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十年間、異世界の女騎士に片思いしている33歳医師、告白の瞬間に勇者帰宅。  作者: 有栖賀馬頭(TL名義は朱里雀)


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3

 料理をしてくれているマリアを待っている間、宏一と裕翔は二人で勝負をしていた。

 てっきり以前から遊んできたRPGシリーズの最新作を選ぶと思っていた。

 だが、裕翔が選んだのはパーティーゲームだった。

 操作は簡単。

 これならマリアでもできるだろう。


(気を遣わせたかな)


 三人で遊べるゲームを選んだのは、ゲーム機を買ってくれたマリアと、ソフトを買う宏一への遠慮もあるのかもしれない。

 ずっと会えなかったのだ。寂しかったのもあるだろう。

 RPGは明日にでも近所の家電量販店で買ってやるか。

 あと、服も買ってやらなければ。

 今までの服では、つんつるてんになってしまうだろう。


 男子三日会わずんば刮目して見よ、とは言うが、一年も会わなければ、刮目して見なくても成長したことはよく分かる。

 財布の紐が緩みまくりそうな自覚はあった。


 だが、こんな時くらい良いだろう。

 裕翔が大きくなってから、こうして並んでゲームをすることは減っていた。


 小学生の頃はよく格闘ゲームで遊んだものだ。

 最初は下手だった裕翔も、どんどん上手くなった。

 そして、いつの間にかハメ技ばかり使うようになって――。


「ご飯できたよー」

「はーい。わ、すごい!」

「さんきゅ。美味しそうだ」

 マリアがちゃぶ台に料理を並べている。

 マリアもまた、財布の紐がどこかへ飛んでいってしまっているようだった。

 唐揚げだけではない。

 手巻き寿司にハンバーグ、ポテト、とんかつ、パスタまで並んでいる。

 その片隅には、元々宏一のために作ってくれていた肉じゃがも並んでいた。


「たんとお食べ」


 マリアが裕翔を見つめる。

 その表情は、いつもの凛々しい女騎士のものではなかった。

 ただ、大切な子供の帰りを待っていた人の優しい顔だった。


「あ、待って。その前に」

 裕翔が居住まいを正した。

 ピンと背筋が伸びた綺麗な姿勢だ。

 あちらの世界にはない体術を身につけようと、合気道まで習っていたからだ。


「松本宏一様。私と私の騎士がこの世界で平穏無事に過ごせ、闇の王を討ち滅ぼし、一族や家臣の敵を討てたのは、私を護り、雨風をしのげる場所だけでなく、技術に学びまでも与えてくださった貴方様のお陰です」


 よせよ、照れる。

 そう言おうとして、宏一は止めた。


 裕翔の目が真剣だったからだ。

 そしてマリアもまた、裕翔の意図を汲み、苦手な正座で裕翔の斜め後ろへ静かに座った。


 その姿は、主君に付き従う騎士そのものだった。



「このユージーン・トバイアス・リ・ヴェッダーニア、一生かけても返しきれないほどのご恩をいただきました。心より感謝申し上げます」


 裕翔とマリアが深々と頭を下げる。

 宏一は困ったように頬を掻いた。


「俺が好きでやったことだ。恩返しなんて考えなくていい」


 裕翔から返してもらうものなど何もない。


「俺がお前たちに与えたって言うけどさ、俺のほうが何倍も貰ってるんだ」

 祖母を亡くし、一人きりになった家。


 寂しいことにすら慣れきっていた宏一の前へ、突然現れた二人。


 その日から、宏一の人生は大きく変わった。

 裕翔の背丈を柱へ刻んだ日。

 三人で鍋を囲み、肉を取り合って笑った夜。

 三人で祭りへ出掛けた帰り道。

 眠る裕翔を起こさぬよう、マリアが宏一の肩へ顔を埋め、故郷に残してきた家族を思って静かに涙を流した夜。

 風邪が裕翔からマリアへ移り、最後は宏一まで寝込んだ冬。


 どれも、宏一にとってはかけがえのない宝物だった。


「大丈夫だよ、裕翔。俺に何か返す義務なんてない。あっちで生きるにしても、こっちで生きるにしても、自分が幸せだと思える道を選べ。それが俺は一番嬉しい」


 宏一は手を伸ばし、裕翔の頭を優しく撫でた。

 去年、見送るときにもこうして撫でた。

 今度こそ、本当に最後になるのかもしれない。

 胸を締めつける寂しさを押し殺し、それでも笑みを浮かべる。


 巣立ちを引き止めたいと思うのは、大人の身勝手だ。


 ならばせめて、笑って送り出そう。


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