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料理をしてくれているマリアを待っている間、宏一と裕翔は二人で勝負をしていた。
てっきり以前から遊んできたRPGシリーズの最新作を選ぶと思っていた。
だが、裕翔が選んだのはパーティーゲームだった。
操作は簡単。
これならマリアでもできるだろう。
(気を遣わせたかな)
三人で遊べるゲームを選んだのは、ゲーム機を買ってくれたマリアと、ソフトを買う宏一への遠慮もあるのかもしれない。
ずっと会えなかったのだ。寂しかったのもあるだろう。
RPGは明日にでも近所の家電量販店で買ってやるか。
あと、服も買ってやらなければ。
今までの服では、つんつるてんになってしまうだろう。
男子三日会わずんば刮目して見よ、とは言うが、一年も会わなければ、刮目して見なくても成長したことはよく分かる。
財布の紐が緩みまくりそうな自覚はあった。
だが、こんな時くらい良いだろう。
裕翔が大きくなってから、こうして並んでゲームをすることは減っていた。
小学生の頃はよく格闘ゲームで遊んだものだ。
最初は下手だった裕翔も、どんどん上手くなった。
そして、いつの間にかハメ技ばかり使うようになって――。
「ご飯できたよー」
「はーい。わ、すごい!」
「さんきゅ。美味しそうだ」
マリアがちゃぶ台に料理を並べている。
マリアもまた、財布の紐がどこかへ飛んでいってしまっているようだった。
唐揚げだけではない。
手巻き寿司にハンバーグ、ポテト、とんかつ、パスタまで並んでいる。
その片隅には、元々宏一のために作ってくれていた肉じゃがも並んでいた。
「たんとお食べ」
マリアが裕翔を見つめる。
その表情は、いつもの凛々しい女騎士のものではなかった。
ただ、大切な子供の帰りを待っていた人の優しい顔だった。
「あ、待って。その前に」
裕翔が居住まいを正した。
ピンと背筋が伸びた綺麗な姿勢だ。
あちらの世界にはない体術を身につけようと、合気道まで習っていたからだ。
「松本宏一様。私と私の騎士がこの世界で平穏無事に過ごせ、闇の王を討ち滅ぼし、一族や家臣の敵を討てたのは、私を護り、雨風をしのげる場所だけでなく、技術に学びまでも与えてくださった貴方様のお陰です」
よせよ、照れる。
そう言おうとして、宏一は止めた。
裕翔の目が真剣だったからだ。
そしてマリアもまた、裕翔の意図を汲み、苦手な正座で裕翔の斜め後ろへ静かに座った。
その姿は、主君に付き従う騎士そのものだった。
「このユージーン・トバイアス・リ・ヴェッダーニア、一生かけても返しきれないほどのご恩をいただきました。心より感謝申し上げます」
裕翔とマリアが深々と頭を下げる。
宏一は困ったように頬を掻いた。
「俺が好きでやったことだ。恩返しなんて考えなくていい」
裕翔から返してもらうものなど何もない。
「俺がお前たちに与えたって言うけどさ、俺のほうが何倍も貰ってるんだ」
祖母を亡くし、一人きりになった家。
寂しいことにすら慣れきっていた宏一の前へ、突然現れた二人。
その日から、宏一の人生は大きく変わった。
裕翔の背丈を柱へ刻んだ日。
三人で鍋を囲み、肉を取り合って笑った夜。
三人で祭りへ出掛けた帰り道。
眠る裕翔を起こさぬよう、マリアが宏一の肩へ顔を埋め、故郷に残してきた家族を思って静かに涙を流した夜。
風邪が裕翔からマリアへ移り、最後は宏一まで寝込んだ冬。
どれも、宏一にとってはかけがえのない宝物だった。
「大丈夫だよ、裕翔。俺に何か返す義務なんてない。あっちで生きるにしても、こっちで生きるにしても、自分が幸せだと思える道を選べ。それが俺は一番嬉しい」
宏一は手を伸ばし、裕翔の頭を優しく撫でた。
去年、見送るときにもこうして撫でた。
今度こそ、本当に最後になるのかもしれない。
胸を締めつける寂しさを押し殺し、それでも笑みを浮かべる。
巣立ちを引き止めたいと思うのは、大人の身勝手だ。
ならばせめて、笑って送り出そう。




