不気味な空。

 黒い霞に覆われる不快な大気。

 邪まな悪想念に満たされた醜悪な世界。


 汚冥界。


 俺たちは今、汚冥界のミシェリア島にいる!

 悪魔の巣のようなふもとの町を!

 サマラの魂の糸を頼りに駆けている!


 ぐおおっ、吐きそうだ! 気持ちが悪い!

 ヌラヌラと濡れた不快な廃墟を、光の精霊の淡い光が照らす! 汚らしい! 極めて不快だっ!! 霊力で五感を研ぎ澄ませ強化している俺の心と体にダメージが蓄積されていくっ! しかし五感の強化を止めるわけにはいかないっ! なぜならば!


「隊長! 止まって下さい! 左前方三階の窓から亡者が落ちてきます! そして右前方の入り口から亡者が二体来ます!」

「承知したっ!!」


 ドシャッ!!


 暗闇の廃墟に飛び散る肉片! 危ない! このまま進んでいたら直撃だ! チィッ!! 落下の衝撃で顔も体も崩れながら、なおも生者を目指す亡者! ぐおおっ不快極まりない!

 っと次の瞬間! 右前方から一部白骨化した腐肉の亡者が!


      オオオオオオォォッ!

      ゥゴオオオォォッッ


「「きゃああっ!」」シスと司祭が悲鳴を上げる!

「くおおっ!」


 右前方から立て続けに飛び出し、掴みかかってきた亡者を盾でいなした隊長は、渾身の力で戦棍(メイス)を振る!


 ボキャッボキャッ!!


 亡者の頭部は、赤黒い何かを撒き散らしながら、スイカのように粉砕した! ぐおおっ! 俺にはそれがハッキリと分かり、胃液がこみ上げてくる! ぐうぅっ!! 頭部を失った腐肉体は、ブルブル痙攣しながら仰向けに倒れる!

 と俺は後ろを振り返ると、肩に担いでいた剣を横薙ぎに一閃した!


 ズババンッ!! ドシャッ!!


      キイイエエエエェェッ!!


 俺は後ろから迫ってきた亡者の足を両断した! お前らの動きはお見通しだ!

 腐った亡者は、冷え固まった溶岩のような路上に倒れながらも威嚇する! ぐうぅっ気色悪い! 唇のない灰色の歯茎と牙を剥き出しにして、半分溶けた目玉で俺を睨む! がぁっ気色悪い! 俺は亡者の首を胴体から斬り離す! 隊長のように戦棍で完全に粉砕した方が良いかもしれない! ぐう、口の中が吐く直前の生唾で一杯になる!


「っ進んでください!」

「は、はい!」

「コ、コックリ顔色がっ!」今にも泣き出しそうなシスの顔。ぐぅっ、顔色はごまかせん。が!

「大丈夫!」


 俺はニッっと笑って見せるとシスの頭をポンポンと叩いた。大丈夫、誰よりも俺を心配してくれるシスのお陰で、俺はまだまだ耐えられる! 俺は再び剣を肩に担ぐと、前方を指さした。行こう! 進もう!


「「はい!」」


 魂の糸は、暗闇の廃墟に消えていく。

 一体どこまで続いている!? 修道院までか!?

 サマラはきっとこの暗闇の廃墟を、悪魔の巣のような建屋の森を、進んでいったんだ。糸が続くのはそういうことだ。どんな気持ちで進んでいったんだろうか!? そして汚冥界に堕ちた修道僧や患者、僧兵たちは、どんな気持ちで……!? この、現世の町とは似ても似つかないこの町を……出口のないこの世界を、どんな気持ちで!?


 憐れだ……! あまりに不憫だ……!


「右前方、階段を降りた陰に潜んでいます!」

「承知っ!」


 ぐぅっ! 元々暗い世界だが、この廃墟群は特に暗い! 天を見上げても、悪魔の巣を思わせる建屋と建屋のわずかな隙間に、赤黒い空が霞んで見えるだけだ。そして建屋は黒くてヌラヌラ濡れて、実に不気味……! 不気味だ……! まるで何かの体内にいるようだ!


