転生魔法使いは婚活したくない
あるゴミの日の朝、寝室用の屑籠にポリ袋をかぶせてみたら、サイズが合わなかった。
「……失敗だったか」
台所に設置しているゴミ箱(容量20リットル)に合わせて、白色半透明のポリ袋をネットでまとめ買いしたのだ。
これで数年はポリ袋を買わずに済むと思ったのだが、台所の可燃ごみ用ゴミ箱と寝室用の屑籠とでは容量が異なるのを失念していた。
寝室用の屑籠はどう見ても容量10リットル程度。
ポリ袋が大きすぎて余っている。
どうしよう?
「……ま、いっか」
大きすぎるポリ袋を盛大にはみ出させながら、屑籠にセットした。
仕上がりは美しくない。
修正したい。
「『物体変成、青き器よ、その形を変じよ』、魔法発動」
手をかざして呪文を唱えると、水色の屑籠がメキメキと膨らんだ。
変形が終了すると、ぴったりポリ袋に合った20リットルサイズになっていた。
「よし!」
元の質量は変わらないので、高さと直径を増やした分、厚みが激減しているが、気にしない。
寝室の屑籠なんて、入れるのは鼻かんだティッシュくらいなのだから、強度はさほど必要ない。
『ポリ袋の方を縮めた方が良かったのでは』という思いが一瞬脳裏をよぎったが、深く考えないことにする。
過去は振り返らない主義……ということにしておこう、今だけは。
俺は集めたゴミを回収に出すため、寝室を後にした。
無事にゴミを出し終えて、ホッと一息。
真夏の猛暑日、まだ時間は8時前とはいえ、外に出ると直射日光が肌を焼く。
猛暑は嫌いだ。
真冬の極寒も嫌いだが。
なんでこの国は気温が安定しないのだろう。
冬は氷点下まで下がり地域によっては豪雪、夏は体温と同じ36℃か地域によってはそれ以上に上昇、ついでに多雨多湿、暮らしにくいことこの上ない。
この国は本当に温帯か、熱帯と寒帯が期間交代制で混じってんじゃないのか?
その分、ある種の農作物は作りやすいが……。
人体には厳しい環境である。
「一年中ずっと25℃だったらいいのに」
ぼやきながらエアコンのスイッチを入れた。
設定は26.5℃快適お任せ。
電気代は高いが、節電などしない。
遠慮なく電力を消費して快適に暮らす、そのために屋根の上にでっかい太陽光パネルを乗せてあるのだから。
今は亡き祖父から受け継いだこの家は、太陽光発電付きオール電化、家の横に畑があり、畑には地下水をくみ上げるポンプがある。
万が一、ライフラインが止まっても、単独で生き延びることが可能な作りになっている。
まあ実際にライフラインが止まるような災害時には自分ちだけ余裕というわけにはいかず、水くらいは隣近所に分け与えることになるだろうが。
一人だけ生き延びるなんてことは不可能なように世の中が出来ているのである。
話を戻すと、昨今は太陽光発電も需要を供給が上回り、電力の買取は限りなくゼロ円に近付いた。
設備投資の元を取るには自家消費するしかない。
よって日中、発電している時間帯において節電は悪、消費こそ善なのだ。
ちなみに夜間は善悪が逆転することは言うまでもない。
エアコン稼働と同時に扇風機も回し、快適な室内でネットニュースを眺める。
俺にとって一番重要なのは天気予報で、それは専用のアプリで確認済みだ。
その他のニュースは世の中の流れや大事件を知るために見ている。
大半は芸能人のどうでもいいような近況とか、スポーツの勝ち負け、クマ出没情報、自国や他国の政治問題などだが……。
たまに自分に関係のある話題も転がっている。
日本人のコメ離れとか。
「コメは高すぎるから買わない、パンと麺があればコメがなくても困らないだと……!?」
コメを否定された。
そう感じた瞬間、自分を否定されたようでカッとなった。
瞬間的に頭に血が上るのがわかる、わかるが止められない。
血圧上昇、血管切れたらどうしよう、若いから大丈夫か。
