第17話 悟、泣くのは早いわよ
《《抗争》》
「クソォ、あの廃工場の夜のこと、思い出すだけで体が熱くなるわ。悔しい……本当に悔しい!私、康夫と敏子、恵美子で、順子を完全に排除する計画だったのよ。智子を拉致して、クスリ過剰打って殺すつもりだった。あいつ、バックレそうでヤバかったから。女子大生もついでに巻き込んで、浩二たちに輪姦させて脅し素材作って……完璧だったはずよ!」
悟の顔が青ざめた。椅子から立ち上がりかけて、膝から力が抜ける。「殺す……つもりだった……?恭子、キミはその子を……智子という子を、殺そうとしたのか……?」声が掠れ、言葉が続かない。
真理子は目を細め、唇の端をわずかに歪めた。「殺意まであったのね。薬で人を壊して、それを金に換えて、邪魔になったら消す……。ずいぶん筋の通った悪女ね。呆れて言葉もないわ」冷ややかな視線が恭子の全身を舐めるように動く。
「廃工場で、智子と女子大生をラリらせて、浩二が巨体で犯してるの見てるだけで興奮したわ。康夫が「順子にバレたら終わりだけどな」って笑ってたけど、私たちは高笑い。敏子と恵美子も、クスリ打たれてヒィヒィ言ってる女たち見て、優越感に浸ってたの。私のロリ体が、男たちに人気で、金になるって自慢してたわよ。順子なんか、もう用なし。美久の妹分ぶってキラキラしてたあいつを、クスリとセックスで堕としてやるはずだったのに!」
悟は両手で顔を覆った。指の隙間から、嗚咽とも呻きともつかない声が漏れる。「恭子……キミは……人が苦しんでいるのを、見て、笑っていたのか……」肩が小刻みに震えていた。
真理子は冷然と言い放つ。「悟、泣くのは早いわよ。まだ続きがあるでしょう」そして恭子に向き直り、「人の痛みに興奮する。それがこの子の本質よ。黒い想念が吹き込まれる前から、すでに十分に腐っていたということね」と吐き捨てた。
「そしたら、突然ヤンキーが紗栄子を引きずって入ってきたの。『工場から出ようとしたのを捕まえた』って。紗栄子!あの生意気な奴が、どうしてここに?康夫が驚いてたけど、私はニヤニヤしちゃったわ。チャンスよ!『恭子、敏子、恵美子、半殺しにしちまえ』って康夫が言って、私たち三人で紗栄子に飛びかかった。腹蹴ったり、背中踏んだり、顔殴ったり……紗栄子が血吐いて転がるの見てるだけで、溜まってたストレスが吹き飛んだわ。クソ、気持ちよかった!」
悟は顔を上げた。目が赤く滲んでいた。「気持ちよかった……そう言ったのか、恭子……。その子は今、どうなったんだ。生きているのか?」声に怒りと恐怖が混じり合い、かすかに震えている。
真理子は一切表情を変えずに言った。「内臓破裂寸前の重傷を負わせて、気持ちいいと感じる。暴力が快楽になっている。これはもう更生の問題じゃなく、人としての何かが根本から欠けているのかもしれないわね」そう言いながら、床の黒い塊をちらりと見た。蠢く速度が、わずかに増したように見えた。
「浩二がお楽しみ中断でイラついてたけど、順子が突然飛び込んでくるなんて予想外!あいつ、わたしの背中蹴ったり、浩二の股間狙ったり、ヤンキーたちを次々倒したり……強ええ!昔の化け物コンビの片割れだけあって、怖かったわ。でも、私のスピアーで腹に頭突き食らわせて、敏子と恵美子で押さえつけて、蹴りまくったのよ。順子がうずくまって、プライドズタズタの顔……最高だったわ!「順子ネエ、よっわ~い」って嘲笑ってやった」
悟は黙って恭子を見つめた。哀れみと嫌悪が交互に浮かぶ、複雑な顔だった。言葉を探しているのに、何も出てこない。真理子が静かに補足するように言う。「勝っていた間は最高だったのね……」
「康夫が『撤収だ』って言って逃げようとした時、外から美久たちの声が……クソォ、トラッカーか何かで追われてたの?美久が化け物みたいに強くて、康夫パンチ食らわせたり、楓って奴が催涙スプレーや石で援護したり……私たち、完敗よ!敏子と恵美子もスプレー浴びてのたうち回って、私も目が焼けるように痛くて……悔しい!私がボスになるはずだったのに、全部台無し!警察が来て、逮捕。私の罪、全部バレて……少年院送致。クソッタレ!紗栄子や美久、順子……許さないわよ!あの夜の屈辱、絶対返してやる……!」
恭子は言い終えて、肩で荒く息をついた。目に涙が光っているが、悔しさと憎しみで滲んだ涙だった。
悟はしばらく沈黙した後、低い声で言った。「恭子……キミが憎んでいる美久たちは、キミが壊した子たちを助けに来たんじゃないか。キミはそれを……悔しいと思っているのか……」
真理子はため息をついた。感情の起伏のない、乾いたため息だった。「悟、この子は今も反省なんてしていないわよ。わかる?全部、自分が負けたことへの怒りとして語っている。被害者への罪悪感が、欠片もない」
真理子は恭子をまっすぐ見下ろした。「恭子、あなたが憎んでいる相手は、あなたが傷つけた人たちを救いに来た人たちよ。でも、あなたの口から出るのは『悔しい』と『許さない』だけ。その黒い塊がなぜあなたの中に居着いたか、少しはわかった気がするわ」
部屋の床で、黒い粘液の塊がぴくりと動いた。
《《女子少年院の恭子》》
「クソォ、何で私がこんなところにぶち込まれてんだよ!と思ったわ。AK女子学園……一見、普通の学校みたいなクリーム色の建物で、プールまであって、笑えるわ。入所した瞬間から地獄だってのに、外見だけは清潔で穏やか。ふざけんな!」
悟は静かに聞いていた。怒りをぶつける気にもなれず、ただ疲れたように椅子の背に体を預けている。「……それで、中は、どうだったんだ」と、かすかな声で尋ねた。
「私、敏子、恵美子と一緒に連れてこられて、すぐに保健室。女性担当官が優しい口調で『服全部脱いでね、恥ずかしいけど我慢して』って言うけど、目が冷たいのバレバレ。全裸で並ばされて、個室なんかねえ。同じ入所者の前で、生まれたままの姿。私の153センチのチビ体、貧乳のロリ体……劣等感の塊よ!敏子みたいにスタイル抜群でもなければ、恵美子みたいに胸とお尻が強調された体でもない。ただの小賢しい小娘。担当官の視線が肌を這うだけで、殺意が湧くわ。クソッ、私の裸を見たやつ、全員殺してやりてえ!
