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「おい、あんたっ!!!」
腸が煮えくり返るあまり、咄嗟に言葉が出てこず、二の句が継げない。
思わずマリアを引き寄せようと手を伸ばしたが、マリアは一歩下がって、それを避けた。
「いいんだ、コーイチ。父上のおっしゃることは、ごもっともだ」
「そんなわけあるか! マリアがどれほど、どれほどっ!」
マリアが護るはずだった裕翔の母親は、死の間際、マリアと裕翔を地球へ飛ばした。
裕翔の母親が魔族に害されたり、人質にされたりしないよう護る。それが本来のマリアの任務だったにも関わらず。
そうだ、マリアは任務に失敗した。
宏一の家へ転移してきたマリアは、無傷の裕翔とは対照的に、全身血まみれで傷だらけだった。
それでも、剣を構え、強い意志を宿した瞳で前を見据えていた。
そして、帰る術もない異世界で、たった一人、裕翔を育て続けた。
どうして責められる。
「コーイチ殿、どうか落ち着かれよ。リヴァイア家は誇り高き騎士の家系。護るべき者を護れなかった以上、大手を振って歓迎できぬのは、仕方なきこと」
諭してきたヴェッダーニア公爵を、怒鳴り返しかけて踏みとどまる。
マリアが、小さく肩を震わせていたからだ。
それに、周りが見えなくなるほど若くもない。
それでも悔しくて、拳を強く握り締めた。
「大声を出してしまい、申し訳ありません。ですが――」
宏一はマリアの父を真っ直ぐ見据えた。
「マリア……いえ、お嬢さんは、地球で立派に裕翔を養い、育て、教え導きました。そのうえ、私へのささやかな恩返しだと言って、生活が楽ではない中、毎日温かい食事を作ってくれていました」
一度だけ深く息を吸う。
礼儀だけは崩すまいと努めながらも、怒りで拳は震えていた。
「私は、お嬢さんほど素晴らしい女性をほかに知りません」
しばしの沈黙。
やがて、マリアの父は静かに口を開いた。
「……娘は赦されぬ失敗をした。それでも、そちらの世界で少しでも役に立てたのならば、何よりだ」
マリアの父は静かに涙を流していた。
娘が帰ってきて嬉しくないわけではないのだ。
それでも、抱き締めようとはしない。
宏一には、その価値観だけは理解できなかった。
異世界に来たのだと、宏一は改めて強く感じた。