「パンと麺、その材料となる小麦がどこから来てるか知った上での発言か! 北海道を除いてまともに小麦など取れないこの日本列島で、外国からの小麦輸入が途絶えたらどうなるのかわかっているのか! 主食を外国に握られて、ある日突然輸入停止ねと言われ一粒の小麦も入ってこなくなったら、おまえら何を食って生きていくつもりだ! 自分たちが生きるため、自国で生産できる穀物を大事にしようと思わんのか!」
ウガーッと吠えて、テーブルをダン、と叩いてから、努めて冷静になろうとする。
アンガーマネジメント、クールダウン、Take it easy. 十数えよう。
俺は過激派ではない、食料自給率を気に掛けているだけの無害で温厚な生産者……。
そんな俺の目に再び飛び込んでくるネットニュース。
「コメ価格、5キロあたりの全国平均価格が一年半ぶりの3500円割れだと……?」
あ、ダメだ、下がった血圧がまた上がる。
「令和六年の不作と高騰を受け、作付けを拡大させたくせに、増産させといてコメ余りだと? 余らせて安売りするくらいなら増産さすな! ていうか備蓄米放出したんだから再び備蓄すればいいだろうが! 安易に市場に流すな、あと三年は備蓄しろー!」
ウガーッと吠える、アンガーマネジメントに失敗してる俺、大上俊平太25歳、職業:農家。
大学行かずに先祖伝来の田んぼを耕している、前世は異世界で魔法使いだった半農業半ニートである。
※
俺の前世は、名前などはどうでもいいとして、『魔法使いだった』。
ここ重要。
前世の俺のアイデンティティはそこに掛かっていた。
卓越した魔法使いであるという、その一点に。
魔法のない現代日本に転生し、物心つくと同時に前世の自分を思い出した結果、次の瞬間、深い絶望感に襲われた。
この世界、魔法使いがいない。
俺が魔法使いだと主張しても、まともに受け取ってもらえない。
幼児向けの図鑑で見たあれこれもまた俺の幼い心を折った。
消防車、なにこれ、こんなのあったら水魔法なくても火事が消せるじゃん、水道のレバー上げればいくらでも水が出てくるし。
新幹線、なにこれ、こんなのあったら転移魔法なくても簡単に遠くに行けるじゃん、バスや自動車も馬車より便利だし。
テレビ、パソコン、スマホ、なにこれ、こんなのあったら通信魔法いらないじゃん。
天気予報、なにこれ、二週間先の天気までわかるなんて、お天気占いすら必要ない。
科学万能の時代に生まれてしまった俺、5歳にして心が折れた。
……俺はこの世界に必要とされない存在なんだね。
それから高校卒業まで、折れた心に意欲が戻ることはなかった。
向こうで覚えた魔法はこっちでも大体使えたが、それが役に立つ場面はあまり多くなかった。
この世界、魔法使いに優しくない。
クラスメイトに魔法使って見せれば手品って言われるし、クラスでは手品が上手いやつよりスポーツが得意なやつの方が偉いし。
数学はともかく化学や物理は前世の魔法理論と違いすぎて、頭では理解できても心が拒否した。
理系に進めなかった俺だが、かといって文系の適性も高くなく、芸術系の才能があるわけでもなく、体育会系の素質は言わずもがな。
他にも体質の悩みとか色々あって。
『大学行きたくない』
駄々をこねた結果、祖父母の家に住み込み、祖父が営む農業の手伝いをすることに。
半農業半ニートの始まりであった。
祖父は畑も持っていたが、メインは稲作だった。
言われるがままに手伝ううちに、俺は稲作というものの奥深さに開眼していった。
水田、それは芸術の域にまで高められた穀物生産プラントだ。
水を引き込む取水口が作られ、田を一定の水深で満たせるよう厳密に計算された勾配があり、田土の下には水を漏らさない粘土層があり、排水口から出た水は下流の水田に引き入れられて無駄なく再利用される高度な仕組み。
取水と排水、二か所の水門調節だけで、水温の管理まで行えるのだ。
まさに磨き抜かれた芸術、先人たちの知恵の結晶である。
ノウハウが蓄積されまくった結果、現代日本の稲作は省力化も極められている。
朝夕、一日二回の見回りと水門調節さえ欠かさなければ、真夏の日中は田んぼに行く必要がほぼないのだ。
暑い時間に家の中にいられる、半農業半ニート万歳!!
