↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【小説1巻発売中】いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~  作者: 明桜ちけ
第三章 どんな夢を信じても

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/102

081 壁画

 トンネルのような横穴の通路の先に、明らかに絵が描かれているわかる壁が見えてくる。

 通路を抜けると、これまでよりかなり天井の高い広間に出た。

 そして眼前に広がるのは、壁一面の懐かしい壁画。


「すごい、な……」


 懐かしい――思わずこぼしそうになった言葉を、口の中に留める。

 激しい嵐の中、無数の瓦礫の上で向かい合う青年と人魚。

 洋風ファンタジーの城のシルエットのはるか上空、嵐の雲の上を巨大なクジラが泳ぐように飛んでいる。

 この壁画の絵は『イサナ王国物語』のイメージイラストとして、雑誌や攻略本によく掲載されていた。


「ずいぶんと、感慨深そうに見るんだな」

「え!? あ、ああ……」


 訝しげに俺の様子をうかがうアーネスト。

 思わずたじろぐ俺の後ろから、トルトが退屈そうに話しに乗ってきた。


「店長さんって、意外とアカデミックな趣味してるんだよね」

「そうそう! こういうの、結構好きなんだ」

「ふぅん……」


 とりあえずトルトの言葉に乗って、世間話に持ち込む。

 できればこのまま自然に、壁画について聞いていきたい。


「アーネストの研究では、この壁画はどういう意味があると考えているんだい?」

「壁画の意味?」


 原作ゲーム『イサナ王国物語』は、物語中盤でアリエスと共に行く【新世界編】と王国に残る【王国編】に分岐する。

 どちらの結末もハッピーエンドとは言えない内容で、第三の隠しエンディングがあると多くのプレイヤーが信じて探し回った――が、結局それは存在しなかった。

 唯一伏線として残され、最後まで回収されなかったこの壁画の内容のみ。

 本当は大団円エンドがあったが、容量不足など大人の事情で実装されなかったのだろう――という仮説を残して、イサ国ブームは収束を迎えた。


「ここに描かれている魚の亜人は星巫女で、かつて人と何らかの関係があった――と、考えている」

「魚の星巫女……」

「この世界はゆるやかに崩壊している。だが時おり星巫女という存在が登場し、世界を作り替える形で再生させているんだ」

「今の時代の再生を行ったのが、イサナ王国王族の祖先と言われているよ」


 アーネストの解説に、トルトが補足を加える。

 思い返してみれば、ゲーム序盤にそういう説明ムービーやエピソードが結構あった気がするな。

 その星巫女の設定があるから、王族や王族が上層部にいるイサナ聖教会の権力が強いのか。

 序盤の空気感が平和過ぎて、そんなアポカリプス世界ってイメージ全然無かったわ。


「……何もしなくても、世界は崩壊するってことか?」

「どちらかというと『何もしなければ、崩壊するだけ』かな」

「なぜ、何もしないと世界は崩壊するんだ?」

「地上に繫栄した生物や積みあがった建造物の重みで、世界の床が抜けるからだ」

「床が抜ける!?」


 急にポップな表現をされて、思わず吹き出しそうになる。

 そんな俺を不服そうに睨みながら、アーネストは壁画の下の部分を指さす。

 壁画の瓦礫の下部には地上の境界と思われる線が引かれており、その下に瓦礫が崩れ落ちていく様子が確かに描かれていた。


「――だが世界の崩壊も、星巫女による再生も、数千年に一度という記録がわずかに残るだけ」


 ゆっくりと壁画を見渡しながら、アーネストが解説を続ける。

 全体を眺めるためか後ろ歩きをしながら、壁画から離れていく。


「星巫女の再生によってかつて何が起きたか、これから何が起きるのか……実際のところは何もわからず、目下研究中というわけだ」


 後退しながら、俺の横にたどり着いたアーネスト。

 どうやら解説はこれで終わりのようだ。

 それにしても『何もしなければ、世界は崩壊するだけ』ね。

 だとしたらラディルとアリエスの星巫女の旅も、何か意味のあることなんだな……。

 よかった――わずかばかりの安堵が、俺の心に広がる。


「でも魚の亜人って、これまで一度も確認されたことが無いんだよね」


 ずっと静かに話を聞いていたトルトが、口を開く。

 途端、アーネストが不機嫌そうにムッとする。


「世界の再生に関わっているなら、何らかの痕跡があってもいいはずなのに――だからこの壁画は創作だろう、って意見が魔導学園では一般的だね」

「……フン」


 ああこれは、トルトがアーネストを煽ってるな。

 仲の悪い二人がケンカを始める前に、話を終わらせなくては。


「まぁまぁ、この壁画がその痕跡ってやつかもしれないだろ? アーネスト、この壁画を撮ぇ……記録してもいいか?」

「記録?」


 俺はショルダーバックから、スマホを取り出す。

 それだけでアーネストは、すぐに記録の意味を理解してくれた。


「店の料理の絵のように、正確に模写するということか?」

「あ~……そんなところだ」

「構わない。そのかわり、その『記録』を僕にも譲ってほしい」

「それはもちろん! それじゃあ、失礼して――」


 今はまだ何もわからなくても、後で役に立つかもしれない。

 そう思いながら、写真と動画で壁画をくまなく撮影した。


「こんなものかな。あ、あと良かったら、店に繋がる扉をここに設置しようか?」

「店への扉?」

「こういうのなんだけど――バックヤード!」


 実際に見せた方が早いと思って、バックヤードの扉を出す。

 開いた扉の先には、出かける前に設置したゴミ袋が口を広げている。

 これで店に繋がったというのは、わかってもらえるだろう。


「扉がここにあれば、アーネストも移動がラクになるかと思って」

「……いや、遠慮する」


 良かれと思っての提案だったが、アーネストにはあっさり断られてしまった。

 だが不服というワケではないようで、理由を話す彼の顔は不機嫌そうではない。


「集中したいから、あまり人の出入りが多くなるのは好まない」

「そ、そうか……そうだよな」

「え~、扉出しといてもらったほうが絶対便利なのに、本当に変わり者だなぁ」


 トルトは信じられないという顔で、口を挟む。

 それを慣れた様子でスルーし、アーネストは俺に話しかける。


「見学はもういいのか?」

「ああ、今日はありがとう。アーネスト」

「礼はその『記録』というやつでいい。今度店に行くまでに、用意しておいてくれ」

「はは、わかったよ。それじゃあな」

「はぁ~、やっと下水道から出られる~!」


 案内してもらった礼をアーネストに告げ、俺とトルトは店へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇書籍情報◇◆◇


いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1
いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1 発売中!!
【第2回SQEXノベル大賞】金賞受賞作品
公式サイト紹介ページ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。