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夜、なかなか寝付けず、宏一は美術館のように立派な庭のベンチで、ぼーっと空を見上げていた。
星の位置が、日本とはまるで違う。
「コーイチ」
後ろからマリアに声をかけられ、宏一は立ち上がって頭を下げた。
「マリア、さっきはお父上に失礼な態度を取ってすまなかった」
マリアの一家は今夜、ヴェッダーニア邸に泊まり、明日、近くにあるリヴァイア邸へ戻るらしい。
マリアが帰ってくるにあたり、この世界で着ていた服を実家から持ってきていたのだろう。リボンのついた花柄のワンピースが、彼女を少し幼く見せていた。
「嬉しかったよ。私を守ろうとしてくれて」
マリアはベンチに腰掛け、トントンと隣を叩いた。
「父上は、ほら、昔テレビの再放送で見た何だったっけか、なんちゃら侍のような人だからな。ああいう人なんだ。仕方ない。分かっていたことだ。それより、夕食の席で父上とコーイチが、子どもたちの前で何とか和やかに過ごそうとしていた姿は、結構面白かったぞ」
マリアの父親も宏一も大人だ。そしてマリアもまた大人で、先程までとても楽しそうに振る舞っていた。
そして、それは今もだ。
「今、見ているのは俺だけだ。だから……傷ついているなら、傷ついていると教えてくれ」
隣に腰掛け、じっと見つめると、澄んだ藍色の瞳が細まり、マリアが小さく微笑んだ。
「コーイチはそうやってすぐ、私を甘やかす。……あのな、父上は間違っていない。私はしくじった」
「うん」
否定はしなかった。
マリアが失敗したと言うのならば、宏一がどう慰めたところで、マリアの中の事実は揺らがない。
「ユートの母親、予言の乙女クリスティーナ様は、それはそれはお転婆な方でな。そして、とてもお強かった。士官学校を卒業したばかりの私が護衛に配属されたのは、端くれとはいえ貴族の出で、女だからという、それだけの理由だ。つまり、ほとんど飾りのようなものだった」
「うん」
クリスティーナはヴェッダーニア公爵の兄の妻だったと、異世界旅行にあたり人間関係を教えてもらってきた。だが、人となりを聞くのは初めてだ。
「あの一家にはしょっちゅう撒かれたよ。右を見て左を見たら、もういないんだ。ユートの護衛の先輩方には『一家が自分から出てくる前に見つけられたら一人前だ』なんて笑われたものだ。今思うと、後に勇者となる運命のユートを、できる限り普通の子供として育てたかったんだろうな」
「叶えられて良かったな」
地球にいる間は、勇者ではなく、裕翔を一人の子供として接していた。
「あの日も、そうだった」




