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35歳の俺が上司ざまぁしたり、大人って案外楽しいぞと気づいたりする話  作者: VANRI


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敗者の資格

「お前の言う通りだよ」

しばらく様子を伺っていたが、真田の肩に手を置き話しかける。


「あ?」

真田は眉間に皺を寄せ、俺の目を睨みつける。


「俺は、もっと悔しがるような関わりをするべきだったんだ。こんなんじゃ、こいつらとチームとは言えないよな……」


 温度差を感じてた。終わった瞬間にそれは更に強くなった。

 それは、このプレゼンに懸ける思いだったんだろう。どこか、高みの見物のような気持ちがなかったとは言い切れない。


 気持ちを切り替え、真田の肩に両手を置いて、渡瀬たち三人の方を向かせる。


「こいつはさ、口下手なんだよ、昔から。

本当はこう言ってやりたいんだ、

『よく頑張ってたな、その努力は無駄になってない。

次は契約とれるだろう』ってね」


「ふっ……ざけんなよっ!! 俺はそんなこと一言も……!!」

真田が赤面し慌てふためいて、俺の手を振り払おうとする。

 だが、逃さないよう、肩に置いた手に更に力を入れる。


「じゃねえと、わざわざ発破かけに来ねえよ〜」

なあ?と、真田に笑いかけると、無理矢理手を振り払い、舌打ちしながら荒い歩調で去って行った。


 真田と一緒にいた同僚がぽかんとそれを見ている。


「あ、君たち大丈夫? あいつ口悪ぃからさ〜。

パワハラに困ってんなら、俺が代わりに訴えてやろうか〜?」

フザケた口調で話しかけると、男性社員が大きく首を横に振った。


「と、とんでもありません!! 

 社内で真田部長ほど仕事出来る人はいませんし、今のような口振りも初めて聞きました!

 さっきも、皆さんが出た後に残って、この会社の方々に、次は自分たちの所に任せて下さいって何度も頭を下げてくれていましたし……」


 横にいた女性社員もそれに続ける。

「『失敗は自分に、成功は部下に』が口癖のような方なので……。今回の事も、全部自分の責任だから気にするなって言ってくれました。

 さっきのような部長を見て、よほどあなた方と仲がいいんだと思いました。本当に羨ましいです……」


 女性社員は照れながら視線を落とす。

カバンを持っている手に力が入っている。


「へー……ちゃんと慕われてるんだ」

意外。猫被ってるだけかな。

だが、転職先で上手くやってるようで、少しホッとする。

 というか、いつの間にか部長になってたとは。

流石、仕事出来るやつは何処に行っても出来るんだろう。その器用さに嫉妬してしまう。


 二人は会釈しながら、足早に真田を追いかけて行った。



「なんか……凄い人でしたね……」

優愛ちゃんが、呆気にとられた様子で、まだ真田たちの後ろ姿を見ている。



「成瀬!」


 背後から女性の声がした。俺が振り返るより先に、渡瀬が感嘆の声を漏らす。


「あさひ……」


 先程と同じで、背筋をピンと伸ばし近付いてくる。急ぎ足で来ているので、ヒールの高い音が小刻みに聞こえ、心地よく感じた。


 目の前で立ち止まると笑顔で見上げてきた。

「いや〜! どこも良かったんだけどさ!

結局話し合いであの会社に決まっちゃったよ!」

と、陽気に笑ってみせる。

 そこには最初に見た、美人オーラを纏った女性ではなく、気さくで親しみやすい、俺が知っているあさひが立っていた。


「お前……喋らなかったら抜群の美人なのに……」

思わず本音をこぼしてしまう。


「アハハ……! 何だそれ! 

 まさか惚れ直しちゃった〜?」

あさひが益々笑顔になり、肘で俺をつついてくる。


「な、成瀬さん……知り合いだったんです……か?」

呆然とした渡瀬の顔で、この三人の存在を思い出す。


 藤田がハッとした顔をして口を開く。

「まさか……成瀬さんが言ってた彼女って、この人……?」


「違う違う違う!!」


 思わず慌てて否定する。

ただでさえ、男もイケると変な噂が出回りそうなのに、彼女も別人になってしまったらもう俺の要素がなくなってしまう。

 それに、佐伯さんに変な誤解をされたくない。


「と、友達みたいな……」

あさひに目をやりながら、確かめるような言い方をする。

 名字が同じである以上、「彼女の妹」なんて言ってしまったら必然的にバレてしまう。幸いこの三人は、「佐伯」という名字に引っ掛かってはいないようだ。


「友達かな〜? それ以上の関係だと思うんだけどなぁ〜?」

あさひがわざとらしく首を傾げ、意味深な言い方をしてくる。


「お前……マジでややこしくなるから、頼むからちょっと黙ってて……」


 すると、あさひがピンと背筋を伸ばし、藤田たち三人の前に立つ。そして、深々と頭を下げた。


「本日は、お忙しい中、お集まり頂き本当にありがとうございました。」


 唖然としている三人に頭を上げ、また続ける。


「素晴らしいプレゼンテーションを見せて頂き、とても勉強になりました。時間をかけて作ってくださったのが伝わるものでした。

 いつかまた、機会がありましたらよろしくお願いします」


 ニッコリ微笑むあさひに、三人は動揺しながら頭を下げている。あさひは満足したような笑顔で俺を見上げる。


「おい、俺には?」

意地悪そうに言うと、あさひはハハッと笑う。


「お前にはいいんだよ、()()だからな!

 じゃあな! またプライベートでな!」


 そう言い残し、ヒールの足で足取り軽く駆けていった。

 もうその後の三人からの質問攻めといったら……

本当のことが言えないので、のらりくらり質問をかわしながら会社へ戻った。






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