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転生魔法使いは孤独死したくない。  作者: ful-fil


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転生魔法使いの悲しい体質

「あいつらみんな呪われろ~」

「うんうん、わかるよ、その気持ち」


 街コンが終了した後、俺とマッサンは居酒屋で残念会を開いていた。

 結果は惨敗、当然だけど。


「身を切るような思いで新しい服買いに行って、恥ずかしいの我慢して隠し芸まで披露したのに……」

「ストロー浮かせて踊らせるやつな。受けてたじゃん」

「場を盛り上げたって結局、選ばれるのは顔が良くて口が上手いやつじゃんか」

「まあまあ。連絡先交換できた人いるんだろ?」


 それを言うならマッサンこそ連絡先交換していた。


『ブドウ狩りイベントもご相談に応じますので、いつでも声かけてください』


 とか言ってスタッフに営業までしていたのだ。

 いいなあ、果樹農家はそういう営業ができて。

 ちなみにマッサンが着てきたのは『葡萄最高~I love grape』と書かれたTシャツだった。

 決しておしゃれとは言えないが、気合の入った営業努力とは言える。


「交換したの32歳の保育士さん。お誕生会の余興で出演依頼するかもって……」

「七つ年上かー。まあそれも一つの出会いだな」

「色っぽい話になるわけない。園児に囲まれて、ぶら下がられて、よだれまみれにされながら芸を披露する羽目になるだけだ」

「なんか実感こもってんな」

「姉の子が5歳と3歳。実体験だ。園児は怖いぞ。大人を滑り台かブランコだと思ってるからな。全体重乗せてくる」

「おまえ案外父親業に向いてるかもな」


 どこがだ。

 羞恥心にまみれて他人を呪ってる転生魔法使いのどこに父親適性があるというんだ。

 俺にそんなものはなーい!

 今の俺ができることなんてたかが知れてて、魔法だって隠し芸くらいにしか……。

 ……あ。


「魔法で家族を作るという手も……?」


 一瞬、前世のホムンクルス製造法とか、精霊召喚とか、使い魔契約とか、様々なパートナー獲得手段のイメージが脳内を飛び交ったが。


「……やっぱ、ないな」

「なんだよ、諦めるなよ。作っちゃえよ。最高じゃん、自作の嫁さん。理想の女作っちゃえよ」


 無責任にけしかけてくるマッサン。

 おまえ酔ってんな?


「仮に人間そっくりなホムンクルスかなんかを作って家族にしたとしてだよ? その子の身分証明とかどうすんだ。戸籍も国籍もないんだぞ? 社会生活送れないだろ」

「んなもん『記憶喪失で身元不明です』とか言って新しく戸籍作ってもらえばいいって」

「世の中そんなに甘くない。DNAとか調べられたら人間じゃないってバレるかもしれない。新種の生物だと学会発表でもされたら……」


 世界を揺るがす大騒動に発展するじゃないか!

 俺が作ったとバレたら、『人間を作る』という神の御業に手を掛けたとみなされ、どこぞのヤバい宗教から暗殺者が来るかも?