「右上! 窓から落ちてきます!」


 さして攻撃力もなく動きの遅い腐肉の亡者だが、腐った体には様々な毒素が満たされている。触れられて、傷つけられると、毒に侵される可能性もある。油断は禁物だ。心を削りながら、悪魔の棲み処のような町を駆けながら、隊長が叫んだ。


「くそっ! 普通に路上に亡者がいれば霊力で感覚を強化しなくてもすむのにっ!」

「そういえばそうです! まるで亡者が建屋の中で暮らしているようです!」

「そ、そんなことあるのっ!?」


 女性たちのやり取りに俺はハッとした。確かにその通りだ。

 ほとんどの亡者が、建屋の中から飛び出したり、落ちてきたりだ。俺は覚悟を決めると感覚をさらに広げた。グウゥッ覚悟したものの激しい苦痛が襲いかかる……その最中、多くの亡者たちが歪んだ建屋の中を蠢いているのが分かった!


「ぐぶっ……ゴクリ」 込み上げてきた胃液か血の塊かを、シスにばれないように飲み込む。


 グウゥッ……これ以上感覚を広げるのは限界だが……代わりに亡者がどこに潜んでいるか把握できた! 本当にほとんどの亡者が建屋の中で蠢いている!

 亡者が建屋で暮らしている!? そんな馬鹿な! じゃあ偶然か!? いや、もしや!? ()()()()()()()()()()()()()()があるのか!?


 とその時! 突然建屋がなくなり、開けた場所が現れた。


「ゴホゴホッ! 神殿騎士様、市場用の広場です! 町の半分まで来ました!」


 司祭が咳こみながら言う。しまった、急がせすぎたか!? ここでは呼吸が少ない方が良かったのに……この瘴気の大気を体に取り込むことは避けなければ……! 気がつくとシスも隊長も膝に手を当て、ゴホゴホと咳をしながら苦しそうに呼吸している。


「申し訳ない! あまり瘴気を吸い込まないようにしなければならなかったのに!」

「ゴホゴホッ、何を。神殿騎士殿がダメージを受けながら五感を強化しているのに、我々がこの程度で弱音は吐けません」

「しかし……シスすまない。風の精霊を出して綺麗な空気を集められないか?」

「ゲホゲホッ、や、やってみる!」


 シスは苦しそうにしながらも風の精霊を呼び出した。彼女が精霊の言葉で何かを囁くと、わずかながら四人が集まった空間に新鮮な空気の層が出来上がった。


「ふーっ……ふーっ……ああ新鮮な空気だ」

「はーっ……はーっ……精霊曰く、瘴気の中から新鮮な空気を取り出すのは難しいみたい」

「すーっはーっ、充分です。助かります」

「修道院まであと半分か……できればそこに着く前に、サマラの魂が潜んでいてくれたら」


 俺は糸の続く先を追うと、皆がつられたように同じ方向を見た。糸は広場の先の黒い霞の中へと消えている。この広場は、現世では市場が開かれ簡易式の出店が数十店でるちょっとした広場のようだ。


 とその時!

 俺の五感は、霞のヴェールの先から凄まじい速さで接近する何かを察知した! 何だ!?


「何だっ!? 何か来るっ!!」

「「えっ!!」」

「速いっ!! 異常だっ!!」

「「ええっ!!?」」 緊迫する女性たち!!

「亡者じゃないっ!!」

「「ええっ!!?」」


 亡者じゃないっ!!

 霞で見えないがっ!

 何かが来るっ!

 黒い霞が!

 何かヤバイッ!


「隠れて! 建屋内にっ!!」

「「きゃあっ!!」」


 刹那! 霞を吹き飛ばしながら! 巨大なそれが! 見えた瞬間!! 飛びかかってきた!! これはっ!!


「「ケルベロスッ!!」」 俺と隊長は同時に叫んだ!


 ⬛ケルベロス

 汚冥界の番犬と呼ばれ、三つの犬の頭と竜の尾を持つ汚冥界特有の魔獣。亡者の屍肉を喰らい生きているが、汚冥界に堕ちた生物でも殺してしまえば同じ屍肉になるため、殺して喰らう。


「「グルオオオオオッッ!!」」 唾液を撒き散らし! 襲い来る!

「「ッッ!!」」

「「きゃあああっ!!」」


 デカイッ! 瞬間の視認で! 頭の位置は四メートル超! 三つの頭部全てに鋭い犬歯! 長さ三十センチ以上!? その巨体が、霞の中から見えた! と思った瞬間、跳躍!! 上!!


 シスと司祭はお互い抱き合い完全にフリーズ! 避ける、かわすことは不可能!!


 俺は一歩踏み出し! 左の手のひらを突き出す!!

 隊長が俺の左隣で! 戦棍を持つ右手を、拳を突き出す!!


