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市街地に入ると、スピード制限があるのだろう。飛行速度は緩やかになった。
(生きてるって素晴らしい……)
高台から手を振ってくる子供たちに、マリアと裕翔が手を振り返す。宏一もつられて笑顔で手を振った。
眼下には、マリアが「懐かしい」と言ってよく見ている異世界転生アニメのような街並みが広がっていた。
マリアは宏一が契約しているサブスク目当てに、夕飯を食べたあとも部屋へ帰らずテレビを占拠する。
最近は配達の仕事で汗をかくからと風呂に入ってから、無防備な部屋着姿で宏一の家へ来ることも多い。
毎日のように理性を試されている。
「そろそろ着きますよ」
「おー」
この世界には貴族階級と労働者階級で、はっきりと身分差があるらしい。
やがて、いかにも貴族の高級住宅街といった一角へ入る。
その中でもひときわ大きな屋敷が見えた。
「あれが我が家、ヴェッダーニア邸です。といっても今は叔父が爵位を継いでいるので、僕は居候ですが」
そう、これから一か月ほど、宏一はヴェッダーニア邸で居候の居候をさせてもらう。
裕翔曰く、これまで可愛がれなかった分、これでもかと甘やかしてくれる優しい叔父夫婦が、ぜひにと言ってくれたらしい。
屋敷の前では、一家が出迎えてくれていた。
特に裕翔の叔父であるヴェッダーニア公爵は、縦にも横にも大きい。筋骨隆々の体躯に立派な髭を蓄え、一目で上流貴族と分かる風格があった。
その後ろには、控えめに立つ一家。
「父上、母上、兄様……」
マリアが、小さく、本当に小さな声で呟いた。
顔の真ん中に傷が走るマリアの父親はヴェッダーニア公爵ほどの体格ではない。
それでも、この場で一番強いのはあの人だと、一目で分かった。
「ただいま帰りました、叔父様、叔母様、アル、テオ!」
裕翔が嬉しそうに小竜の高度を下げる。
地面へ着地すると、小竜は賢そうに前脚を折りたたみ、香箱座りのような格好になった。
(竜って猫科なのか……?)
裕翔が軽やかに飛び降りる。
宏一も格好よく続こうとしたものの、運動不足の三十路の体は思うように動かず、えっちらおっちらと降りようとして、落ちた。
「いててっ」
いい年なのに人前で転び、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「わ、コーイチさん大丈夫?」
「おじちゃんコケたー」
「可哀想。痛い?」
大人たちは見て見ぬふりをしてくれたが、裕翔と子どもたちは優しさに容赦がない。
「大丈夫だ。ちょっと擦りむいただけ」
そう言って、手のひらを裕翔に見せたときだった。
「『回復』」
裕翔の魔法で手のひらが光り、目の前で傷ついた皮膚が端から中心へと向かうように修復されていく。
「凄いな」
「でしょ? 僕オールラウンダーだから基本全部の魔法が使えるんだ」
へへっと裕翔は得意げだ。
「それはすごい、努力したんだな、裕翔」
立ち上がり、服についたホコリを払う。
そして、何事もなかったように、ご挨拶に持ってきていた紙袋から羊羹を取り出し、深々と頭を下げた。
「はじめまして、橋本宏一です。この度は私の滞在を快く受け入れてくださり、ありがとうございます。しばらくの間、よろしくお願いいたします」




