映画デート
佐伯さんと映画を観に行くことにした。
職場でも会うが、俺はスーツで向こうもそれに準じた服装なので、私服を見ると未だにドキッとしてしまう。髪型やメイクまでいつもと変わると、人混みでは見つけることができないんじゃないかとさえ思う。
娘と子供向けの映画に行くのが好きだった。
内容は正直どうでもいい。
子供は感情をそのまま出してくれるので、
子供客が多いと、感動や驚きの声が映画館内に響き渡り一体感を感じるので、感情が増幅するような気になって気持ち良かった。
大人向けの映画を観に行くのはいつぶりか。
子供が産まれてからは確実に行ってないから6年近くなるんじゃないかな。
今日は映画館前で待ち合わせ。
やはり休日となると人が多い。この中から探し出さねばならない。
せめて待ち合わせ場所は人が少ない所にすれば良かったと思うが、時すでに遅し。
あれでもない、これでもない……と辺りを忙しく見回す。
あ! 見つけた!
背が低いのもあって人混みではすぐに消えてしまう。
人の壁をかき分けて近付いて行くが見失ってしまった。
でも確かこっちの方……
次に見つけた時、誰かと話している様子だった。
相手は……男? 親しそうに話している。
俺が近くに来ていることすら気づかない。
相手が知らない奴なので話しかけづらい。
話し相手が仕事関係である可能性も否定出来ない。
隠れて付き合っていると、こういう所で不便が出てくる。
今の事務所の奴ではないから、異動先の知り合い?
それとも学生時代とか?
本当に仲が良さそうに見える。
前の彼氏とか、はたまた兄弟や親戚パターンもあるのかな。
メッセージを送ったけど読んでもらえない。
男性と別れるとすぐ目が合い、こちらへ駆け寄って来た。
「もう始まる時間ですね! 急ぎましょう!」
と足早に映画館の中へ向かう。
どんな関係なのか聞きそびれてしまった。
その後もギリギリ上映時間で余裕がなかったため、そのまま鑑賞を始めた。
だが、さっきの男が気になってちゃんと映画の内容が入ってこない。
映画を見終え、外に出るともう暗くなっていた。
佐伯さんは感想をあれこれ話し出した。相槌を打ちながら駅まで歩く。
人通りが多く、ぶつからないように気をつけながらも話し続ける。次々に人が行き交うので、話の内容が人の耳に止まらないのもいい。
話が一通り終わったので疑問をぶつけてみた。
「……あの男の人って誰?」
「え? ……映画に出てた人ですか?」
「いや、映画館に入る前に話してた人……」
佐伯さんは考える様子を見せて歩調が遅くなる。
ウザいと思われた?
こんな年になってガキみたいに他の男のこと聞くなんて……
目を見開いて俺を見上げてくる。
「ああ! 前の職場の同期です!
会うの1年以上ぶりでつい話が弾んでしまって……」
また歩き出し話し続ける。
「なんだ〜見てたんですか〜。
話しかけてくれて良かったのに〜……」
だが突然足を止め、いたずらっ子のような表情をして見つめてくる。
「もしかして、ヤキモチですか〜?」
「え! いや、その……」
慌てて目を逸らして溜め息と一緒に小さく呟く。
「そうかも……」
佐伯さんがフッと笑い、腕を握ってくる。
「嬉しい」
頬がほんのり赤くなっているのが可愛い。
大通りを抜けると、人の流れが一気に少なくなる。
ぽつりぽつりとしか歩いておらず静かになる。
「成瀬さんは私のことをどう思ってるのか気になってました。
私ばっかり想いが強くて、優しいからそれに付き合ってくれてるだけなのかなとか……
私のこと可愛いと思ったことないんだろうなって……」
「え……」
思わず足を止める。
そう言えば元嫁にも感情表現が足りないって言われてた。
「思ってるよ、可愛い……とか。
もう付き合う前から数え切れない位思ってたし……」
佐伯さんが腕にしがみつき、食い入るように俺の顔を見てくる。
「本当ですか!?」
「え……うん……」
恥ずかしくてそっぽを向いてしまう。
「良かったです。死ななくて」
「え?」
「あ、いや、死のうとしてた訳じゃなくて、
生きてて良かったなって。
成瀬さんに可愛いって思われたことない、って思ったまま死ななくて良かった」
また歩き出し、前を向いたまま会話を続ける。
「そういうところも……可愛いと思うよ……」
もう恥ずかしくて顔を見れない。
自分で顔が赤くなってるのがわかる。
夜の暗さに救われている。これが昼間ならどんなに恥ずかしいか。
何やってんだいい大人が、と自分にあきれてしまうが悪い気はしない。
「やっぱり優しいですね」
顔を見なくても笑っているのがわかった。
そしてその夜は今でで一番盛り上がったのは言うまでもない。




