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転生魔法使いは孤独死したくない。  作者: ful-fil


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3/3

マンイーターの恋

 それは何てことのない日常生活のひとコマだった。

 金曜日の夕方、帰り支度をする女性社員たちの他愛ない会話。


「えー、街コン行くのー?」

「そういうイベントって行くのに勇気要るよねー」

「そお? 私はわりと行くけど?」

「桃香はねー」

「そうそう、桃香さんは特別ですよー」


 それは私が美人ってことね。


 安達原桃香(35歳)は同僚たちの言葉を良い方に解釈した。

 実際、職場では桃香が一番の美人だ。

 年齢でも一番上になりつつあるが。

 婚活イベントでも年長者グループに入りつつあるが、大して気にしていない。

 街コンは彼女にとって美味しいイベントなのだから。


「女性は基本無料だったり、お金取られても二千円くらいよ。それで飲み放題食べ放題ならお得じゃない?」

「違う、そうじゃない」

「目的がずれてますよー」


 そうかな?


 桃香は今までの婚活イベントを思い返してみた。

 一応、結婚を希望する男女のための出会いの場とされていたけれど……。

 現にこうして独身でいるわけで。

 美味しいものを食べるイベントだったとしか思えない。


「私は毎回食欲で参加してるけど?」

「色気より食い気!」

「桃香さんらしいですー」


 そうかしら?


 まあ桃香も自分がちょっと特殊な人間だということは理解している。

 最年少の後輩になると、桃香より一回り若い。

 そんな若い子に自分と同じ行動力を求めるのは無理があるだろう。


「じゃあねー」

「街コンで飲みすぎ食べ過ぎに気を付けてー」

「かぶった猫が脱げないようにがんばってー」


 猫なんかかぶったことないけど?

 私はいつだって素の自分よ。


 応援する声に軽く手を振り、桃香は週末の街コンに参加した。

 今住んでいる地方自治体は若者の婚活支援に熱心だ。

 以前住んでいた都市では三十代の女は婚活市場ではオバサン扱いだったが、ここではまだまだ十分通用するので、桃香は積極的に参加することにしている。

 自治体が推す特産品やB級グルメなど美味しい物に出会えるチャンスだし、桃香の美貌は男の目を惹きつけるので何かと美味しい思いができるのである。


 今回はどんな男がいるかな~♪

 美味しそうな男がいるといいな~♪





 ハズレだったわね……。


 街コン参加者に食指の動く相手はいなかった。

 話しかけてくる男たちは可もなく不可もなく。

 四十過ぎのオジサンなんか興味ないし、年の近い三十代の男たちは平凡そのもので食い足りない。

 二十代の可愛い男の子もいたけど、内気なのか話しかけてこない。

 食事は中華オードブルと飲み放題で、それなりに食べられる味だったけど……。


 ……足りない。

 肉が足りない。

 唐揚げだけじゃ少なすぎる。

 もっとがっつり肉を食べたい。

 シュウマイや春巻きはちょっと違う。

 もっとがぶっと噛みついて、ぐいっと噛みちぎりたい……!

 私は肉食なのよーーー!


 そんなわけで、街コンが終わると桃香は焼き鳥系居酒屋に足を向けた。

 カウンター席で盛り合わせを注文し、思う存分がぶっと噛みつき、ぐいっと噛みちぎる。

 食べ終わった串が二十本を超える頃……。

 ふと、耳が気になる音声を拾った。


「……自作の嫁」

「作っちゃえよ、理想の女……」

「ホムンクルス……」

「……戸籍……どうする」


 ええ!?

 何、誰、理想の女を自作するって?

 ホムンクルスって……えええ!?


 声のする方をこっそり伺ってみると、そこには街コンで見かけたちょっと可愛い二十代の男の子と、その連れの「I love grape」と書かれたTシャツを着た純朴そうな男の子がいた。

 意識的に二人の会話に耳をそばだてていると、どうやら可愛い方の男の子は本当に魔法が使えるらしい。

 人造人間を作った後の法的あるいは社会的ハードルについて真剣に論じている。

 これは……リアルな犯罪計画ね!?


 桃香は直感的にそう思った。


 あの男の子、妖術師ソーサラーね?

 おぞましい黒魔術で人間を作り出す……それとも生きてる女性をさらって改造するつもりかしら?

 きっとそっちね、妖術師だって材料なしに人間を作ったりできないでしょ。

 あれだわ、フランケンシュタイン博士の実験みたいに、人間の体をつぎはぎして理想の女を作るつもりなのよ。

 女性をなんだと思ってるのかしら!