そういうわけで、祖父母が他界した後は俺が家と農地を引き継いで、近所では珍しい若手農家として暮らしているのである。
言うまでもないが収入は少ない。
好きでやってる貧乏暮らしだが、それはそれとして、コメの値段が高すぎるとか言われると腹が立つのだ。
俺はコメ作りでぎりぎり自分一人養えるだけしか稼げてないんだぞ、と。
まあ収入を上げる努力もあんまりしていないんだけど。
※
トゥルルル……。
珍しく着信だ。
俺のスマホに電話がかかってくることは滅多にない。
付き合いが狭いからだ。
貧すれば鈍する、金がないのは首が無いのと同じ。
首が回らないので人付き合いもしない。
かけてくるのは実家の親か、さもなくばJA関係者か……。
表示されている名前は『青井海』だ。
海と書いてマリンと読ませるキラキラネームだが、実態はキラキラとは程遠いブドウ農家の長男、数少ない農業友達である。
ちなみに愛称はマッサン。
「おう、マッサン、久しぶり。どうした?」
「ペータ、元気か? 暇ならバイトしないか?」
友達は俺をペータと呼ぶ。
名前が俊平太だからだ。
なぜ「俊平」で止めておかずに「太」を付けたのか、それは名付けた親にしか理解できない謎の美意識。
「暇は暇だが、収穫バイトをする気はあんまりないぞ」
ブドウのハウスの中は蒸し暑い。
しかも高い所のブドウを収穫するため長時間上を向いて作業すると、肩と首と腰にくるのだ。
一度袋掛け作業のアルバイトをして懲りた。
果樹は儲かる代わりに育てるのも収穫するのも大変なのである。
「怠惰なおまえに農業バイトは期待してない。実は昨日の台風で俺のハウスが一部壊れてな。ペータの手品でちょいちょいっと直らんかなーと思ってな」
「そっちか」
マッサンは俺が魔法使いであることを理解している数少ない人間の一人である。
口外せず秘密を守ると同時に、ちょくちょくこうして魔法の行使を求めてくる、合理的思考の持ち主だったりする。
呼び出されて出向いてみると、見事にハウスが潰れていた。
マッサンが「俺のハウス」と呼ぶ、マッサン専用のハウスだけが。
マッサンの両親が作っているブドウのハウスは壊れずに立っている。
マッサンのハウスが親のハウスに比べて耐久性が弱かったのだ。
農業用ハウスもお値段でピンキリなのである。
風水害で痛い目に遭いたくなかったら、お金を惜しまずに高くても丈夫なハウスを建てて、農業共済で保険に入っておくべきだが、マッサンはそこをケチっているので、こうして痛い目に遭っている。
安物買いの銭失いとはこのことか。
「補修資材は?」
「こっちにあるが、なるべく節約して使ってくれ」
マッサンのブドウ栽培ハウスは一般的な農業用ハウスと異なり、地元の木材を利用した木造の骨格である。
自然素材なので、鉄やアルミに比べたら強度が低い代わりに魔法の通りがよく、俺にとっては扱いやすい。
どれどれ、まずは折れた柱の復旧からだな。
柱に手を当てて念じる。
「『変成結合、樹木よ、再び一つになれ』、変成魔法、発動」
俺の手から魔力が木材に流れ込み、べしゃっと潰れていたハウスが空気を吹き込まれた風船のように立ち上がる。
ちぎれた繊維がミシミシ音を立てながら結合し、折れた柱がくっついていく。
なんということでしょう、匠の技で、折れていた柱は新品同様に。
骨格が直ったら、次は外側だ。
破れた被覆材は補修資材を使って穴をふさぐ。
魔法無しでやろうとしたら二人でも丸一日かかる大仕事だが、魔法でなら一時間とかからない。
「『物体浮遊、ビニールハウス用外張りビニール、浮き上がれ』、浮遊魔法、発動」
補修資材がハウスの屋根までひとりでに浮き上がっていく。
実際には俺が浮かせているわけだが、重さはあまり感じない。
ぶっちゃけ手で持ち上げるのより楽。
魔法の細かい操作で農ビ(農業用ビニール)を広げ、適切な位置に誘導。
「『物体圧着、くっつけ』」
呪文詠唱も面倒くさくなって、適当に省略。
農ビは勝手にぺたりとくっついてくれる。
魔法で圧着すると半永久的に剝がれなくなる。
まあ物が安い農ビだから、1~2年で劣化するんだけど。
