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25 修道院の賓客の間8

 

 ■システィーナの視点



 高くて白い石柱が林立する賓客の間。その一画。

 石柱の下に置かれた長机で、私たちは入所者の台帳を調べていて。何かわかったことがないか、コックリに聞いてみたんだけれども……



「……いや、もう少し」



 そう言って、再び黙りこんだだけだったの。

 ええ? 何それ? 今までにないよ、そんなそっけない感じ。それと、その直前の私とアルシャーネさんの顔を覗き込むような見方。私たちの顔色をうかがうような見方!



 何か隠してる!絶対何か隠してる!

 私が問いただそうとしたとき、賓客の間の扉がノックされたの。もう!誰よ、いいところで! 若い修道僧が扉を開けると、そこには革鎧を纏った僧兵隊の隊長クラウディーアさんともう一人若い僧兵が立っていた。



「お話し中、ご無礼仕ります」



 と隊長らしくキビキビと言うクラウディーアさん。

 ああ、青く染め上げた革鎧のクラウディーアさんは凛とした美人だなあ、海妖精のディートリッヒを思い出すわ。クラウディーアさんは栗色の髪を三つ編みにして垂らしていて、若い僧兵も三つ編みだ。どうやらヘルムをした時、ずれないよう髪で固定するみたいね。

 とクラウディーアさんが手を胸に当てた。



「神殿騎士様、システィーナ様。ご依頼の調査が終了しました」



 ご依頼の調査? ああそうだった。

 コックリは初日、二つのお願いをしていた。一つは「修道院に詳しい方の協力」で、これはアルシャーネさんが一緒に捜査協力してくれて今ここにいる。そしてもう一つが、僧兵隊に「ふもとの町や近隣での類似事件や不可思議な事件の捜査」をお願いしていたの。

 コックリは立ち上がると挨拶した。



「ご協力ありがとうございました」



 コックリが席を勧めると、クラウディーアさんだけ座った。コックリと私が並んで座り、アルシャーネさんとクラウディーアさんが並んで座ると、コックリは続けた。



「調査はいかがだったでしょうか?」

「はい。まず類似事件の方から報告させていただきます。ふもとの町、近隣の村々、あるいは街道等で類似の事件は発生しておりませんでした」



 ほうほう、やっぱりそうなんだ。

 まあそうだよね。もしふもとの町で汚冥界に堕ちた人がいたらもう既に大騒ぎになってるだろうし。あるいは修道院同様、誰も目撃していない状況で汚冥界に堕ちたとしても「突然人が行方不明になった!」として大騒ぎになってるだろうし。



「ふーむ、そうですか」

「続きまして、この怪異以外で不可解な事件が起きていないかの調査ですが、近隣で魔物が関連する事件が五件、海賊、山賊による事件が二件起きておりました」

「魔物が五件、賊による事件が二件」

「はい。魔物の事件ですが、うち二件が湾外の海にて、三件が陸地、詳しくは街道沿いと近隣の村にて発生しました」

「海と陸地……魔物と被害状況は分かりますか?」

「はい。海の二件では、うち一件だけ魔物が分かっていて、シーサーペントが商船を襲い乗組員が複数名負傷した模様です。もう一件は目撃情報がないのでどのような魔物かは不明ですが、漁師を襲い、その漁師は亡くなった模様です。舟に漁師のものと思われる足首が残されていたということで……」

「一件はシーサーペントで商船、もう一件は目撃情報がないものの漁師」



 シーサーペントは胴体が巨大なウミヘビ、顔がドラゴンという海の魔物なの。そうか商船には人が多く乗っているので魔物の特定ができたのね。そして護衛兵が乗船するからシーサーペントと戦って撃退できたと。でもケガ人が出たと。一方で漁師の方は一人で漁をする場合が多いから目撃例もなく、戦うすべもなくて襲われて亡くなってしまったと。



