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【5月7日小説1巻発売】いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~  作者: 明桜ちけ
第2.5章 幕間 イサナ王国の日常

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幕間 014 アーネストとユリン

「この絵は……一体……」


 地下水道の、奥深く。

 少し開けた空間の広い壁には、古い壁画。

 薄れゆく壁画の前に、薄汚れたユリンは立っていた。


「イサナ様に……聖王様……これは……人、魚?」


 壁画の空を舞うのは、巨大なクジラ。

 城と思われる高い建物のシルエット、その前には向かい合う、人と魚の亜人。

 地面には、無数の瓦礫が描かれている。


≪カツンッ≫


「誰ッ!?」


 不意に聞こえた物音に、臨戦態勢を取るユリン。

 音がした方向の通路には、一人の男が立っていた。


「それはこっちのセリフだよ。誰? キミ」


 壁画の間にやって来たのは、この絵の研究をしている魔導学園の教授アーネスト。

 アーネストはユリンの事など気にせず、壁画に近づく。


「来るなっ!!」

「はあぁぁぁ……面倒くさ」


 深いため息と共に、アーネストは悪態をつく。

 そしてしぶしぶと右手を胸に当て、自己紹介を始めた。


「僕はアーネスト。魔導学園の教授で、そこの壁画の研究をしている」

「この壁画の?」

「そう、だからそこを退いて欲しい。キミに興味はない」


 自己紹介を終えると、責任は果たしたとばかりにアーネストは壁画へと進む。

 しかしユリンは、攻撃姿勢を崩さない。

 それどころか、更に敵意をむき出しにしたのだ。


「この忌々しい壁画は……魚の亜人は何なのだ!?」

「……はぁ。本当に面倒」


 ため息をつきながら、アーネストは眼鏡をかけなおす。


「わかった。魔導学園の教授として、義務を果たそう」


 アーネストは姿勢を正し、ユリンと向き合った。

 そして彼女の眼を真っ直ぐに見て、言い放つ。


「その魚の亜人は、イサナの星巫女だ」

「嘘をつくなっ!!」


 激昂したユリンは瞬時に距離を詰め、アーネストの首筋にナイフを突きつける。

 その言葉は彼女の信仰を、信念を、敬愛を――生涯の全てを否定したのだ。


「イサナ王国の巫女はイサナ王国の血族だっ! 亜人などではないっ!!」


 ナイフと突きつけられてなお、表情を変えないアーネスト。

 恐れることもなく、ゆっくりと答える。


「キミたちの教義が何と言っているかは知らないが、壁にはそう描いてある」


 凶器にも怒気にも、アーネストは気圧されない。

 彼の落ち着いた様子に、ユリンの動揺が高まっていく。


「……貴様はなぜ、このような壁を調べている? 王国を陥れるためか!?」

「はははっ、まさか! まるで興味が湧かないよ」


 あまりにつまらない質問に、高笑いをするアーネスト。

 ユリンは、ますます訳が分からなくなっていく。


「愚かな男……そんな研究をして、何になると言うの……」

「……愚か、か」


 琴線に触れたのか、アーネストから表情が消えた。

 そしてユリンの瞳を真っ直ぐに、捕らえる。


「じゃあ僕を手にかけるかい? あの星巫女の娘にしたように」

「なっ……」


 危機を察して、身を引くユリン。

 だが間に合わず、ナイフを持つ腕をアーネストに掴まれる。


「放せっ! 貴様、何を……」


 アーネストはユリンの腕を掴んだまま、その手のナイフを首筋に滑らせた。

 鋭利な彼女のナイフは、しなやかに首の皮を割いてゆく。


「ひっ……やめ……」


 自由を奪われたユリンの手に、ぬるい鮮血が伝う。

 死の恐怖と確信で、全身が震えだすユリン。


「やめてっ!!」


≪カランカランカラン――≫


 手放されたナイフが、地面を打つ。

 全身の力の抜けたユリンが、膝から崩れ落ちた。

 ユリンが戦意を失ったと判断して、アーネストは手を離す。


「――覚悟も無いのに構えるからだ」

「…………」

「だからそんなボロボロに、なるんだよ」

「っ………………ぅ……ぁぁ……」


 小さくうずくまったユリンが、静かに泣きだす。

 ナイフで切った首筋に回復魔法をかけていたアーネストは、渋い顔になる。

 

「――本当に、面倒だな」


 今日は研究が出来ないと観念して、ユリンの隣に腰を下ろすアーネスト。

 うずくまったままのユリンを、どうしたものかと眺める。


「キミに興味はない。僕の研究の邪魔をしないなら、好きにしてくれ」

「…………」

「…………」


 顔も上げず、返事も無いユリン。

 アーネストはバッグから、お茶のボトルとカップを取り出す。

 そしてカップとボトルの蓋にお茶を注ぐと、カップをユリンに差し出した。


「お茶、どうぞ」

「…………いただき、ます」


 ユリンはカップを受け取ると、ゆっくりとお茶をすする。


「あったかい……」


 ただお茶を口にしただけであったが、ユリンの緊張がほぐれていく。

 しばらくすると、彼女は壁画を見上げる。

 ただ見上げて、じっと見つめていた。


「――僕がこの壁画を研究をするのは、ただ知りたいから」

「…………」


 空虚なユリンの耳に、アーネストの声が響く。


「人魚の星巫女の時代を、いかにして人間が生き延びたのかを――」

ご愛読いただき、ありがとうございます。

今回は少し暗いお話でしたが、アーネストとユリンの今後をご期待ください。


『いたりあ食堂ピコピコ』の1巻発売を記念して

イラストレーターの伊勢田ヒロユキ先生が、鉄板ナポリタンのイラストを描いてくださいました。

イラストには、作者監修のレシピも掲載されています。

詳細は活動報告に掲載しております。

また、今後も作中レシピのイラストが増えるかもしれないので、興味のある方は伊勢田先生のXアカウントをチェックしてみてください。


今後とも、本作をよろしくお願いいたします。

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◇◆◇書籍情報◇◆◇


いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1
いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1 (2026年5月7日発売予定)
【第2回SQEXノベル大賞】金賞受賞作品
公式サイト紹介ページ
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