「おー、相変わらず器用なもんだなー。ついでに折れた木も繋いじゃってくれる?」
「いいだろう、やってやる」
ぽっきり折れてるブドウの木を骨折の手当てをするような感覚で繋ぎ直し、折れ口を結合させる。
「『圧着』」
まだ生きてる植物だから、魔法でくっつけとけば何事もなかったかのように復活するだろう。
念のため結合部位に『圧着』をかけて、出来上がり。
折れた枝の数が多くて少々時間がかかったが、昼前に終了した。
「終わった。めっちゃ疲れた。喉乾いた。もう限界」
本当は大して疲れていないが、疲れたと言っておく。
肩とか首とかもぐるぐる回して疲労感をアピールしておく。
いくらでも使い放題だと思われたら、魔法の有難みがないからな。
「お疲れさん。飯食っていくか?」
「食う」
マッサンのお母さんの手作り料理でもてなされた。
息子にキラキラネームを付けたポエマーなおばさんだが、料理は上手い。
マッサンからバイト代をせしめ、昼食をごちそうになった上に、帰り際にはお土産としてシャインマスカットとピオーネを大きな箱いっぱいにもらった。
これで当分デザートに困らない。
食べきれない分は実家におすそ分けだな。
バイト代でもらった一万円、何に遣うか少し考えてみる。
服は通勤しないからあんまり要らない。
食品もコメと野菜は自家製のがある。
肉魚は買わなくてはならないが、せっかくの臨時収入を食い物だけで消費するというのも味気ない。
とするとやっぱり趣味の品か。
※
実家にブドウを持って行ったら、誰もいなかったので冷蔵庫に入れておいた。
まだ店を畳まずに頑張っているローカルな書店に入り、漫画を物色していると、
「あら俊ちゃん、偶然ね」
ポン。
背後から肩を叩かれた。
弾けるように振り向き、警戒態勢を取る。
そこにいたのは俺がこの世界で最も苦手とする生物。
看護師として総師長の座まで上り詰めた女。
60歳で退職金がっぽり、退職後は悠々自適の生活を送っている女。
「母さん……」
「ちょうどいいところで出会ったわ。あんたこれ行ってみたら?」
チラシのようなものを押し付けてくる。
見ると、自治体主催の婚活イベントではないか。
田舎の自治体はこうやって若者同士を無理やり結婚させようとしてくるから困る。
「こういうのはちょっと……体質的に難しいというか」
「油断してるとあっという間に年を取って寂しい老後を迎えることになるわよ。若さがあるうちに勝負しないと」
「若さがあっても金がないから無理」
「そんな弱気でどうするのよ。あんた顔は悪くないんだから、強気で行きなさい」
強気で生きてきた勝ち組がなんか言ってる。
悪いけど俺は前世の記憶に目覚めた園児の時から人生諦めてる、筋金入りの負け組なんだよ。
そんな負け組の俺がこの母親に口で勝てるわけがない。
「なんなら自分で相手を見つけてもいいのよ?」
できるわけねーだろ。
サッと目をそらす俺。
前世が魔法使いで、今も魔法を使えるという秘密があって、体質にも問題があって、心に色々抱えてて、半農業半ニートで、低所得で、高卒で、プライドだけは高くて、人付き合いが苦手で、愛想もなく面白いことも言えない男が彼女とか作れるわけねーだろ。
結局、自治体の街コンを始めとした複数の婚活イベント情報を押し付けられ、どれでもいいから出なさい、なんなら全部出なさい、と命じられた。
絶対に出ない、と心に誓いながら、俺は形だけ頷いた。
あ、ブドウのことを伝えておかねば。
「マッサンからブドウもらったから、おすそ分けで冷蔵庫に入れといた」
「あら、ありがとう。青井くんはどうなの? 結婚の話はないの?」
「ない」
あいつもまだ彼女がいない……はず。
少なくともその手の話は聞いたことがない。
「じゃあ青井くんも誘って、それ二人で参加しなさいよ」
「わかった」
絶対に誘わない、と心に誓いながら、俺はその場を立ち去った。
※
マッサンから自治体主催の街コンについて連絡が来たのは三日後のことだった。
俺は誓いを守って誘わなかったのに。
「なぜおまえがそれを知っている!」