『ブラとパンツも脱いで。一回転して』って言われて、バンザイ。両手で隠すことすら許されない。あそこも尻も丸見え。担当官がジロジロ見て、くすくす笑った気がした。貧乳で悪かったな?お前らの体もいつか同じ目に遭わせてやる!
『足開いてしゃがんで』『スクワット』『咳して』『お尻開いて』……牛の鳴き真似までさせられて、ケツの穴からオ◯ンコまで丸見え。ライト当てられて、指で触られて……屈辱で吐きそうだった。殺す……絶対殺す……この指、切り落としてやる!」
悟は眉をひそめ、目を伏せた。「それは……身体検査だろうが、そこまで……」言葉が途切れた。何と言えばいいのか、わからなかった。
真理子は腕を組んだまま、淡々と言った。「身体検査の屈辱は、本人が何をしていたかとは別に、きつい経験ね。ただ……」と一拍置いて、「あなたが智子や女子大生に与えた屈辱は、それより遥かに深いわよ。恭子、気づいている?」
恭子は真理子を睨んだが、何も言い返せなかった。
「制服を渡されて着替えたけど、ダサいジャージ。プライバシーなんてゼロ。お風呂週三回でボディチェック、トイレは上から丸見え。ちり紙で拭くのよ、二十一世紀で!生理の時は血が漏れて嘲笑される。クソッタレ!
婦人科検診は二日後。内診台で脚固定されて、女医が指突っ込んでくる。クスコで広げられて中見られて、ガラス棒で体液採取。お尻の穴にも指……痛くて泣いたわ。性病チェックだって。陽性出たら隔離されて『汚い』って陰口。私の体、犯されるみたいで……悔しい!私はただ、女子高生をヤク中にして売春させただけじゃない!金になったし、みんな喜んでた!何が悪いんだよ!」
悟が顔を上げた。目に怒りの光が宿っていた。「恭子……『みんな喜んでた』って……薬で意識を狂わされた子が、喜んでいたと本気で思っているのか?」
真理子が短く、しかし鋭く言った。「『何が悪いんだよ』……今でもそう思っているの?」静かな声だったが、部屋の空気が一瞬だけ重くなった。床の黒い塊が、びくりと収縮した。
「部屋は四人部屋でさ。ポッチャリのデブがボスで、出っ歯のヤセが子分。陰キャのカワイコチャンがいじめられっ子。デブが「自己紹介しろ」って命令してきて、ハラワタ煮えくり返ったけど、従ったわ。夜、消灯後にデブが布団に入ってきて体弄る。臭い腋とオ◯ンコ……我慢して虐めてやった。ネコだってわかって、トロトロにさせてやったのよ。ヤセもカワイコチャンを犯してた。泣き声上げたら口塞がれて……可哀想だけど、興奮したわ。
数日で私がボスになった。デブとヤセをマグロに仕立てて、カワイコチャンもいただいた。逆らうと殴らせて、血吐かせて……支配の味、悪くなかったわ。院内はそんな地獄。新入り入るたびボス変わって、暴力の連鎖。自殺未遂や自傷、日常茶飯事。レズは見て見ぬふりだけど、エスカレートしたら隔離房。暗い部屋で食事制限……トラウマ作ってんじゃねえよ!」
悟は何も言わなかった。ただ恭子を見つめ、その顔に浮かぶのは哀れみではなく、もはや得体の知れないものを見るような、静かな慄きだった。真理子が低い声で言った。「支配する側になった途端、加害者と同じことをやっている。あなたは地獄の中で、自分より弱い子を踏みにじることで均衡を保っていた。……それが、あなたの生き方なのね」
恭子は唇を噛んだ。反論の言葉を探すように視線が泳いだが、何も出てこなかった。「クソォ、こんなところ早く出てやる。ぶりっ子得意なんだから、反省のフリして最短で出所よ!出たら、全部あいつらに返してやる……美久たちも、この屈辱も!……そう思ったわよ……」
悟はゆっくりと首を振った。「恭子……院内でも、反省なんて、一度もしなかったのか」
真理子は静かに目を伏せた。「反省という概念が、この子の中にあるとしたら……それはまだ、ずっと奥深くに眠っているのかもしれないわ」と呟いた。それは侮蔑ではなく、珍しくわずかに憐憫の混じった声だった。しかしすぐに表情を戻し、「あるいは、最初からないか」と付け加えた。