 あるいはロシアかアメリカに拉致されて、極秘の研究所に監禁されてホムンクルス製造技術について洗いざらい喋らされ、俺の秘密を体質のこと含めて全部吐き出すことに……。


「危なすぎる。やっぱ無しだな。俺は俺の身の安全のために家族を作らず生きていく」

「ペータ考え方が後ろ向きだよなー」


 だって街コン惨敗だったんだもん。

 元々なかった自信を完膚なきまでに叩きつぶされ、傷つきやすいプライドにざっくりと引っかき傷を作られたんだもん。

 成婚カップル呪ってやるー。

 呪いの魔法なんか知らないけど、気分で。


 そんな俺を見つめる目があることに、この時はまだ気づいていなかった。





「あらぁ~、酔っぱらっちゃって、まあ。悪いわねぇ、送ってもらっちゃって」

「いえ、マッサンにはいつも世話になってますから」


 べろんべろんに酔っぱらったマッサンを家まで送り届けた帰り道。

 まぁるい月を見上げて感慨にふける俺。

 前世でもこうして月を見上げたなあ……。

 月の満ち欠けと魔法との間に法則性があったから、月齢を確かめるのが主目的だったけど。

 それでも夜空に光る月には吸い込まれるような美しさがある、と思ってた。

 まるで魔性の女みたいに……。


 俺はぴたりと足を止めた。

 振り返らずに言う。


「隠れてないで出て来いよ」

「意外と勘がいいのね。可愛い魔法使いさん」


 背後の闇から溶け出すように女の姿が現れた。

 街灯の明かりに照らされた姿は夜目にも美しい。

 どうやら街コンで見た顔だ。

 色白の美人で目立っていたが、あいにく年齢が保育士さんより更に上の35歳。

 十も離れているのでは俺の守備範囲ではなかった。


「ずっと尾行してただろ。どういうつもりだよ」

「こういう場合って目的は一つしかないんじゃない? 女が若い男の後をつけると言えば……」


 妖艶に笑ってみせる彼女の唇から白い犬歯が覗いた。


「……捕食しかないじゃない?」


 次の瞬間、本性を現して飛び掛かってくる女。

 人間とは思えない跳躍力。

 振りかざした手からはナイフのように鋭い爪が伸びている。

 真横に裂けた巨大な口から垂れた赤い舌は先端が二股になっている。


食人鬼グーラーか!!」


 グーラーとは。

 食屍鬼「グール」の女性形である。

 「グール」の方ならこの世界のゲームやラノベでお馴染みだろう。

 死体も食べるが、生きた人間も食べにくる、嫌な魔物である。

 グーラーの方はそれに加えて見た目が麗しい美女なので、一人旅の男を誘惑して精気を吸ったりもする。

 もちろん死肉も食らうし、今俺が襲われているように生きた人間の肉も食いに来る。

 あっちの世界では寂れた田舎に出没していた。

 こっちの世界でも出るんだな。


 真上から振り下ろされる爪の初撃を左足を軸にしたピボットで回避。

 だが立て続けに二撃目、三撃目が襲ってくる。

 グーラーの身体能力は人間離れしている。

 対する俺は運動神経に自信のない元魔法使いで今農家。

 農作業でついた筋肉はあるが、いつまでも鋭い攻撃をかわし続ける自信はない!


「じらさないで。食べさせて」

「食われてたまるか!」


 赤く彩られた長い爪を必死で避けて、ポケットに入れて持ち歩いている護身アイテムを投げつける。


「悪霊退散!」

「痛っ!」


 よし、効いている。

 畳みかけるように連続で投げつける。


「悪霊退散! 悪霊退散!」

「いたた……なにこれ、大豆!?」


 その通り。

 古来より清めには塩、鬼には豆である。

 この『護身用退魔の大豆』は清めの塩もまぶされているし、俺が豆一粒一粒に魔力を込めてルーン文字を書いておいたから、一層効果が高い。

 バージョン違いで『護身用退魔の米粒』もあるぞ!

 米粒に文字を書くのは結構大変だったがな!


「悪霊退散! 悪霊退散!」

「んもう、痛いわねえ! やめてよ、悪霊じゃないわよ!」

「悪霊退散! 悪霊退散!」

「話聞いてくれない? 私はただ一口味見させてもらいたいだけの可愛い女なんだけど?」

「悪霊退散! 悪霊退散!」


 肉を噛みちぎりに来る女が可愛いわけあるか!

 俺は問答無用で退魔の大豆を投げ続ける。


「悪霊退散! 悪霊退散!」

「痛い痛い痛い! もう、優しくしてれば図に乗って! カール、出ておいで~」


 グーラーの呼び声に応じて足元の闇が水たまりのように揺れて、中から何かが現れる。


「カール、あいつを死なせない程度にやっちゃって!」


 闇から現れたのは真っ黒なシルエットに二つの目だけが赤く光る、黒い犬だった。


黒妖犬ブラックドッグか!」


 ブラックドッグ、別名ヘルハウンドとも言う。

 

 見た目は普通の大型犬。

 スピードが速すぎて直線的にしか進めないという欠点はあるが、飼い主には忠実。

 あっちの世界では魔女の使い魔としてよく飼われていた。

 戦闘力はツキノワグマと同じくらい。

 一般人ならこいつに襲われればひとたまりもないが……。


 幸い今夜は満月だ。

 今宵の俺は一味違う。


 ウルルルオーーーン


 俺の喉から突如発せられた異様な音声に、ブラックドッグが静止する。

 それはブラックドッグが逆らえない、上位種のしるし、魔力のこもった野生の遠吠え。


 俺の全身にむず痒い感触が走る。

 黒い剛毛と灰色の下毛がわさわさと生えて、内側から衣服を持ち上げる。

 体毛だけでなく、筋肉も盛り上がり、骨さえもその太さを変える。

 一回り大きく膨らんだ体に耐えられず、上半身の衣類が弾け飛ぶ。

 ああ、新しく買ったばかりの街コン用の衣類が、ボロ雑巾に……。

 悲しいが仕方がない。


 変身が完了した時、そこに立っていたのは二足歩行の巨大な狼。

 満月の夜の人狼であった。


 ウルルルルオーーーーン!


 既にブラックドッグは硬直しているが、ダメ押しにもう一吠え。

 転生してみたら狼男の家系だったと知った時の俺の悲しみがわかるかー!!

 前世が魔法使いだというだけでもアレなのに、それに加えて満月の夜には変身するんだぞ!

 結婚してくれる女なんかおらんわーーー!!


