異世界で格好良く魔法を使いたい人生でした
橋本宏一、33歳。
異世界の子供たちに交じって、……歌って踊っています。
「「「めーがみさーま、ありがとう♫」」」
「ありがとう」
隣の子をチラチラカンニングしながら、歌に合わせて手を高く伸ばす。
「「「今日の恵みにかーんしゃ♪」」」
「感謝」
キラキラと手首をフリフリ動かし、元気よくその場でスキップ一回転すると、ようやく曲が終わった。
しかし、息はつけない。
もう一曲あるらしい。
内容だけ見れば、小学校低学年の子どもたちが運動会で踊るダンスのようなものだ。
だが、全く運動していないアラサーの体にはなかなかキツイ。
精神的にも。
「おじさん、失敗しても大丈夫だから元気よくね」
「僕らが一生懸命歌うから、おじさんは歌ったふりだけでもいいよ」
子どもたちがこそっと親切にアドバイスをくれる。
晴れの日の一点のシミであるおじさんに、なんて優しい子たちなのだろうか。
恐らく、裕翔が地球にやって来た頃と、そう変わらない年齢だろう。
宏一は今、十字架とは形の違う女神の証が飾られた荘厳な教会で、子どもたちと並んで一段高くなった舞台に立っていた。
この後に行われるのは、子どもたちの魔力適性を確認する大切な儀式だ。
この世界では、一定の年齢になると教会で魔力適性を測る。
ただ力の適性を調べるだけではない。
家族や恩師、村や町の人々が見守る中、子どもたちは女神への感謝を歌に込め、これからの成長を誓う。
この世界における、大切な成長の節目を祝う儀式なのだ。
日本で言えば、入学式や七五三、発表会を合わせたようなものだろう。
……ただし、そこにアラサーおじさんが混ざる予定は、本来なかったはずである。
ステンドグラスから差し込む光が背中に刺さる。
子どもたちの心配そうな視線も刺さる。
そして、保護者たちの「なぜあそこに大人が?」という困惑した視線も刺さる。
「ありがとう。おじちゃん、がんばるな」
ジャン、ジョーーーーーン、シャン!
ピアノのような楽器に合わせ、子どもたちと一緒にペコリと頭を下げる。
そしてすぐ、伴奏が始まり、また踊り出す。
長椅子で観覧しているマリアが、笑ってはいけないけれど笑ってしまいそうになるのを必死に堪えている。
その横で裕翔が爆笑していた。
(あとで覚えとけよ……)
事の発端はこうだ。
一昨日の夕食会で、宏一とマリアの父親は、それはそれは仲良く見えるように互いに努力して振る舞った。
その時に、折角この世界に来たのだから何かしたいことはあるか、という話題になったのだ。
そこで宏一は、魔法を使えるようになりたいと言ってしまった。
そう、言ってしまった結果がこれだった。
魔力適性の儀式は、普通なら簡単に部外者が参加できるものではない。
だが、娘が世話になった恩人なのだから、とマリアの父親がコネのある教会へ話を通してくれたらしい。
マリアはてっきり魔力を測るときのみ参加するのだと思っていたらしいが、蓋を開けてみればこれで、なぜか子どもたちと最初から儀式に参加することになったのである。
親から見れば、子どもの大切な発表会に、見知らぬおじさんが一人混ざっているようなものだ。
マリアと二人、泣きながらビデオを構えた裕翔の音楽会を思い出すと、誠に申し訳ない。
嫌がらせだ。
完全に嫌がらせだ。
マリアの父親はもっと堂々と嫌がらせをするタイプだと思っていたが、意外と回りくどい。
(くそ……でも、負けない)
肝心の本人は仕事で不在で、なぜかマリアの母親と兄は来ている。
宏一は以前、入院している子どもたちのための病院のお楽しみ会で、やる気のない若い職員に対し、
『誰のための会なのか考えろ。分からないなら出なくていい!』
と叱り飛ばしたことがある。
今度は自分の番だ。
(そうだ。子どもたちは、この日のために頑張ってきたんだ)
自分が恥ずかしいからといって、適当にやるわけにはいかない。
決してスカさない。
それでいて、子どもたちより目立たないように。
(やってやるさ!)
少しだけ格好いいポーズを決めながら、宏一は音楽に合わせて体を揺らしたのだった。




