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【5月7日小説1巻発売】いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~  作者: 明桜ちけ
第2.5章 幕間 イサナ王国の日常

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幕間 013 冒険者ギルド酒場のヒュプノ5

「ヒュプノさん! 〆のメシ、二つお願いします!」

「こっちは三つ、大盛で!!」

「お前ら、メシばっか頼みやがって! ったく、ここは家じゃねぇっての」


 グラトニーの要望でリゾットを作るようになってから、若い冒険者の酒場の利用回数が増加。

 安い金額でちゃんとした食事ができると、意外と好評なのである。

 悪態をつくヒュプノであったが、季節の食材を使うなど満更でもない様子であった。


≪ガランガランッ≫


「おうヒュプノ! 肉だ! 肉をよこせっ!!」

「なんだぁ? 今日はそんなに腹が減ってるのか?」


 勢いよく酒場に入り、カウンターに直行してきたのは件のグラトニー。

 彼にしては珍しく、酒よりも先に肉を要求した。


「若ぇヤツらに負けてらんねぇからよ。肉を食って力をつけねぇと!」

「へぇ、殊勝な心掛けだな。それじゃあ、ソーセージを――」

「おい」


 活気づいていたグラトニーの表情が一変、怒気を帯びてすごむ。


「ソーセージ程度の肉で、十分な力が付くと思うか?」

「は?」

「もっと旨くて! いくらでも食える! 肉料理をよこせっ!!」

「はあぁぁぁぁぁっ!?」


 元相棒の理不尽な要望に、ヒュプノは落胆の叫びをあげる。

 だがグラトニーは悪びれることも無く――


「ヒュプノ! お前はピコピコで修行だっ!!」

「なんでお前が決めるんだよ!?」



■■■



「と、いうワケなんだ」

「あははは。でもグラトニーさん、持ち直したようで良かったです」

「それはそうなんだけどよぉ~」


 なんだかんだ言いつつも、翌日には『いたりあ食堂ピコピコ』に赴くヒュプノ。

 店長にとって、その最後のオチまで可笑しかった。


「いくらでも食べられる肉料理か……それなら、ピッタリのメニューがありますよ」


 笑い過ぎて滴る涙を拭いながら、店長は料理の説明を始める。


「サルディンボッカといって、『美味しさのあまり、口に飛び込む』という意味の料理名なんです」

「へぇ。そりゃまた、すごい名前だな」

「作り方もシンプルなんですよ。ちょうどセージもあるし、作ってみましょうか」

「助かる。ありがとな」

「いえいえ」


 いつものこの一連のやりとりは、店長の楽しみになっていた。

 瓶に刺してあったセージの葉を数枚摘んで、調理台へと向かう店長。

 ヒュプノも後を追って、キッチンに入る。


「まずはお肉。本来は仔牛肉を使う料理ですが、豚肉や鶏肉でも大丈夫です」


 店長は棚からバットを取り、冷蔵庫から出した豚のロース肉を乗せる。

 ロース肉は数ミリ程度の薄切り肉――いわゆる生姜焼き用スライスの厚みで、四枚ほどバットに広げられた。


「今日は豚の、ロース肉を使いますね。それから――」


 すこし勿体ぶった言い方で、店長は冷凍庫を開ける。

 中から取り出したのは、細長いブロックの生ハム。


「生ハム!」

「お、おう……そんなデカイの使うのか?」

「もちろん、必要な分だけ削ります」

「凍ったまま?」

「スライサーを使えば、意外と簡単に削れるんです。それに、生ハムは削りたてが美味しいですから」


 見ててくださいと言いながら、店長はスライサーをバットの横にセット。

 そして生ハムのブロックを、スライサーの上で前後に動かした。

 スルスルという音と共に、絹のような生ハムがバットへ舞い落ちる。


「ね? 意外とキレイに削れるでしょう」

「ああ」


 豚のロース肉と同じくらいの大きさの生ハムを、四枚ほど切り出した店長。

 バットの上に広げてあったロース肉に黒胡椒をふりかけ、それぞれの肉に生ハムを一枚ずつ乗せていく。

 そこまで作業を進めると、店長は手を止めてヒュプノの顔を見る。


「肉と生ハムとセージを重ねるんですけど……巻いたり重ねたり、やり方色々あって――」


 目を閉じて、店長は一時考え込む。

 そして目を開くと、優しく微笑んだ。


「今日は材料を重ねて、半分に折る方法でいきましょう。その方が、形も崩れにくいですし」

「わかった」


 店長は説明を続けながら、肉の上にセージを並べていく。


「豚ロース肉の上に生ハムを乗せ、その上の半分の部分にセージを並べます。そしてセージを挟むように、半分に折る」


 肉とハーブを重ね、半分に折って形を整える。

 そして茶こしを使って、薄くまんべんなく小麦をまぶす。


