080 食料と下水道
鉄板の上に並べられた、真っ白な七つのカルツォーネ。
具材を入れすぎて、いつもよりぷっくりとした半月型になってしまった。
それをオーブンを入れ、タイマーをかける。
「あとは焼きあがるまでに、サラダとマチュの盛り付けだな」
調理台の上をアルコール消毒して、冷蔵庫からサラダとマチュドニアの入ったボウルを取り出す。
マチュドニアはリキュールの香りも楽しむ、大人のフルーツポンチ――なのだが、研究中に食べる用なので、今回はアルコールを飛ばした白ワインで作ってある。
これはこれで酸味と旨味が凝縮されていて、仕事の後に食べると美味しいんだよな。
「休日なのに、そんな凝ったもの作って……」
「いやぁ、小分けのカップ見てたら可愛くて、つい」
呆れ顔のトルトに返事をしながら、俺は盛り付け用のプラスチックカップを並べていく。
珍しくサラダや果物の注文が入ったので、通販スキル『100円ショップ』でプラスチック容器を買ったのだが――縦長のサラダカップや製菓用の可愛い形のカップを見かけたら、可愛くて色々買ってしまったのだ。
そして料理もまた、器に合わせて進化するもの。
予定していたよりも色んな種類のフルーツを使ったり、型で花形に抜いたり――いつもより手間をかけてしまった。
整然と並べられた透明な容器に盛り付けると、鮮やかさが際立って更に美味しそう。
「うんうん、こうやってたくさん盛り付けると、オシャレでお店みたいだなぁ!」
「いや、ピコピコはお店でしょうが!」
≪カランカラーン≫
トルトのツッコミが入ったところで、ドアベルが鳴りアーネストが店に入ってきた。
いつもの風呂帰りの服装ではなく、魔法使いらしいローブ姿をしている。
「おはよう、アーネスト」
「ん……おはよう。準備はできてるの?」
「ああ、サラダと果物はできてるよ。カウンターに並べていくから、カバンにしまってくれ」
俺はサラダとマチュドニアのカップに蓋をして、どんどんカウンターの台に並べていく。
アーネストも言われた通りに、自身のマジックバックへとカップを収納する。
≪ピピピッ ピピピッ ピピピッ≫
「お、カルツォーネも焼きあがったぞ!」
鍋敷き代わりの分厚い布巾を調理台に並べ、その上にオーブンから取り出した鉄板を置く。
ぷっくりとしていた生地はさらに膨らみ、焼き色も相まって満月のような焼き上がりなのはご愛敬。
サービス満点なカルツォーネを一つずつオイルペーパーで包み、カウンターの台に並べる。
「はいはい。料理をしまったら、ちゃんとお会計してよね」
「わかってる」
「これで終わりだな……じゃあ、俺はちょっと出かける準備してくる!」
調理台を拭き上げ鉄板を食洗器にかけ、バックヤードへ向かう。
まずは扉で戻ってくる場所に、ゴミ袋を広げてセットする。
「この辺は、もう捨ててもいいかな」
下水道で汚れたり臭いが付いても、最悪捨てても良いボロい服と靴に着替えた。
そして100円のショルダーバックを肩からかけ、念の為防水パックに詰めたスマホを入れる。
「最近は、こんなものまで100円で売ってるんだな。作りもわりとしっかりしててスゴい……」
俺とトルトの二人分用意したのは、雨カッパと靴カバー。
道中はならず者と鉢合わせる危険性もあるらしく、トルトには護衛として同行をお願いした。
アーネストはというと、壁画の説明はするが身の安全まで責任持たないとのこと。
なんとも彼らしい言い分だ。
「準備はこんなものか……二人とも、お待たせ!」
店の入り口に向かうと、絶妙に距離をとって待っているトルトとアーネスト。
この二人、本当にそりが合わないんだな。
「それじゃ行こうか。まずは地下への入口、魔導学園の南門へ向かおう」
「はぁ~……下水道かぁ……」
「付き合わせて悪いな、トルト」
「まぁ、店長さんが行くって言うならダンジョン研究のためでもあるし」
しょぼしょぼとした表情のトルトを連れ立って、俺たちは魔導学園へと向かった。
店から割と近い学園の南門に着くと、アーネストは門の脇にある植え込みに入って行く。
植え込みの裏の石畳の地面には、不自然に置かれた大きな木の板。
アーネストが板をどかすと、地下へ続く階段が現れた。
「こんなところから、降りれるんだな」
「地下は入り組んでるから、はぐれないでくれよ。探すのが手間だ」
「わかった」
用意しておいたカッパと靴カバーをササッと身に着け、アーネストに続いて地下へと降りる。
地下は照明も無く真っ暗で、アーネストはカバンからランタンを取り出した。
俺もスマホを取り出し、ライトモードにして後に続く。
「うぅ……こんなところ通って研究に行くなんて信じられないよ……」
「…………」
真っ暗な地下を、二つのライトを頼りに進む。
すぐ横を流れていく汚水に、通路を反響して響く不気味な音。
実際に下水道を歩くというのは、かなりキツイ。
下水の臭さはすぐに鼻がマヒして気にならなくなったが、重苦しい湿気が体力を削っていく。
暗闇を三十分ほど歩き続けた頃には、だいぶ体がしんどくなっていた。
「けっこう距離があるんだな」
「……壁画は城の近くにあるんだ。さすがに、城から地下に入れなくてね」
「なるほど」
そういえば壁画のある広間は、城の裏庭の地下入口からが一番近かったな。
確か主人公が王国編に進んだ場合にのみ、通れるルートだった気がする。
ぼんやりゲームの記憶と辿っていると、前を歩いていたアーネストが立ち止まった。
「ここだ。少し待っててくれ」
アーネストの視線の先には、少しかがまないと通れなさそうな小さな横穴が続いている。
横穴の前に立ち止まったアーネストは、カバンの中から二本の金属棒を取り出す。
そして穴に向かって、三回打ち鳴らした。
かなり大きな金属音が響き渡り、後ろに立つ俺ですら耳がキンキンする。
同じく不快だったのか、アーネストに食って掛かるトルト。
「な、なにやってるのさ!? アーネスト」
「……ネズミが巣くってるから、音で追っ払ってるんだ」
「もー!! サイアクッ!!」
トルトの叫びと共に、俺たちは壁画のある広間に入っていった。





