幕間 015 ラディルとアリエス
明日5月7日(木)
『いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~』第1巻が発売します。
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「今日はこの辺で、野営しようか」
「うん」
険しい山道を進み、少し開けた場所にたどり着いたラディルとアリエス。
太陽が傾き寒さの厳しくなる中、二人は野営の準備を急ぐ。
それでもテントを張り焚火の火を灯すころには、あたりはすっかり暗くなっていた。
「アレ……」
「ん? あっ、こんなところからも見えるんだ!」
アリエスが指差した、遠い地上の煌めき。
豆粒のように小さな光であったが、ラディルはすぐにイサナ王国だとわかった。
遠く離れていても、その形は変わることがない。
「ラディルは、イサナ王国に……戻らなくていいの? 今ならまだ――」
「大丈夫だよ」
不安そうに問いかけるアリエスに、ラディルは微笑む。
その優しさに危うさを感じ、問いかけを続けるアリエス。
「……本当に?」
「うん、本当」
「でも……騎士団に、戻れなくなるん……じゃ……」
ラディルの進退と、自分が一人になってしまう不安――二つの懸念に挟まれ、アリエスは言いよどむ。
沈黙の中を、パチパチと焚火の弾ける音が響く。
うつむいてしまったアリエスに肩を寄せ、ラディルは明るく言う。
「オレが騎士になったのは、父さんに憧れてたからなんだ」
「お父さんに?」
「うん。すっげー強くて、カッコ良くて、王国騎士として大活躍したんだ」
「……ラディル?」
父の思い出を語りながら、ラディルは地上の煌めきを見つめる。
その優しい横顔に、アリエスは悲しみを垣間見た。
「それで最期は、大切な人たちを守るために『災禍の化身』と戦って、相打ちになったんだって」
「…………」
「だから――オレも、そう生きようって決めた」
決意を新たに、ラディルはアリエスと向き合う――も、すぐに照れて頭をかきながら、姿勢を崩す。
「へへ、なんか恥ずいな……お腹空いたし、夕食にしようか」
「……うん」
焚火の方へと促すラディルに、少し安堵するアリエス。
二人は並んで焚火の前に腰かけると、店長に渡された食料を広げた。
残りはハムと果物が少々に、ミニバケットが二本。
ラディルはバケットに切り込みを入れると、残りの具材を挟んでバケットサンドを作る。
「はい、アリエスの分」
「ありがとう」
「店長さんのくれた食料も、これが最後だね」
「そうね」
アリエスの分を手渡すと、ラディルはパンに噛り付く。
そんなラディルの隣で、アリエスは手にしたパンをジッと見つめた。
「うん、やっぱピコピコの料理はウマいや」
「…………ねぇ」
パンを頬張るラディルに、アリエスが問いかける。
「店長さんは私のこと――星巫女の事を、何か知っていたのかしら?」
「ええっ!? まさかぁ~」
あの店長が料理以外に詳しいとは思えないと、ラディルは笑いながら返す。
しかしアリエスは、神妙な面持ちで店長の様子を振り返る。
「あの日、店長さんは私たちのために食料を用意して待っていたじゃない。準備が良すぎると思わない?」
「店長はいつだって、そういう人なんだよ」
「それにあの時は――店のカーテンが、全て閉まっていたわ」
「うーん、そういえばそうだったけど……」
ラディルは難しい顔でうなりながら、懸命に記憶を辿った。
その横で不安で消えそうな声で、話を続けるアリエス。
「もし、店長さんが何かを知っていて、逃がしてくれたのだとしたら、私は……どうしたら……」
とうとう言葉を詰まらせると、アリエスは俯いてしまった。
手にしたパンは口を付けることも無く、しんなりしてしまっている。
「考えすぎだよ、アリエス」
「ラディル……」
うつむいたアリエスに肩を寄せ、声をかけるラディル。
そして彼女をなだめるように、ゆっくりと問いかけていく。
「アリエスは里の人達が豊かに暮らせるように、星巫女の修行をしてるんでしょ?」
「……うん」
「それが悪いことなはず、ないよね?」
「……そう、ね……」
全てを納得したわけではないが、一先ず落ち着いた様子のアリエス。
ラディルは自分のパンを一口食べ、アリエスに食事をすすめた。
「明日は山を越える。夕食を食べたら、今日は早く休んだ方が良いよ」
「ええ」
ようやくアリエスは、手にしたパンを小さくかじる。
小さな一口をしっかり咀嚼して、ゆっくりと飲みこむ。
三口ほど食べ進めたところで、アリエスはこれからについて話し始めた。
「次の修行場に向かう途中に、私の里があるわ。そこでラディルに会って欲しい方がいるの」
「会って欲しい人?」
「うん、里長様よ。きっと私たちの力になってくださると思うの」
食べ物を口にして元気が出て来たのか、しっかりとした口調でアリエスは提案する。
「それまで大変だけど、頑張りましょう」
「ああ!」
空を見上げながら、二人は食事を続けた。
夜に広がる、満天の星を――
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