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十年間、異世界の女騎士に片思いしている33歳医師、告白の瞬間に勇者帰宅。  作者: 有栖賀馬頭(TL名義は朱里雀)


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4

「二人とも頭を上げてくれ。そうだ、裕翔。今までの冒険譚をたっぷり聞かせてくれよ。道中でマリアの家族には会えたりしたのか?」


 その言葉に、マリアがはっと顔を上げた。

 裕翔はマリアへ向き直る。


「王城の戦勝祝賀会にマリアのご家族も招かれていたから、お会いしたよ。皆さん元気だった。お父さんに、マリアが僕を守り育ててくれた話をしたら、『誇りに思う』と仰っていた」

「……ありがとうございます」

 もう二度と会えないと思っていた家族の近況を聞き、マリアの瞳から涙がこぼれ落ちた。


「私こそ感謝している。あちらから私とともに転移してきたとき、お前は今の僕と変わらぬ年齢だった。そのことに気づいたとき、愕然としたよ。もっとずっと大人だと思っていたから。母を護ると誓った騎士だったお前は、本当なら母より先に死にたかったはずだ。それなのに私のせいで、随分遠くまで来させてしまった」


 そう言って、裕翔は静かに立ち上がる。


「マリアベル・リヴァイア。お前は騎士として、最後までその責務を全うした。これより先、お前はその務めから解かれる。残りの人生は己の幸福のために生きるように。これが我々親子の最後の命令である」

 マリアはしばらく動かなかった。

 畳へ涙がぽたり、ぽたりと落ちていく。


「…………ご下命、しかと承りました。剣をお返しいたします」


 顔を上げ、マリアは片膝をついて無理に微笑んだ。


 裕翔は決めたのだ。

 あちらの世界で生きることを。

 そして、地球にマリアを残すにあたり、その任を解いた。


 宏一にも、マリアにも、その覚悟は痛いほど伝わっていた。


「ありがとう、マリアベル」

 マリアは涙を拭い、小さく頷いた。

「私こそ、ありがとうございます。ユージーン様。あなたは私の誇りです」






「さてと、食べようか。あ、裕翔の好きなアイスも買ってあるぞ」

 泣いてしまったことにちょっと照れた様子のマリアが、限界を超えるほど食べさせるつもりだと宣言しながら、裕翔の皿に次々と料理を取り分けていく。


「ありがとう、いただきます。でも、アイスはさすがに無理だよ。それよりさ、マリアさんの休みは明後日でよかった?」

「いや、山本のお父さんが体を壊してしまわれてな……」


 マリアは近所の老夫婦が営む弁当屋で働いている。

 近隣では看板娘として知られており、マリアと少しでも話したいと通い詰める客がいるほどだ。


 だが最近、店主が転んで足を骨折し、女将さんも介護でつきっきりになっているため、店を開けられない日も増えていた。


 そのため麗しの女騎士の最近の収入源は、スキマバイトや自転車でのデリバリーが中心になっている。

 当然、登録手続きはマリアに代わって宏一が行った。


「そっか。おじさんもおばさんも僕をすごく可愛がってくれたから、お見舞いに行きたいな」

「明日にでも三人で行こう。きっとお父さんもお母さんも喜ぶ」

「そうだな」


 まだ裕翔が小学校低学年の頃は、弁当屋の奥で宿題をしたり、本を読んだりしながら、働くマリアを待っていたものだ。

 宏一もまた、研修医として朝から晩まで働き、へとへとになって迎えに行くと、

『廃棄を出したくないから食べていき』と、いつも店の中へ招き入れてくれた。


 今思えば、あの温かい食事は、宏一のためにわざと少し多めに作ってくれていたのかもしれない。


「ってことは、宏一さんもマリアさんも今、無職なの?」

 裕翔の言葉がぐさりと刺さり、宏一とマリアは同時に床へ手をついた。


「あ、ごめん。そういう意味じゃなくて、ちょうどいいと思って」

「ちょうどいい?」


 宏一が首を傾げると、裕翔はにっこりと笑った。


「うん。三人で行こう。こことは異なる世界――僕とマリアさんの故郷、レオラディアへ!!」


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