17 修道院の賓客の間5
■システィーナの視点
怪異捜査二日目。
その早朝。
宿を出ると気候が爽やかで、今日も良く晴れて天が高い。見上げる空には抜けるような青空が広がっているわ。この地で怪異が起こっているとはとても思えない、爽やかな朝……
コックリと私は、朝食もそこそこに修道院へと向かったの。
一刻も早く、怪異を解決したかったから……健気に働く修道僧たちのためにも早く解決してあげたいのと、ミサを行わないことで近隣地帯が汚冥界に繋がるリスクがあるから……
昨日と同様、賓客の間に通された私たちは、アルシャーネさんが来る前に、簡単な意思疎通を行った。
まずは、捜索するモノについて。
①怨念ではないモノの捜索
②セプトの月以前に修道院にはいってきたモノの捜索
③アルシャーネ司祭に縁のあるモノ、
または彼女にしか扱えないモノの捜索
そして捜索する場所。これは行方不明になった人たちが最後に目撃された場所がメインとなる。
①二階の居室………第一の怪異、モリアーネ修道僧関連。
(二階居室はすべて捜索完了して何も見つからなかった)
②二階のホール……第三の怪異、入所者メイが最後に目撃された場所
さらに、最後に目撃された場所があやふやな二つの怪異はざっと。
①第二の怪異……薬草師フェルメーテ一階から二階?
②第四の怪異……僧兵二名、完全に分からない?
さあ、最初は二階のホールかしら……?
そう考えていると、アルシャーネさんが賓客の間に入ってきて、私たちを見つけると表情が輝いた。
「おはようございます、神殿騎士様、システィーナさん」
ペコリと頭を下げて微笑んだ。
ああ清楚で美しい! ああもう絹のように艶やかな黒髪が、純白の法衣に映えてもう……白い肌に黒曜石のような瞳が本当に綺麗で綺麗で……
「おはようございます、アルシャーネ様」
と挨拶を返すコックリ。私は、というと……
挨拶もせず、あまりの美しさにポーッとしてしまった。
いやポーッとしたのは別の理由も……
包み込まれるような、圧倒的な霊力。それに当てられてポーッと来てるのもあるかも? 包容力がもう、本当に凄い……圧倒的な暖かな霊力……これは本当に伝説レベルの人だ……
「システィーナさん?」「シス?」
「あ、えっ!?」 二人が私の顔を覗き込んできたので、私はハッとした。「あ、お、おはよう、ございます、アルシャーネさん!」
「くくく」 ワザワザ私の顔を覗き込んで、からかうような意地悪そうな笑顔を向けるコックリ。「見惚れすぎだよ、くくく」
「そうなんですか? 嬉しいです、システィーナさん!」
「もう! もう〜っ!」 私は顔が熱くなるのを感じて、コックリの頬を思い切りつねり上げた。「もう〜っ!」
「いでででででっ! 爪、爪っ! いでででっ!」
「うふふ、可愛い! システィーナさん!」
「ほおぉぅぁあっ!」
アルシャーネさんがまた私を抱き締めてっ、ほおぅわぁっ!
圧倒的な霊力がっ! また私を包み込んでっ! ほおおおっ!
「あっと、ご免なさい」
「おほうっ!」
またベロベロに酔わされる前にアルシャーネさんは私から離れた。
でも手は握ったままで……握られた手の暖かさよりも感じる暖かな霊力。しとやかで柔和な微笑み。黒曜石のような瞳が細まって……ひえぇ、綺麗〜
聖女の再来と謳われる生きた伝説のような方なので、最初は「どこか遠い存在の人」で「触れてはならない聖職者」だと思っていたんだけれど……昨夕、アルシャーネさんから近寄ってきてくれて、触れてきてくれて、お友だちになりたいと言ってくれて……私も仲良くなりたかったからとっても嬉しい。
とアルシャーネさんは私の手を握ったまま、コックリに向き直った。
「神殿騎士様。今日はどこから調査致しましょう?」
「そうですね……」 コックリは頬を擦りながら「では第三の怪異で行方不明になった入所者のメイがいたホールを調べたいのですが……」
「ホールですね……ああ、でも今は食事介助をしているところでして……」
「そうですか……」 コックリは考え込んだ。「昨日は私を見た入所者たちがひどく怖がっていましたし……食事が終わるまで別の場所を捜索した方がいいですか?」
「それがいいですね」
「……」
アルシャーネさんに真顔で即答されて、コックリは肩を落としてシュンとなった。ああ……否定してほしかったみたい……ああ、シュンとしたコックリ……可愛い……胸がキュウッて来る……少年みたいなんだもん。私はコックリの指に自分の指を絡めた。
もう……コックリ、いいじゃない。私だけでも貴方の良さを知ってれば、私だけでも貴方を大好きでいれば、それでいいじゃない……ね?
コックリは気を取り直したのかシュッとして言った。
「では……第二の怪異でいなくなった薬草師のフェルメーテが最後にいたと思われる場所が良いのですが……分からないんでしたね?」
「ええ……」
そうなの、薬草師のフェルメーテが行方不明になった場所は分からなくて……
彼女は食事時間になると、いつも入所者の様子を見るため色々な階を見回っているようで、行方不明になった日も最後に目撃された場所がどこか、定かになっていない……うう~ん……どうすれば……闇雲に探すのもいいけれど、修道院は本当に広いから……
とコックリが続けた。
「大勢の入所者たちが食事の時間に見回っていた……けれど、誰も汚冥界に堕ちたところを見ていない……」
「はい」
「ホールで食事中に突然目の前で人が消えたら、大騒ぎになりますよね?」
「はい、そうですよね」
「つまりホール以外の移動中か……」
そうよね。
ホール内ではなさそう。ということは、一人で移動中とすると、廊下とか階段……
でも廊下や階段には、特に怪しいモノはなかった……
「あ、居室で食事をする入所者もいます」
「なるほど……どのような方が居室で食事をするのでしょう?」
「寝たきりの方です。体が動かない方や意識がない方です」
「その入所者を食事介助する修道僧は汚冥界に堕ちず、それ以外の修道僧が堕ちた……」
「ええ」
食事介助する修道僧とフェルメーテは何が違ったんだろう?
「フェルメーテは食事介助する訳ではなく、見回っているんですか?」
「そうですね」
「他に見回りの方はおられますか?」
「そう……ですね……見回り担当、という者がいる訳ではなく、彼女は別の目的があって見回っているというのでしょうか……」
「別の目的……それはどんな?」
「はい、入所者のその時々の体調や食事の度合いを見て、処方する薬の量を検討するためでした」
「薬の量……薬はその都度調合するんですか?」
「いえ、ほとんどの場合はすでに調合しているようでしたが、体調が変わる人たちの分は……」 アルシャーネさんはハッとした。「都度調合していました!」
「行方不明になった日も、薬の調合を……?」
「していた可能性はあります!」
おお! なるほど、薬の調合か!
アルシャーネさんいわく、どうやら調合は一人で行っているみたい! だから、もしかしたら調合している時……あるいは、調合しに行く時、調合した薬を送り届ける時に、汚冥界に堕ちた可能性も……!
おおおお!
「どこで調合しているんですか?」
「調合室です。薬草園が回廊内にあって、その回廊に調合室があります」
「回廊……」 コックリは顎ひげに手を当てて考え込んだ。「…………」
随分長く考え込んで……何かしら?
「コックリ?」「神殿騎士様?」
「あ、いえ…………では、そこへ……行ってみましょう」
……?
不思議な間……
どうしたのかしら?