 食い殺しに来る女はいるが……と目をやると、グーラーは一目散に走り去っていた。

 遠ざかっていく足音を聞きながら思う。

 そりゃそうだよな。

 さんざん豆をぶつけられて痛い思いをした上に、相手が人間ではなかったと知ったら、逃げ出すよな。


 ははは、グーラーにも振られたよ……。

 グーラーだって要らないよな、狼男なんか。

 ホッとしつつも、心に一筋、哀しい傷が増えたような気がする。

 ちなみに姉は俺と同じ両親から生まれたのに、変身しない。

 ズルいよな。


 後に残されたのは硬直しているブラックドッグ。

 俺が毛むくじゃらの手(前脚?)を伸ばすと、キャン、と小さな声がして、ブラックドッグが伏せた。

 ごろりと裏返って、腹と首筋を見せている。

 『殺さないでください』のポーズだ。


「よしわかった。おまえは今からうちの番犬な」


 見捨てられたもの同士、仲よくしよう。

 ブラックドッグの黒い毛皮を優しく撫でてやる。

 ガタガタ震えるブラックドッグはされるがままだった。





 ピンポーン。

 早朝の見回りを終えて、エアコンの利いた室内でくつろいでいると、玄関のドアチャイムが鳴った。

 誰だろう、こんな暑い日に。

 モニターを見ると、そこに映っていたのは……。


「悪霊退散! 悪霊退散!」

「いたた……謝るから、先日みたいなことはしないから、話を聞いてください!」


 グーラー、35歳だった。

 おのれ、食人鬼のくせにどの面下げて……と思ったが、反省している様子なので一応話に耳を貸してみる。


「要するに、犬を返して欲しいと?」

「はい、カールは私の大事な家族なんです」

「大事な家族の割には見捨てて逃げたようだが?」

「うっ、それは……恐怖に駆られて……後悔してます」


 殊勝な態度で頭を下げているグーラー。

 こうして昼の光の下で見ると、到底人食いには見えない。

 普通にちょっと美人なOLに見える。


「だがあいつは既に番犬として働いてもらっている。最近市内にサルやアライグマ、時にはクマまでもが出没するので、農作物防衛のためにこの先百年くらい働いてもらおうかなと」

「百年!? い、いえ、それがお望みであれば仕方がありません。承知しました。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」


 そう言って、グーラーはなぜか玄関の中に入ってこようとする。

 その手には大きなスーツケースが。


「ちょっと待て。なぜスーツケースを持って家に侵入しようとする!?」

「え、だって愛犬と離れたくないし。カールを連れて帰れないんなら、私がカールの傍にいればいいかなって」

「勝手に決めるな! 家主は俺だぞ!」

「ええ、ですから……」


 グーラーは意味ありげな流し目を寄こした。


「同棲ってことで……どうかな?」

「出会って二日目で押しかけ女房するな! このマンイーターがーーー!!」


 悪霊退散、悪霊退散!!


 俺が投げつける退魔の大豆は結構痛かったはずだが、逃げまどいながらもグーラーは退散しなかった。

 青あざだらけになりながら、しぶとく懇願し続ける。

 ここに置いてくれ、愛犬と一緒にいさせてくれ、と。

 とうとう大豆のストックが尽きて、仕方なく俺は妥協した。

 もういいから、犬連れて帰れ、と。

 なのに。




「俊ちゃーん、ご飯できたわよー♪」


 あれから三日。

 グーラーはなぜかまだ俺の家にいる。

 これ見よがしにエプロンなんぞ着けて、下手な料理を作っている。


「他人に作ってもらわなくても料理くらい自分でできる」

「まーたそんなこと言っちゃって。本当は嬉しいくせに」


 やめろ、指先で人の頬をつつくな。


「犬連れて帰れって言ってんだろ!」

「もうアパート解約しちゃったもん。ここを追い出されたら行くところがないの。それに……」


 一瞬、しおらしそうな顔を見せておいて、次の瞬間には肉食系の顔になる。


「……俊ちゃんが美味しそうだから♪」

「食われてたまるか!」

「いいじゃな~い、一口だけ、ね? 満月期の狼男はケガしてもすぐに治るんでしょ~?」

「一口だってやらん! おまえに食わせるために育てた筋肉じゃねえわ!」


 悪霊退散、悪霊退散!!

 母さん、助けて、こいつから逃げきるにはどうしたらいいの?

 死んだ祖父ちゃん、俺を守って!

 退魔の大豆よりもっと強い武器ないかな?

 人間として社会生活を送ってるグーラーを殺したら、やっぱ殺人罪?

 その辺考え始めると安易にぶっ殺すわけにもいかない。

 どうすりゃいいんだ、この危険生物。


「俊ちゃ~ん♪ 好き~!」

「悪霊退散!」


 孤独死の方がましだったかもしれない。

 そう思いながら、俺は今日もグーラーと一つ屋根の下、戦い続けている。




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― 新着の感想 ―
「悪霊退散!」は護符では?同じ書くなら紙の方が楽なのにマメですね… カールの判断能力の確かさに(笑)
 キタァァァァァ! という感じになりました。  ful-fil様の事だから何かとんでもないアレがあると思ってはいましたが、イイ感じにぶっ飛んでます。  でもこの出会い、男に取って幸せなんだろうか……。…
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