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十年間、異世界の女騎士に片思いしている33歳医師、告白の瞬間に勇者帰宅。  作者: 有栖賀馬頭(TL名義は朱里雀)


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5


 マリアの肩が震えている。

 無理して話さなくていいとは言わなかった。


「別荘へ遊びに行ったあの日も、私は撒かれて、近隣の村を散々探し回った。結局、先に帰ったのだと思って別荘へ戻ったんだ。一目見て、おかしかったよ。いつもは笑い声が響いている別荘が、しんと静かで、それでも中に誰かいると分かった」

「私は窓から密かに別荘へ入り込んだ。中では先輩方が血を流して倒れていた。ユートの父親もまた、最期まで護ろうとしたんだろうな。立ったまま死んでいたよ。凄惨だった」

「うん」

 宏一は救急医だ。悲惨な事故で亡くなった人や、大怪我を負った人を嫌になるほど見てきた。

 だが、親しい人のそんな姿は見たことがない。


「苦しかったな」

「……あのときは死んだと判断したが、助けようと思えば助けられた人もいたかもしれない。だが、私は無視した。そして、夢中でクリスティーナ様をいたぶる魔族、魔眼のアルベルトの後ろへ忍び寄り、首を斬った。そして、ユートを捕まえていた下っ端どもも残らず斬り殺した。騎士としてあるまじき卑怯な行為だ。だが、そうしなければ勝てなかった」


 だから苦しむ権利などないと言いたいのだろう。

 馬鹿なことを。


 マリアと裕翔が地球へ来たばかりの頃、裕翔は夜驚症になっていた。

 寝不足で目の下に隈を作りながら裕翔を抱きしめるマリアもまた、精神的にかなり参っていた。

 打つ手はほとんどなく、何もしてやれなかった苦い思い出だ。


「子供の前で母親をいたぶるような奴相手に、卑怯も何もない。そこは欠片も気にしなくていい」

「うん」

「元々、クリスティーナ様はご夫君と密かに計画していたらしい。息子を勇者にしない方法を」


 それが異世界転移だった。

 息子を危険な運命から守るために、この世界を見捨てる計画。

 だが結局、裕翔は敵を討つため、この世界へ帰ってきた。


「魔眼のアルベルトは、首を斬られて塵になっていくときに言ったんだ。『後軍が来る。今に我ら魔族が勇者を殺す』と。それで、クリスティーナ様は私に命じられた。異世界で息子を絶対に護れ、と。そして最期の力を振り絞り、私たちを転移させた」

「うん」

「私は護れなかった。護らなきゃいけなかった人を……護れなかった!」


 叫ぶような悲鳴だった。

 マリアは堰を切ったように宏一の肩へ顔を埋めて泣き始めた。

 瞼からこぼれた涙が服を濡らしていく。

 宏一は背中へ手を回し、静かに撫でた。


 愛している。


 彼女を傷つけるすべてから護りたかったはずなのに。


「大丈夫だ。大丈夫だ、マリア。大丈夫」


 泣きじゃくるマリアを、ただ抱きしめることしかできなかった。


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