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35歳の俺が上司ざまぁするまでの物語  作者: VANRI


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会話

「君は、死んだ新人の代わりにしてると言っていたが、

それはない」


 渡瀬は無表情のまま見てくる。

視線を返しながら話を進める。


「……君は代わりにはなれないんだ」

 深く息を吐く。


「それは、俺がまだ未熟だからですか?」


「いや違う。もうあいつは死んだから。

あの時に味わえなかった達成感や、あいつにしてやりたかったことは、他の誰かじゃ補えないんだよ。

到底リベンジなんて出来ない。


 そして、誰かの代わりとか中途半端に君を見てない。

渡瀬君は渡瀬君として見てるから。

それだけわかってほしかった」


「わかりました」

渡瀬がぽつりと呟く。

無表情を決め込んでおり感情が読み取れない。


「ただ、新人指導をしてると思い出すことはあるよ。

最近はあまり思い出すことはなかったのに。

 こんなふうに教えてたなとか、ここで笑ってたなとか、

なんで助けてやれ……」


 そこまでで言葉に詰まる。

この話になると、やはり込み上げてくるものがある。

 話しながら、思い出さなかっただけで忘れてはなかったことを思い知らされる。


 呼吸を数回して息を整え、続ける。


「夢に見ることもあった。

本当は見るなら悪夢がいいんだよ、俺は。

 でも夢に出てくるのは、元気な笑顔で仕事しているあいつの姿ばっかでさ、起きた時に現実じゃないってわかって打ちひしがれるんだ。

 悪夢なら、起きた時に現実じゃなくて良かったって安心出来るのにな」



 俺の様子を少し見て渡瀬が遠慮がちに口を開く。

「新人指導、辛いんじゃないですか?」


「……正直辛い」

「じゃあやめた方が……」


 首を横に振り、言う。

「だから、もう二度とこんな思いをしないって決めたんだ。

 担当になったからには、君を一人にしない。

一人で悩ませない。


 ……そして死なせない。

 俺が守るから」


 渡瀬が力ない笑みを浮かべる。

「なんか愛の告白みたいですね」


 初めてこいつの笑顔を見た気がする。

つられて笑みがこぼれる。

「ほんとだな……」


 渡瀬が背を正して頭を下げた。

「さっきはすみませんでした。

新しい仕事覚えるのに毎日余裕なくてイライラしてました。

 成瀬さんに可愛がられてる藤田さん見たら、つい意地悪したくなってしまって」


「フフ……それは藤田が可哀想だな」


「しかも俺、小さい頃から感情を出すの苦手で、いつも『何考えてるかわからない』って言われてました。

楽しいとか嬉しいとか悲しいとか、心で思ってても言葉や表情に出しきれなくて……」


「感情を出せないのは何も悪いことではないさ。

社会では自分の気持ちを出せない場面がたくさんある。むしろ、抑えないといけないことが多いんじゃないかな。

 でもそれがわかってるなら、出していい場面では感情を出せばいいと思うよ。

自分が安心できる場所を見つけれた時とかさ。

意識するだけでも変わってくるんじゃないか?

それより……」


 自然に溜め息が溢れてしまう。

「俺はまた新人の気持ちがわからなかったのか……

君はいつも淡々と仕事してたから、余裕ないなんて思いもしなかった。

やっぱり俺は新人指導向いてないのかもな……」


「そんなことないですよ!」

渡瀬から初めて大きな声が出た。

自分でも驚いているようで、慌てて声を抑えて話す。

「成瀬さん周りに好かれてるし」


「ハハ……嬉しいけど、それだけじゃ指導者には向かないんじゃ……」

「いえ! 大切な事です。

トゲがあって近寄りがたい人には聞きにくいけど、

成瀬さんみたいに人が集まる人には聞きやすいから。

俺、成瀬さんが指導者で良かったって思いましたもん……」


「ありがとう。なんか困ったこととかあったら遠慮なく相談してくれていいからな」

「はい……」


 椅子から立ち上がり窓から外を見る。

もう暗くなっており、ビルの窓やマンションの窓の明かりが目立つ時間になっている。


「さ、帰ろうか」

窓のブラインドを閉めながら、窓を見たまま背後の渡瀬に声を掛ける。

「悪かったな、こんな遅くなってしまって」


「いえ、残業申請しますから。

それに、この会社は残業代が他のとこより高いので、

残業した方がコスパいいんですよね」


「ハハ……ちゃっかりしてんな」


「あと、こうやって時間とって話聞いてもらえて、

……嬉しかったです」

「え?」


 顔を見ようと振り返るが、「お疲れさまでした!」

と、慌てて出て行った。



 ……言えたじゃん、嬉しいって。

「嬉しい」って言葉言われると、言われた方も嬉しくなるんだな。



 部屋から出ると、藤田が近付いてきた。


「あれ? 帰ってなかったんだ」


 もう他の社員は皆帰ったようで、所長室も明かりが消えている。


「成瀬さん! あれはズルいっスよ!

あんなこと言われたら何も言えないじゃないですか……

 他のこと言われてたら、『だけど!』って言い返せるのに、あんなの……」


 歩きながら会話を続ける。

「でもホントにお前のこと好きだし、ああいう風に言ってくれて嬉しかったよ」


「もう〜! そんなこと言ってたら本当に成瀬さんのこと狙いますよ!」


 笑いながら会社から出ると、ガタイのいい若い男がこちらを睨みながら近付いてきた。


「翔太!」

藤田が叫びながらその男の元へ走って行く。


 ああ、どこかで見たと思ったら、前に藤田に見せてもらった彼氏か。


 藤田は離れた所から軽く会釈し、その男と仲良さそうに去って行った。

 遅くなったから心配して迎えに来たんだろうな。

俺に対して睨んでいたのか、遅くなったことに対して怒っていたのかはわからなかったけど。

 

 さあ帰ろう。とても有意義な日になった。

一日のほとんどが会議だったはずなのに、終わってからの方が長かった気がする。



 でも今回の件で、なぜ高橋が俺を指導者に選んだのかわかった気がした。



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