「続いて陸上の三件のうち一件については魔物の特定ができています。その魔物はグリフォンで近隣の牧場の馬を襲おうとして村人にケガを負わせています。残り二件に関しては現場に残された痕跡から一件はスキュラ、もう一件はオーガー系の巨人と思われます。スキュラと思われる魔物は街道にて巡礼者を襲い死亡させ、もう一体のオーガーと思われる魔物は近隣の村人を襲っています」



 グリフォンはライオンの胴体にワシの翼が生え、首から上はワシという魔物で山に棲息している。このグリフォンは近隣の村で牧場を襲って、馬を連れ去っていったとか。その際牧場関係者が大ケガをしたみたい。

 一方スキュラは人間の女性の上半身に下半身が六匹の犬という魔物で、もっぱら海辺に棲息している。事件は海岸沿いの街道で、二人の巡礼者が襲われ、二人とも亡くなってしまったみたい。街道を警備する兵士たちが駆け付けた時はもうスキュラはいなかったそうなんだけれど、現場に残された犬の足跡が特徴的で分かったんだって。スキュラって女の胴体を中心に六方向に犬がついているから、横歩きする犬の足跡とか後ろ歩きする犬の足跡が残って分かるらしい。

 最後にオーガーと思われる魔物は村人五名が死亡した大惨事らしい。この村人たちは聖地への食糧納品の帰りに被害にあったとか。現場に五十センチを越える大きな大きな人の足跡が残されていたんだって。やっぱり街道警備の兵士たちが駆けつけた頃には全て終わっていたとのことで、生き残った者はいるらしいけれど体の一部をなくし、恐怖から発狂してどんな魔物だったか分からないとか……



「そして海賊が商船を襲いましたが、こちらは未遂に終わっています。最後に山賊が巡礼者を襲い金品を強奪されましたが命に別状はございませんでした」

「そうですか。ありがとうございました」



 うう~ん、近隣で起こったという魔物や賊による事件は特別関係ないよね。別に汚冥界と関わっていそうな事件ではなさそうだし……まあ念のためまとめてみるかしら。



 ふもとの町……汚冥界と繋がる怪異なし。その他の事件もなし

 聖地の近隣……魔物の事件が五件、賊の事件が二件

 海:シーサーペント 商船を襲いケガ人あり

 海:正体不明の魔物 漁師を襲い、死亡? 舟に足首

 陸:グリフォン   牧場を襲い、牧場主ケガ、馬をさらわれる

 陸:スキュラ?   巡礼者を襲い、二名死亡

 陸:オーガー?   聖地帰りの村人を襲い、五名死亡。一名発狂



 まあ、関係ないよねえ。

 とその時だったの! ダダダダダッッ!! と廊下から慌ただしい足音が聞こえてきたと思ったら扉が激しくノックされて、どうぞと告げる間もなく「ガチャンッ!」と扉が開かれたのは!



「何事だ! 騒々しい! 無礼であろう!」 とクラウディーアさん。扉を開けたのは若い僧兵だったの!

「ぜぇ、ぜぇ、か、火急にて! 失礼しました!」 ああ、若い僧兵は荒い息をしながら胸に手を当て敬礼した。

「どうしたのですか?」 とアルシャーネさん。

「ぜえっ、はっはい! た、たった今! たった今、大変なことが!」 大量の汗を流す僧兵。

「落ち着け! 五回深呼吸しろ」 とクラウディーアさん。若い僧兵は言われるまま五回深呼吸をした。どうやら落ち着いたようだ。「何があった!?」



 クラウディーアさんの言葉で思い出したのか、僧兵は途端に顔色が悪くなった。



「た、たった今、地下墓地(カタコンペ)入口にて! 大変なモノが見つかりました!」

「地下墓地!?」「大変なモノ!?」



 今や僧兵は冷や汗を流し始めた。そのただならぬ様子から、私たちは席から立ち上がっていた。クラウディーアさんが先を促す。



「何が見つかった!?」

「はっ! フェ、フェルメーテ修道僧の、ざっ、うぐ!」

「ざ!?」



 僧兵は吐き気を必死に飲み込んだ。



「ざ、惨殺死体が見つかりました!!」



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