 大人しそうな顔してとんでもない悪い男ね!

 こんな田舎じゃあ悪い男なんていないと思っていたけど……。


 ……お仕置きしちゃおうかな?


 それでも自分の思い違いかもしれないと、念のために桃香は相手の気配を探ってみた。

 もしかしたら架空の話で盛り上がっているだけの、ただの中二病患者かもしれない……。

 だがその期待は裏切られた。

 微かにだが確かに感じられる……魔のニオイ。

 「I love grape」Tシャツの方はただの人間だけど、可愛い顔の子はニオイが違う。


 ……有罪ギルティね。

 

 二度と悪いことできないようにお仕置きしてあげる。

 あなたのお肉、どんな味がするのかしら?


 桃香は唇をぺろりと舐めた。





 ……こんなことになるなんて。


 女を好き勝手に改造したり壊したりできる玩具だと思ってる悪い男。

 そんな奴なら遠慮なくいただいちゃおうと思ったのに。


 尾行を見破られ、妙に痛い大豆をぶつけられた。

 奥の手の愛犬カールをけしかけたら、なんと相手が狼に変身してしまった。

 妖術師だとばかり思っていたのに、人狼だなんて聞いてない!


 動転してその場から走り去ってしまった桃香だったが。

 バクバクする心臓を押さえ、呼吸を整えようとするが、興奮が止まらない。

 どうしよう、どうしよう、あのモフモフボディ、狼のシルエット……。


「かっこいい……」


 桃香はいわゆるケモナーだった。

 大の犬好き、大型犬が特に好き。

 人間の男に恋したことは一度もない。

 できれば犬と添い遂げたい。


 そんな桃香の前に突然現れた、犬に酷似した黒い毛皮の狼に変身する男……。

 ああ、胸の高鳴りが止まらない。

 もしかして、これは恋なの……?


 初めての経験に、どうしたらいいのかわからない桃香だったが、置き去りにしてしまった愛犬も気になるし、こっそり現場に戻ってみた。

 そしたら彼が愛犬を優しく撫でていた。


 悪い男なのに、犬には優しいのね……。


 愛犬を連れて帰る彼の後をこっそりつける。

 畑に隣接した一軒家に入っていく様子を確認。


 ここがあなたの家なのね……。

 私の心を虜にした悪い人……。


 窓から見える部屋の明かりを桃香は切ない思いで見上げるのだった。





 翌朝、桃香はスーツケースに身の回りの品を詰め込んで、彼の家に突撃した。

 昨夜はとうとう寝付けなかった。

 狼に変身した彼の姿が目に焼き付いて離れない。

 これはもう恋に落ちたとしか考えられない。


 落ちてしまったからにはアタックあるのみだ。

 愛犬を迎えに来た体でドアチャイムを鳴らし、出てきた彼に全力アピール。

 案の定、愛犬の返却は断られたので、天然なフリをして強引に上がり込む。

 こんな人、二度と出会えないかもしれない。

 諦めたら負けだ。

 ちょっと抵抗されたけど、根性で押し切る。

 桃香だって一般人より体力があるのだ。

 少し痛い思いをしたけど粘り勝ちで家に入った。


 一人暮らしの男なら、家に上がり込んじゃえばこっちのものよ!

 私の方が年上な分、経験豊富なんだからね!


 経験にものを言わせて押し切ろうとしたが、抵抗が激しく、なかなか一線を越えてくれない。

 もどかしかったが、やりとりの中でだんだん彼の人となりが見えてきた。

 

 さては未経験ね?

 女慣れしてないし、最初に思ったほど邪悪でもなさそう。

 妖術師……というより手品師っぽい?

 身の回りの小さなことにしか魔法を使わないのね。

 人狼なのに乱暴でもない。

 むしろ……優しい人、かも?


 印象がどんどん書き換えられて行く。


 職業、農業……というよりニートに近いのね。

 臆病で、引っ込み思案なタイプね。

 低所得? いいわよ、私が養ってあげる!

 だから……


「一口食べさせて~♪」

「悪霊退散!」




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― 新着の感想 ―
 これが肉食女子か!  35歳の肉食女子に押し掛けられるのは幸せなのかどうなのか……。  どちらにしろ人外同士だからいいのか……。不老不死系の人外だったら年齢あんまり関係なさそうですし……。
本丸が落ちないなら外堀からでしょ。 カールの活躍に期待。
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