「「波動砲!!」」


 ダダンッ!!


 二つの炸裂音が大気を震わし、大地を震わす!!


「「ギャワッッ!!」」


 押し潰れる獣の声! 圧倒的速度で飛びかかってきたケルベロスが空中で完全制止した! クソッ! 二人掛かりの波動砲の魔法でも後ろへ吹き飛ばない! 体重一トン超はあるか!? しかしダメージは与えた! 三つの頭があらぬ方向に曲がっている! 落下し始めると同時に、隊長が聖棍技(聖魔法と棍棒術の融合技)の動きを見せながら突出! 鋭い速さで! 刹那、俺の五感にもう一つの気配が走る!


「危ないっ!」

「っ!?」


 落下中のケルベロスの左後方の霞が渦巻く! ヤバイ! 数歩走り出した隊長の意識が、一瞬俺に向いてしまった! 直後、渦巻く霞からもう一体! ケルベロスがっ! ヤバイッ!! 隊長までの距離、七メートル! 間に合え!


「波動砲っ!」


 俺は! 左手を右から左へ振り払う!


 ダンッ!!


「「ゴアアアアアッ!!」」


 右から左へ吹き飛ばす波動! 波動は二頭目のケルベロスの腰から尻付近を打ち、尻が横に吹き飛ぶ! 結果ケルベロスは突進方向が斜めに流れ! 隊長のスレスレを滑るように転がり吹き飛ぶ!


「ふおぉっ!!」 隊長の驚きの声!


 ドガンッ!! 二頭目は隊長の斜め後ろの建屋に激突! 建屋の一部が崩れ、瓦礫に埋まる!


 ズシンッ!! 同時に一頭目が広場に落下!


「隊長は一頭目をっ!」

「つおおぉっ!!」


 隊長は、そのまま一頭目の元へ!

 俺は反転! 二頭目に突進しながら、愛用のシュヴァイツァーソード(切っ先から三十センチほどが両刃の剣)に手を当て、聖剣技の準備に! その時、視界の片隅に隊長が映る!


「聖棍技! 衝波の鎚!!」


 聖魔法で輝く戦棍! 彼女の戦棍の先端は横から見ると菱形でシスの頭ほどの大きさがあり、八枚の厚い鋼板を放射状に組み合わせている! 軽量化と衝撃の集中を狙った戦棍だ! その戦棍に聖魔法を纏わせ、一頭目のケルベロスの胴体に振り降ろす!


 ゴンッ! 胴体に戦棍の先端がめり込んだ瞬間!


 ベゴンッ!! ケルベロスの胴体が直径一メートルほどの球形にへこむ!! いや、胴体だけではなく、その下の大地までへこむ!


「「ッッッ!!!」」


 ケルベロスは悲鳴すら上げられず、三つの口から血と内蔵を吐き出しながら絶命する!! 恐ろしい破壊力! あれが波動砲の力を戦棍に乗せた聖棍技! 攻撃力なら俺の遥か上だ!


 俺が二頭目のケルベロスを仕留めに走る途中! 突然! そのケルベロスが瓦礫の中から飛び出してきた! うおおおおおっまるで瓦礫が爆発したかのようだ! 波動砲のダメージは無しか!? 尻に当たった程度では!


「コッ!!」


 遠くでシスの悲鳴! おおおおっ! 俺の真正面に! ケルベロスの三つの口が! デカイッ! 口を広げただけで縦に一メートル超! それが左右に並んで三つ! もう、横には避けられない!


 が俺は三つの口の微妙な偏りを察知した! 向かって左側の顔の位置! 他の二頭より若干高い! 下げられないんだ! おそらく建屋に突っ込んだ時、この左側の顔から突っ込んでダメージがあったんだ! ここだ!


「聖剣技……!」 俺は剣に聖魔法を纏わせながら、三頭の口を直前までひきつける! 「……波斬(はざん)の太刀!」


 俺は、一気に加速した! 後でシスに聞いたことだが、「銀色の鎧が放つ光が、流れるように滑り込むようにケルベロスの左の顔の下に入り、太い足をすり抜けた!」と言っていた。


 まさに今、俺はケルベロスの口と足をすり抜ける最中にあり! 聖魔法の光を纏った刀身をケルベロスの左と中央の首の間にぶつける! と刀身は、何の抵抗もなくケルベロスの体に吸い込まれる! それはまるで熱したナイフをバターの塊に刺すかのような感覚! 一切の手応えを感じない感覚! 超振動する波動を刀身に纏うことで切れ味を増す聖剣技! 首筋から入った剣は、固いはずの数十本の肋骨をスルリと斬り抜き、引き締まった胴体を斬り抜き、鞭のようにしなりバランスを取っていた竜の尾を斬り抜き、俺とケルベロスは互いに反対側へ走り抜けた! 次の瞬間!


