26 修道院下層部(司祭アルシャーネ)
岩山の頂きに鎮座する美しい大聖堂
大聖堂を囲う城壁のような居住区
堅牢な居住区は岩山の中腹まで足を伸ばす
そびえる城壁には所々に小さな窓が覗く
その窓と窓とを上から順に繋いでいくと、ジグザグな九十九折りに基底部へ到達する
それは『 九十九折りの階段 』の明かり取り
ジグザグな階段を最深部まで下りるとそれが待ち受ける
岩山の内に広がる天然の洞窟
その洞窟を地下墓地として、修道院関係者は埋葬される
今、城壁内部の階段に複数の足跡が響く
■司祭アルシャーネの視点
冷たく暗い城壁内の階段を、私たちは慎重に、足早に下りて行きます。
要所要所に、地下の地下まで明り取りの窓があるのですが、島の西側に面した場所のため陽が入り込まず、また大人の頭ほどの窓のため暗闇を打ち消すほどの光は望めません。吐く息が少し白くなるような寒さがそこにあります。私の前を下りる僧兵隊長のクラウディーアと若い僧兵の持つランタンが暗闇の階段をほのかに浮かび上がらせます。
この階段を下りきった先に、問題の地下墓地があるのです。
私は薄暗闇の中、前を歩む若い僧兵が賓客の間へ飛び込んできたときのことを思い出していました。
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「地下墓地で、修道僧フェルメーテの惨殺死体が見つかりました!」
「何!?」 「地下墓地!?」「ええ!? どういうこと!? 」
皆が口々に驚きの声を上げました。それだけ衝撃的な報告だったからです。あまりにも不可解すぎて。
「ちょ、ちょっと待って!」 システィーナさんが慌てながら神殿騎士様に質問します。「フェルメーテさんって、汚冥界に堕ちたハズよね!?」
「……」
「どういうこと!? 本当は堕ちてなかったってこと!?」
「いや、堕ちたはずだ」 と神殿騎士様が答えます。「聖霊の啓示から汚冥界に堕ちたことは間違いない」
「じゃあどうして!?」
そう、どうして!? と、考えられることは一つしかありません。
「考えられる可能性は一つ……『 地下墓地で汚冥界と現世が繋がり、戻ってきた 』ということだ」
「ええ!?」
そう! 現世と汚冥界が繋がることで汚冥界に堕ちたならば、その繋がりから戻ることも可能なのです!
「しかしそう考えると、ますます謎が深まる」
「そ、そうなの!?」
「ああ! 一つは繋がる場所だ。今まで修道院の『 看護房内 』だけで起こっていた限定的な現象だったのに、今度は『 地下墓地 』で起こったことだ」
「あ! そうか!」
そうです! 神殿騎士様の仮説では、①セプトの三日以前に、②看護房に入ってきたモノで、③私が扱えるモノ(あるいは関わりあるモノ)、が汚冥界に繋がるという考えでしたが……
地下墓地!? なぜいきなり地下墓地に飛んだのでしょうか!?
「例えば看護房では『 特殊なモノ 』によって繋がり、地下墓地では別の理由、すなわち『 地下墓地に怨念がまみれている 』という別の理由で繋がるならありえるが、ここは聖地。それはありえない」
「当然です!」
私は叫んでしまいました!
死んだ人間が残した邪悪な心『 霊 』が消滅せず、濃くなっていくことで『 怨念 』となります。でもここは聖地です! 聖霊の力が残る聖地です! 聖霊に打ち克つ人間の怨念など、存在しません。聖霊以上の力を持つ人間など、存在しないからです!
生きている者であれ、死んでいる者であれ、邪悪な者は聖地では存在できない! それゆえに『 特殊なモノ 』によって汚冥界が繋がる! これは間違いないハズです!
「アルシャーネ司祭。地下墓地は看護房の近くにあるのでしょうか? 看護房から簡単に行き来できると?」
「いえ、まっ」 私はいい淀んでしまいました。「全く……近いどころか……看護房が一番離れています。看護房は岩山の東側上層階に位置していますが、地下墓地は島の北西の地下、すなわちこの賓客の間がある建屋の最下層に位置しています」
離れているからこそ、看護房と地下墓地では別の理由では、という神殿騎士様の考えにうなずいてしまいます。特に、地下墓地へ行くまでには、修道院内の各階層を通る必要があるのですが、要所要所に扉が設置され、施錠され、容易に移動などできないということも、その考えをより強調させます。
まさか本当に地下墓地に怨念が? まさか! 聖女リオテールが眠る地下墓地ですよ!?