「母親同士の連絡網だよ」
マッサンのお母さんと俺の母親とはかつては気の合うママ友、今でも趣味のサークルに共に参加し、連絡を取り合う仲なのだ。
「外堀を埋めにきたか……。我が母ながら策士だな」
「いや俺も『まだ早いだろ』って言ったんだけどな? 『成婚しなくてもいいから場慣れしとけ』って言われてさ。『民間の結婚相談所に登録することを思えば格安』って言われたら、それもそうかと思って」
節約好きという性格上の弱点を突かれたか。
自治体主催の婚活イベントは確かに民間に比べて費用の負担が少ない。
だがな、マッサン、それは狡猾な罠だ。
「自治体主催と銘打っていても、実際には民間業者と結託した陰謀だぞ。婚活イベントが安上がりなのは女だけだ。男は女の数倍から十数倍の料金を払わされるんだ。場所は居酒屋、女は食うだけ食って去っていく。内気な男は高い金払わされて、ろくに会話もできずに食い逃げされる。それが街コンの実態だ」
「おまえ参加したことないのに悪口だけはスラスラ出てくるのな」
おう、参加したことなど一度もないわ、それがどうした。
「搾取されるだけと知っていて、わざわざタカられに行く必要がどこにある?」
「でもさあ、いっぺんくらい行ってみたくない?」
「何のために」
「結婚とかさあ、してみたくない?」
「希望する以前に、できるわけがなかろうが!」
農家だぞ!
モテないんだぞ!
「でもさあ、夢見るくらいは許されるっていうか」
「しっかりしろ、マッサン、幻覚を見るな、現実を見ろ」
「現実的に考えて、俺らが余っているということは、余っている女もいるということで」
「その計算は前提が間違っているぞ。男女の人数は同じではない。女の子100人に対して男の子は105人生まれてくると言われている。つまり最初から男が多い。百組のカップルが成立したら、5人の男があぶれるんだ」
俺たちはその5人の中に入っている。
それが正しい計算だ。
「でも女が再婚すれば」
「男だって再婚するだろうが!」
離婚するカップルもいるだろうが、それで女があぶれた5人に回ってくるわけではない。
女だってどうせ再婚するなら高収入で見た目も性格もいい男と結婚したいだろう。
モテない男は永遠にモテず、モテる男が何回も結婚する。
世の中そういうものなのだ。
「でもさあ」
「まだいうか」
「確率は低くてもさあ、宝くじだって買わなきゃ当たらないわけじゃん?」
「宝くじなら十枚買えば必ず末等が当たるけど、婚活には末等もダブルチャンスもないんだよ!」
「……しぶといな」
「そっちもな」
んじゃ言うけどさ……とマッサンの声が低くなった時、嫌な予感がした。
別の角度から斬り込んでくる気がする。
俺が絶対勝てないような、必殺の攻撃をしてくる気がする。
「ペータんちのおばさんに『何が何でもうちのバカ息子を引っ張り出して』って頼まれた。『このまま家と田んぼの往復で年取ったら、いずれ社会から孤立して孤独死だわ』って」
……孤独死。
「将来的に孤独死しない自信、ある?」
「……ない」
「よほど酷い人間じゃなければ、どんな女でも一緒に住んでりゃいざという時に救急車くらい呼んでくれるだろ?」
「……そうだな」
「そういう意味でのセーフティネットっていうかさ、保険って必要だよな?」
「まあ、そうだな」
「物好きな女もいるかもしれないんだし、孤独死しないための保険をダメ元で探しにいくってことで、とりあえず参加二名で申し込んでおくからな」
「……わかった」
「バックレんなよ。絶対だぞ。ペータがいないと俺だけ名前でからかわれるんだからな」
通話終了した。
頭の中が真っ白で何も考えられない。
俺が街コンに……?
「何を着ていけばいいんだ……?」
就活しなかったからスーツなんかない。
大学行かなかったからカジュアルファッションでおしゃれな物もない。
クローゼットにあるのはオールシーズン用の礼服と、Tシャツとジーンズ、作業着……。
婚活に着て行けるような服が一着もない。
俺は真っ白に燃え尽きた灰のようにうつろな眼差しで天井を見上げるのだった。