 キュインッ!! 甲高い音がしたと同時に!


 ドゴンッ! という音が響くと、走り抜けたケルベロスが腹側から真っ二つに裂け、左右に干物のごとく広がりながら宙に吹き飛ぶ!


「ほわっ!?」


 シスが頓狂な声を上げる。四百年生きた彼女が一度も目にしたことのない光景ゆえだ。左右に開いたケルベロスはそのまま広場の宙を舞い別の建屋に激突、建屋が崩れる!


 三頭目はいないか!? 俺は油断なく周囲を警戒していると、隊長がやってきた。


「お見事です。今の一撃が聖剣技なのですね」

「ええ。隊長の聖棍技も見事。圧倒的な破壊力ですね」


 聖魔法を操る戦士を総称して『 聖戦士 』と呼ぶが、聖戦士の扱う武器はそれぞれ本人の特性によって異なってくる。俺は剣の特性が高く、隊長は戦棍の特性が高かったのだろう。隊長と話していると、シスと司祭が小走りにかけてきた。


「コックリ!」

「クラウディーア!」

「二人とも、ケガはないですね?」 と俺は念のため聞く。

「こっちのセリフだよ!」 とシスが頬をパンパンに膨らませてぶりぶり怒る。よし大丈夫だ。

「よし、ではこのまま……ムッ!?」

「「ムッ!?」」


 俺は聖剣技で倒した方のケルベロスを見た。そのケルベロスは建屋の瓦礫の中に埋まっている。心臓も斬り裂いたから完全に絶命しているハズ……が、何かが動いている!?


「あ……!」 シスが息をのんだ。

「なんてこった……亡者が」


 そう、ケルベロスが突っ込んだ建屋の中に亡者が徘徊していたようで、その亡者はケルベロスの体にとりつくと肉を食い始めた。そうなのか、亡者になっても食欲というものがあるのか……怨念を扉として現世に這い出ようとする亡者たちを何度も倒してきたが、このように何かの肉を貪り食う亡者は初めてだ。おそらく、汚冥界の深層にいる亡者と、現世との境界にいる亡者とでは、求めているものが違うのかもしれない。


 と、俺の感覚は、次の異変を察知した。


「クソッ! なんてこった」

「「え!?」」

「亡者が集まってきた!」

「「ええっ!?」」


 今俺たちは広場の入口付近にいる。広場の四方は汚泥のような建屋が囲んでいるのだが……今、その建屋の窓や入口から、ズルリズルリと多数の亡者が這い出てきている! まだ黒い霞で周囲が見えていないが、十数体の亡者が向かってきている! ケルベロスの血と臓物の臭いに集まってきたのか!?


「クソッ聖輝光で一気に消滅させるか……」


 この先、何が待ち受けているか分からないため、聖魔法や聖剣技は極力おさえて行きたいのが本音だ。亡者は動きが遅いから通常攻撃で充分動きを止められるから、魔法を温存できると踏んでいたが……


 とその時だった。


 ゴロゴロゴロ……


 赤黒い空から不穏な音が。さらに空全体が明滅し始めている。突然大気が不安定になった!? 汚冥界の番犬を倒したからか!? こんなところで雷に撃たれたくないぞ! などと考えていると、ポツリと俺の額に液体が落ちてきた。


「うおっ……なんだ!? 雨か!? 汚冥界でも雨が降るのか!?」

「ほわっピチョッと来た! こ、この雨、当たっても大丈夫なのかな!?」

「あ、あまり体に良くなさそうでは?」

「ふおおっ! ポツポツ来ましたよ」


 口々に言っていると、雨粒が少しずつ大きく、降り方も少しずつ強くなってきた。


「クソッ次から次へと……!」


 俺がそう吐き捨てた時、俺の五感はその現象をとらえた!


「あっ!? 何だと!?」


 なんてこった!

 予想外のことが起こった!




久しぶりの戦闘シーンでした。

月半ばと月末の投稿ペースで遅くて申し訳ないのですが、

公私ともに手一杯で、次回遅くなったら申し訳ございません

(何とか頑張ります)

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