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35歳の俺が上司ざまぁするまでの物語  作者: VANRI


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反省会

 疲れたな……

いや、わかってた。疲れることぐらい。

人に教えるって疲れるんだよな。

でも俺もそうやって育ててきてもらったし、教えること自体は好きなのでこの疲れは嫌ではない。


 まあ教えることでと言うより、緊張もしてたし気を遣って疲れた方が強いかな。



 家に帰って、やや熱めのシャワーを浴びる。

熱さを痛みと感じ、針の雨が刺さって消えるような感覚になる。 

こういう日はこれが不思議と落ち着く。


 風呂上がりにキンキンに冷えたビールを流し込む。

すると腹の底が熱くなり、アルコールが身体に染み渡っているのだと自覚する。



 そこまでしてやっと仕事のことを思い出す。


 まあ今日一日で阿部が「厄介な感じ」と言った理由がなんとなくわかった。

あんな調子で新人研修も過ごしたんだろうな。

阿部が覚えていた位だ、何か言ったのかもしれない。

……いや、憶測はよそう。

今は人の意見ではなく、自分の目に映るあいつを見なくては。




――――――



 それから数日、同じような状態で過ごした。

距離感も付かず離れずといったところ。

 だが、急に本部会議に行くことになり、藤田に新人の対応を頼むことになった。

藤田は快く承諾してくれた。新人指導も何人かやってきたので新人の扱いに関しては俺より慣れているのかもしれない。

 渡瀬も数日経って流れは把握出来ているようだったので、特段問題はないと思った。



 本部会議から高橋と事務所に戻って来た。

事務所のドアを開けると藤田の怒鳴っている声が聞こえてきた。空気がピリついているのが一瞬で伝わってくる。


 高橋が動かないことを確認し、自分の動きをすることにした。


 わかる。どう動くべきか。

高橋が何を求めているか。


 高橋は何も言わず所長室へ入って行った。

 


 近付くと皆の視線がこちらに向けられる。

渡瀬は座っているが、藤田は興奮し立ち上がっている様子。しかも俺の方へは背を向けているため、入って来たことに気付いていないようだ。


 渡瀬と目が合う。だがすぐに逸らされる。


 藤田がまた声を上げる。

「仕事や俺のことは何言われてもいいけど、成瀬さんのことは……!」


 そこまで言うと、皆の視線から俺に気付いたようでパッと後ろを振り返る。


「どうした? 何があった?」


 藤田はなんとも言えない表情を浮かべ口を閉じる。

それを見た渡瀬が立ち上がり、ゆっくり話し出した。


「俺が成瀬さんのこと、『嘘つき』って言ったんです」

「え?」


「だって、新人指導するメリットは『みんなのため』って言いましたよね?」

「ああ……」


「でも本当は、前に死んだ新人の代わりに俺に指導してるんじゃないですか?

 もう一回新人指導をしてその時得られなかった満足感を得ようとしてるんじゃないですか?

リベンジみたいな」


 藤田が即座に反応する。

「いい加減にしろよ! 言って良いことと悪いことが……」

「藤田!」

反射的に藤田に声を発する。


 藤田が怯えと驚きの顔でこちらを見てくる。


 ああ、俺のせいでそんな顔をさせてしまったのか……


「な、成瀬さんは頭にこないんですか?

こんな奴に好き勝手言われて……」

それでも俺に問いを投げかけてくる。


「正直、怒りは感じない。


 ……けど、悲しいな……」


 藤田が渡瀬を睨み、何か言おうとするので腕を軽く掴む。

そして優しく語りかける。

「藤田、俺は大丈夫。ありがとう」


「でも……」

今にも泣き出しそうな顔に変わる。


 それを見て思わず笑みが溢れる。

「俺、お前のそういうところ本当好きだよ」


 藤田は俺の手をパッと振り払い、足早に部屋を出て行った。

それまで様子を見守っていた周りの人間も自分の仕事に戻り始めた。


 藤田の気持ちはよくわかる。

俺自身のことだったから抑えれるが、これが高橋や藤田のことを言われていたら俺も同じようにしただろう。




 さあ次は……


「渡瀬君、少し話をしようか」

渡瀬に語りかける。

 とその時、終業のチャイムが流れ始める。


「ああ、もうこんな時間か。じゃいいや明日で」

「いえ! 今で大丈夫です!」

渡瀬から思いがけない返事が返ってくる。



 ミーティングに使われる小さな部屋に移動する。


 ふと思った。終業時間を越えて拘束したとなればパワハラだろうか……

ま、いいか。残業禁止という社内規定もない。

 それに、選んだのは本人だし。


 とりあえずお互い腰を下ろす。

渡瀬は藤田と違い、取り乱すこともなく淡々としていた。

こういうことに慣れているのか、肝が据わっているのか……


 渡瀬に対し、静かに丁寧に話し出す。

「昔のことは……担当だった新人が亡くなったのは事実だ。

 若い連中は知らないだろうが、報道はされなかったものの会社内では当時大きな事件扱いだった。

ある程度の年数働いている奴は知っていることだ」




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