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35歳の俺が上司ざまぁするまでの物語  作者: VANRI


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IT企業の社長

 新規の契約をするために訪問に行くことになった。

IT関係の会社らしい。何故か俺を指名してきた。

 そんな会社に知り合いはいないはずだ。

そもそもなんだIT関係って。よくわからん。


 事務所に入ると観葉植物がところどころに置いてあり、中央の壁一面に大きなスクリーン。そこにグラフの映像やら、見たことがないキャラクターやら次々と映し出されている。


 フロアは壁がなく一帯が見通せるようになっており、机の仕切りもない。外に向いてテーブルが置いてある場所もあり、まるでカフェのよう。デスクトップのパソコンは一台くらいで、他はノート型パソコンを小脇に抱えて移動している様子。


 フロアの角にあるソファへ誘導される。

社長室などないのだろう。


「すみません、お待たせしました」

社長らしき青年が白い歯を見せながら現れる。

 黒髪の短髪、口髭を生やしているが、整えられているためか清潔感がある。小脇にパソコン。ラフな格好だが実は高価な服なのかもしれない。

 事前に調べた情報では、三年くらい前に20代の若さで起業したとあった。

 俺より若いが堂々としている。自信の現れだろう。


「社長の今井です」と、名刺を渡されるので、立ち上がり名刺交換を行う。


 でも、なぜ今新しいコピー機を導入するんだろう。

今現在もどこかと契約しているはずだが。


 IT関係ということなので、おすすめのオプションやネットにどう対応しているか、どんな機能があるかを説明する。

 顔を見ればわかる。難しい言葉を使ってみるがちゃんと理解できている。さすがIT。


 話が一旦終わったので、疑問をぶつけてみる。

「ITってどんなお仕事をされてるんですか?」


 少し驚いた顔をされてしまう。


 しまった。失礼な質問だったか?

確かに、この会社のことを調べてないと言っているようなものだ。


 俺の心配をよそに、すぐ微笑みを浮かべ語り出された。

「そうですよね、製造とか塗装とかって会社名にあればわかりやすいんですが、どうしても我々はカタカナの会社名だったりするからわかりにくいですもんね。

うちは、こんなアプリを開発したりしてます」

と、パソコンからわざわざアプリを開いて見せてくれる。


 年配の社長たちと比べ偉ぶった態度もなく、気さくに話してくれ好感がもてる。

 左薬指に指輪が光っているのに気付く。


「ご結婚されてるんですね」

「……ええ、最近ですが」


 ハッとして思わず口に手をやる。

今井……なぜ気付かなかったんだ。仕事に集中するにも程がある。離婚後の家の売買についてのやり取りの時に、一度この名前を見た覚えがある。

 ちゃんとアンテナを張ってれば、俺を指定してきた時点で気付けることだったんじゃないか……



 こいつは元嫁の結婚相手で間違いない。

会うどころか、写真も見てなかったから気付くのが遅れた。


 しまった、全部顔に出してしまった……

ゆっくり今井の顔に目を向ける。


 全て察した笑顔を返される。

「綾乃も花音(かのん)も元気にしてますよ」


 まさか仕事中に元嫁や娘の名前を聞くとは思ってないのでわかりやすく動揺してしまう。


 そのままの笑顔で話し出される。

「貴方に会って話がしてみたかったんです。綾乃に言っても全然とりあってもらえなくて」


 元嫁は俺より3つ下だから、この男とは同じ位の年で話も合ったんだろう。そして、こいつと会って欲しいとは言われてない。まあ、言われても断っただろうが。

 待て……何が目的だ?

奪われた側ならまだしも、奪った側が?


「僕のこと、どう思ってますか?」

「……え?」

「客だからって遠慮しないで言ってください。

言われたところで契約破棄したりしませんから」


 何故ずっと笑顔でいれるのか不思議になる。

肝が据わっているのか、何も考えていないのか。


「わかりました……

では……。正直いい気はしないです。貴方の口から嫁……いや元嫁や娘の名前が出てくるのは」

「そりゃそうですよね……」

今井の顔から笑顔がすっと消える。


「貴方のことがきっかけで離婚しました。

……けど、それかきっかけになっただけのこと。

遅かれ早かれ同じ結果になっていたと思います」


 今井は何も反応せず俺の話を聞いている。


「貴方をフォローするつもりはないです。

ただ世の中には、浮気を許してやり直す人間もいるんだから、それが出来なかったということはそういうことだろうと思います。

少なくとも俺はそれを許容できる程、人間が出来てはいなかった」


「申し訳ありませんでした……」


 さっきまでと真逆の消えそうな声に耳を疑う。

「最初は結婚してるって知らなくて、それでもわかった後も離れきれなくて……ご主人に悪いことをしたなって、謝りたいってずっと思ってました……」


「そうですか、もう終わったことですので。

それでは失礼します……」


 許すとも許さないとも言えない。

言いながら立ち上がろうとすると腕を掴まれる。


花音(かのん)に会わないんですか?」



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