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「二人とも頭を上げてくれ。そうだ、裕翔。今までの冒険譚をたっぷり聞かせてくれよ。道中でマリアの家族には会えたりしたのか?」
その言葉に、マリアがはっと顔を上げた。
裕翔はマリアへ向き直る。
「王城の戦勝祝賀会にマリアのご家族も招かれていたから、お会いしたよ。皆さん元気だった。お父さんに、マリアが僕を守り育ててくれた話をしたら、『誇りに思う』と仰っていた」
「……ありがとうございます」
もう二度と会えないと思っていた家族の近況を聞き、マリアの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「私こそ感謝している。あちらから私とともに転移してきたとき、お前は今の僕と変わらぬ年齢だった。そのことに気づいたとき、愕然としたよ。もっとずっと大人だと思っていたから。母を護ると誓った騎士だったお前は、本当なら母より先に死にたかったはずだ。それなのに私のせいで、随分遠くまで来させてしまった」
そう言って、裕翔は静かに立ち上がる。
「マリアベル・リヴァイア。お前は騎士として、最後までその責務を全うした。これより先、お前はその務めから解かれる。残りの人生は己の幸福のために生きるように。これが我々親子の最後の命令である」
マリアはしばらく動かなかった。
畳へ涙がぽたり、ぽたりと落ちていく。
「…………ご下命、しかと承りました。剣をお返しいたします」
顔を上げ、マリアは片膝をついて無理に微笑んだ。
裕翔は決めたのだ。
あちらの世界で生きることを。
そして、地球にマリアを残すにあたり、その任を解いた。
宏一にも、マリアにも、その覚悟は痛いほど伝わっていた。
「ありがとう、マリアベル」
マリアは涙を拭い、小さく頷いた。
「私こそ、ありがとうございます。ユージーン様。あなたは私の誇りです」
「さてと、食べようか。あ、裕翔の好きなアイスも買ってあるぞ」
泣いてしまったことにちょっと照れた様子のマリアが、限界を超えるほど食べさせるつもりだと宣言しながら、裕翔の皿に次々と料理を取り分けていく。
「ありがとう、いただきます。でも、アイスはさすがに無理だよ。それよりさ、マリアさんの休みは明後日でよかった?」
「いや、山本のお父さんが体を壊してしまわれてな……」
マリアは近所の老夫婦が営む弁当屋で働いている。
近隣では看板娘として知られており、マリアと少しでも話したいと通い詰める客がいるほどだ。
だが最近、店主が転んで足を骨折し、女将さんも介護でつきっきりになっているため、店を開けられない日も増えていた。
そのため麗しの女騎士の最近の収入源は、スキマバイトや自転車でのデリバリーが中心になっている。
当然、登録手続きはマリアに代わって宏一が行った。
「そっか。おじさんもおばさんも僕をすごく可愛がってくれたから、お見舞いに行きたいな」
「明日にでも三人で行こう。きっとお父さんもお母さんも喜ぶ」
「そうだな」
まだ裕翔が小学校低学年の頃は、弁当屋の奥で宿題をしたり、本を読んだりしながら、働くマリアを待っていたものだ。
宏一もまた、研修医として朝から晩まで働き、へとへとになって迎えに行くと、
『廃棄を出したくないから食べていき』と、いつも店の中へ招き入れてくれた。
今思えば、あの温かい食事は、宏一のためにわざと少し多めに作ってくれていたのかもしれない。
「ってことは、宏一さんもマリアさんも今、無職なの?」
裕翔の言葉がぐさりと刺さり、宏一とマリアは同時に床へ手をついた。
「あ、ごめん。そういう意味じゃなくて、ちょうどいいと思って」
「ちょうどいい?」
宏一が首を傾げると、裕翔はにっこりと笑った。
「うん。三人で行こう。こことは異なる世界――僕とマリアさんの故郷、レオラディアへ!!」