「コ、コックリ。『 一つは 』ってことは、まだあるの?」
「ああ、もう一つある。それは今まで『 ミサが行われると汚冥界が繋がる 』という条件があったが……」
「あっそうか! 今はミサを行っていない! なのに汚冥界が!」
「そう。だが、こちらは説明がつく可能性もある」 と神殿騎士様は僧兵を見ました。「今日以外で地下墓地に入ったのはいつか分かりますか?」
「はっ! おそらく半年前かと」
「つい最近はありませんか?」 その問いには私が答えました。
「ございません。地下墓地に入る理由なのですが、修道院関係者が亡くなってその埋葬のためか、半年に一度清掃のために地下墓地に入るためとなっています」
「では今回地下墓地へ入った理由も、清掃のためですか?」
「はっ!」 答えたのは僧兵です。
「ふむ。ではもしかしたら」 神殿騎士様はアゴ髭に手を当てました。「あとは遺体の状況次第か」
遺体の状況次第? どういうことでしょうか? 私が質問しようとしかけたとき、神殿騎士様は立ち上がりました。
「地下墓地へ案内していただけますか? おそらく、怪異解決に大きく近づきます」
「はっ!」
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地下墓地へ続く階段は、片側が岩肌となっています。修道院は岩山を削ることなく、岩山にかぶさるように建てられているからです。ランタンの揺れ動くほのかな灯火が、岩肌に怪しい陰影を作って、少し怖さを感じます。普段はそんなことを感じないのに……
「地下墓地に入られた方はどなたですか?」
「はっ! 掃除係の修道僧二名と私を含めた護衛の僧兵二名です!」
「地下墓地は扉がついていると聞きましたが、開ける前、気になることはなかったですか?」
「はっ……特にはございませんでした」
「地下墓地に入った時はいかがですか?」
「……はっ、やはり特にはございませんでした」
「遺体を発見された方は掃除係の修道僧ですか?」
「はっ!」
「その修道僧たちは今どこに?」
「二人とも腰を抜かしてしまいましたので、我々がそれぞれをおぶって安静室へと連れて行きました!」
「その際、地下墓地は?」
「施錠してあります!」
と、階段はやがて平坦な通路に繋がりました。
そして岩肌に嵌まるかのように、大きな両開きの扉がはめられています。
「ここが地下墓地です」
「では、入りましょう」
暗がりの中で、扉の鍵が開く音が響きました。
■現状までのまとめ
前提条件
汚冥界と物質界(現世)について
・汚冥界は穢れた魂が堕ちる魂の世界
・物質界と汚冥界は重なって存在するも繋がらない世界
・死者は怨念(不浄な心、霊が濃くなる状態)を残すことがある
・怨念が汚冥界と物質界が繋げる扉となる
・ミサは怨念を鎮める効果を持つ
聖地について
・聖地は聖霊が舞い降りた地
・聖地には聖霊の清廉な力が残る
・聖地に残る清廉な力は生者の邪まな心を取り除く
・聖地に残る清廉な力は死者の怨念を浄化する
怪異の内容
ミサを行うことで汚冥界に人が堕ちる
・セプトの月の三日早朝 修道僧一名 モリアーネ 二階の居室で?
・セプトの月の八日夕刻 修道僧一名 フェルメーテ 調合後居室で?
・セプトの月の十五日夕刻 入所者一名 メイ ホールで?
・セプトの月の十六日午前中 僧兵二名 タバサ、サリナ 分からない
看護房だけで発生している
地下墓地で発生した?
問題点
・怨念を浄化する聖地で汚冥界が繋がる
⇒怨念以外の何かが繋がる可能性あり(二名の僧兵が汚冥界に堕ちたことによる)
⇒アルシャーネ司祭に縁あるモノ?(聖霊の啓示より)
あるいは、アルシャーネ司祭だけが触れられるモノ?
⇒自ら入ってきた? 持ち込まれた?
⇒オーガ(八月)〜セプト(九月)の間に入ってきた?
・怨念を鎮めるミサを行うことで繋がる
⇒これから
・どこが繋がるか分からない
・看護房だけで堕ちる(今までは)
・ミサを行っていないが地下墓地で繋がり、死体が戻ってきた?