「肉の表面に小麦粉をまぶしたら、仕込みは終わり。あとは焼くだけです」


 店長は手を洗うと、フライパンを取り出した。

 たっぷりのオリーブオイルを回し入れ、コンロで熱し始める。


「下準備は本当に簡単なんだな」

「ええ。ただ小麦粉は、焼く直前にまぶした方がいいですよ」

「なるほど……わかった」

「そろそろかな。焼いていきますよ」


 オリーブオイルの香りが広がるフライパンの中へ、四個の肉が次々と並べられる。

 バチバチと弾ける油が、肉を囲い込む。


「両面に良い感じの焼き色が付くように、焼いていきます」


 中火で数分ほど、じっくりと肉を焼いていく店長。

 小麦粉の焼ける香りが、ヒュプノの鼻孔をくすぐる。


「良い香りだな」

「そうでしょう?」


 嬉しそうに、店長は肉を裏面に返す。

 ほどよいキツネ色の焦げ目が、パチパチと油を弾く。


「裏面がほどよく焼けてきたら、ソース用に白ワインとバターを加えます」


 フライパンの縁から、白ワインが流し込まれる。

 ジュワ―っと爽やかな香りが広がり、肉を包み込む。

 アルコールが飛んだあたりで、バターが加えられる。

 バターは全体にツヤを与えながら溶け込み、コクのある香りを加えた。


「バターが溶けたら、お肉は皿に盛り付けます」


 店長は肉料理用の丸皿を二枚取り出し、それぞれに焼きあがった肉を二個ずつ並べる。


「そして、フライパンに残ったソースを軽く煮詰めて――お肉にかける」


 フライパンに残ったソースは、少し火を加えただけでとろみを帯びていく。

 完成した黄色を帯びた乳白色のソースを、店長は肉の上に滴るように添えた。


「はい、サルディンボッカの完成です!」

「本当に、あっという間だったな」

「ささ、温かいうちに試食して下さいよ」


 二人はフォークとナイフを持って、個室席へ移動。

 顔を見合せて、手を合わせる。


「それじゃあ」

「「いただきます!」」


 ナイフを入れられたザルディンボッカの、魅惑的な断層。

 中央の鮮烈な、セージの緑。

 包み込む生ハムは、熱で適度に脂と旨みが滲み出ている。

 そして更に外側には、しっとりと柔らかく焼きあがったロース肉。

 肉とハーブの層を見つめながら、ヒュプノは一切れ口に運んだ。


「んん!?」


 口に広がる香りと旨みに、ヒュプノの目が見開く。


「これは……旨味がガツンとくる感じだな。それでいてハーブの香りで、口の中が爽やかになる」

「そうでしょう? いくらでも食べれそうじゃないですか?」

「ああ。口に飛び込むって名前なだけあるな」


 二個のサルディンボッカ――通常の一人前の量を、二人はあっという間に食べ終えてしまった。

 味の余韻に浸りながら、ヒュプノは料理のおさらいをする。


「必要な材料は、肉と生ハムとセージか……酒場でもなんとかなりそうだ」

「生ハムなら広場で屋台を出してるオットカルネさん、ハーブは行商のニルギさんがおすすめですよ」


 いつものようにプリントアウトしたレシピを渡しながら、店長は食材の取扱店も紹介。

 ヒュプノにとっては、それが何とも感慨深く――


「店長、すっかりイサナ王国に馴染んでるなぁ。大したもんだよ」

「え? いやぁ、あははは。皆さん、良くしてくれるから」


 謙遜しながら、店長は照れくさそうに笑う。

 見た目の割には肝のすわった男だと、ヒュプノも更なる信頼を寄せた。


「これからも頼りにしてるぜ。よろしくな!」

「はい!」


 二人はお茶の入ったジョッキで、乾杯をしたのだった。

ご愛読いただき、ありがとうございます。



【お知らせ】

『いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1』

SQEXノベル様より5月7日に発売します。


SQEXノベル公式サイト様にて、作品詳細ページが開設されました。

作品やキャラクターの紹介とともに、書き下ろしSSも公開されています。

このあとがきより下の方にリンクを張ってあるので、ぜひお楽しみください。


また書籍購入特典SSのフェア情報も公開されました。

アニメイト様、メロンブックス様、電子書籍に特典SSが付きます。

詳細につきましては、活動報告をご確認ください。

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◇◆◇書籍情報◇◆◇


いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1
いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1 (2026年5月7日発売予定)
【第2回SQEXノベル大賞】金賞受賞作品
公式サイト紹介ページ
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