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8-4 出現

「ちっ、面倒だな」

「身体の再生能力。この力は彼らが共通して持つものなのかしら。だとすれば、切り離された側の生命活動は止まっているはずだけれど」

「それを祈るばかりだな。地下からでけえ腕が2本自立して這い上がってくる、なんてのはごめんだね」


 テルモスさんと王様が何やら話し合っているけど、私にとってはそれどころじゃなかった。

 だって、こんなの……どう倒せば。確かに王様曰く、以前現れた侵略者にも再生能力はあった。あったけど、あの靄はまだせいぜい私と同じか、小さいくらいの大きさだった。

 それがどうだ。こいつは巨大すぎる。黒い靄の時のように真っ二つにして戦闘力を削ぐ、そんなの到底できそうにない。生える度に腕を切って、また生えて、切って……その繰り返しで朝が来てしまう。


「あまり時間はかけたくねえんだが……」


 唸るテルモスさんが下を見る。その視線の先に居るのが誰かなんてことは想像しなくても分かった。


「私たちに心臓があるように、彼らにも核になるものがあるんじゃないかしら」

「それだと殺しちまう」

「もちろんエレナの願いを聞き遂げるために努めるわ。でも王はなにより民の命と生活を守る責務がある。守るべき民が居るの。あなたもそうでしょう?」

「……ああ、そうだな」


 テルモスさんの声はどこか自嘲めいていた。しかしそれも一瞬のこと。次の台詞では既にその色は消えていた。


「だとして、どうする。その核があるかも分かんねえ」

「可能性を1つ1つ潰していくのが基本だけれど、今その時間は無いわね。一撃であの者を仕留められるだけの高威力を用意できれば、あるいは」


 少しの間。その何かを躊躇うような沈黙に王様が首を傾げ、言葉を促そうとする──が、この戦闘シーンにそんな暇は無かった。

 空気が揺れる。

 巨人が、生え切った新しい腕を振り上げた!


 瞬間、2人は頷き合い、とび上がる。

 テルモスさんは再度巨人の頭の高さまで舞い上がった。片翼をドラゴンの腕に変え、巨腕めがけて振り払う。それを巨人は手を大きく広げて迎え撃った。

 ドラゴンの前腕と巨人の大きな手がぶつかり合う。そしてガッシリと組み合った。

 鋭い爪が食い込むのにも構わず、巨人はドラゴンと力を比べ合う。お互いがお互いの手を押し合い、彼らは見事にせめぎ合っていた。


 しかし、そこに水を差すものが居た。

 巨人のもう片腕。最初に千切られたはずのそれはこのせめぎ合いの最中に着々と再生を進め、そして陰から小鳥に襲いかかった!

 手を掴まれたテルモスさんは万事休す、逃げることもできず撃ち落される……そう、恐れた私は目を閉じた。


 その眼裏に、ぼんやりとした光が映る。

 

 光るロープだ。


 超スピードで射出されたそれが巨人の腕に巻きつく。そして、ギチリ、空中で腕が止まった。


「やらせませんの……!」


 元より巨人をとらえていたロープはそのままに、新たな1本が増えている。その2本を両手で引っ張っているのはエレナちゃん。……改めて見れば、それはこの場において最も異様な光景とも言えた。


 王様やテルモスさんだって当然とんでもない存在だ。でも王様はその身体能力からして特異だし、テルモスさんはそもそもがドラゴンである。

 対してエレナちゃんは子どもだ。私よりうんと小さな体躯の少女。そんな子どもが、自分の何十倍とも知れない巨人の動きを拘束し続けている。しかもそれはまるで運動会の綱引きのように、あまりにも日常的な動きをもって。だからこそこの光景はとても異様で、ある意味では巨人そのものよりも現実として認識しにくい物だった。


 とにかく、こうしてエレナちゃんが巨腕を引き留めたことで、テルモスさんは落とされずに済んだ。そしてその間に足場を辿った王様が上段へ辿り着いた。大剣を構えて足場を蹴る。


 その刹那のことだった。


 巨人がその手を、ぶおんと振り回した。

 当然組み合ったままのテルモスさんもそのまま回される。その軌道上に、空中に飛び出した王様!

 危ない! あわや衝突というその瞬間──テルモスさんは爪で巨人の皮膚をこそげ取りながら、組み合わされたその手を無理矢理剥がしきったのだ! 

 そうして2人の衝突は免れた。しかし……その代わり、小鳥は遠心力で大きく大きく吹き飛んでいった。

 あっという間の、出来事だった。


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