プレゼンと再会と
「あさひ!?」
……と、心の中ではこれ以上ない大きな声で叫んだが、勿論、現実世界では声に出せない。
心にかかったもやが一瞬で消える。
化粧で変わりすぎだろ、マジで。
そもそも、会った時に仕事内容も聞いてなかったしな。
というか、向こうが俺に気付いてるかも怪しいところだ。
その後、プレゼン開始となった。藤田メインの説明で、ポイントはちゃんと伝えることが出来ており、まずまずだと思った。悪くはない。
続いて安田、真田の会社だったが、二人は俺と同じで共に壇上には上がらなかった。
真田の会社は、真田が口出ししたのだろう、完璧な仕上がりだった。非の打ちどころもない。
安田の所は、内容から安田もメインで作ったのだとわかった。これも、わかりやすく伝わりやすい内容だった。
全てのプレゼンが終わった後、主催側でどこの会社に決めるかの話し合いが行われた。その間、30分程度待たされた。
その後、あさひが他の社員を引き連れ会議室へ戻って来た。そして、淡々と今回の結果、安田の会社と契約すること、そしてその理由が告げられた。
安田の周りは、わっと歓声が上がり自分たちへ拍手を送っていた。勿論、俺や真田のところも軽い拍手を送り称賛する雰囲気を醸し出す。
藤田たち三人がわかりやすく肩を落としているのを見て、胸が締め付けられる。
安田の会社が盛り上がっているのを生気のない目で見ている渡瀬は、初めて味わう挫折からちゃんと立ち直れるのだろうかと心配になる。
頑張ったからこれを味わっている、味わえているのだが、……そうだよな、辛いよな。
真田のところを見ると、拍手をおくりながらも何やら会話しているのが見えた。拍手の音が大きくて何を話しているかはわからないが、口が動いているのが見える。反省会をしているのか、励ましているのか……
会議室から出ると、後を追って安田が手を振りながら小走りでやって来た。
「成瀬さーん、藤田〜」
「久しぶりだよな〜、元気してたか?」
笑顔の安田に声を掛ける。ふと見ると、藤田の表情は硬いままだ。
安田は眩しい笑顔のまま会話を続ける。
「今回、成瀬さん手ぇ出してないでしょ〜?」
「え? わかるか?」
「そりゃ、わかりますよ〜。俺が何年、成瀬さんの仕事見てきたと思ってるんですか〜……ハハッ。
成瀬さんが本気出してたら、俺じゃ太刀打ち出来なかったかもしれないですけどね〜」
「いやいや、今回のは良く出来てたよ。
俺がやってても勝ってないさ」
安田は同じ会社の奴に遠くから呼ばれているようだった。
「あ、すみません、俺もう行かないと……
じゃあな藤田! またな!」
走っていく後ろ姿さえ輝いて見える。勝者の余裕というか……
いや、勿論わかってる。安田に悪気はないということは。
渡瀬と優愛ちゃんも重い雰囲気を背負っている。
「今日、ちょっと飯でも食いに……」
その時、やっと真田とその会社の人間が会議室から出て来た。
カツカツと革靴を鳴らして近寄って来るので、その音がまるでカウントダウンのように思えた。
真田の会社の人間も、それを追ってこちらにやって来る。
「よお、成瀬」
背筋を伸ばした、堂々とした態度は変わらずで、俺は会えて嬉しいのだが、俺の気持ちとは打って変わって真田の表情は険しい。
「まあ、みんな奮闘したんだけどな……」
苦笑を浮かべ真田に目を向ける。
「何だそれ。負け犬同士で傷を舐め合うつもりか?」
その一言で、その一帯が瞬時にピリつく。
真田はそんなことお構いなしに続ける。
「お前の実力が良くわかったよ」
意地悪そうな表情を浮かべる。
「今回は俺はあまり口出ししなかったけど……」
「だから? 澄ました顔してんじゃねーよ」
ぐっと顔を近付けられる。
「お前がどんだけ口出ししようがしまいが関係ねえんだよ! 負けたんだからちゃんと悔しがれよ!
やっぱりお前はクソな上司だな!!」
「何なんだあんた!! 成瀬さんに向かって!!」
それに反応したのは渡瀬だった。顔を真っ赤にして真田の前に行こうとする。それを、咄嗟に藤田が腕を伸ばし制止している。
真田の部下らしい男女は、どうしたらいいかわからず、俺たちを交互に見てオロオロしている。
その光景を見て懐かしくなってしまった。
もう一年以上前になる。
俺が初めて真田にあった時だ。真田が、高橋に対して暴言を吐いた時、俺も同じように真田に言い返そうとした。それを高橋が制止してくれていた。
それを、今は藤田がやっている。そこまで成長したことに対し、胸がじんと熱くなる。
かっけーな、俺より成長早ぇじゃねえか。
「あ? 何だ新人か?」
真田が今度は渡瀬に近付いて行く。藤田は腕の力を込め、渡瀬に「動くな」と指示を出している。
そして、渡瀬に俺の方を見るよう、目配せしているのがわかった。




